第11話 スズカの冒険
サスケが新たな仲間となった。
「サスケも何か武器が必要か?」
「私にはこの羽があるので大丈夫です」
確かにさっきのモンスターの羽は鉄みたいに硬い。サスケの羽も同じのようだ。羽を手裏剣のように飛ばしてみせた。 その姿は忍者そのものだった。
地面に刺さっていた羽は何かに使えるかもしれないから持ち帰ろう。
「ガイル、カバンを……ってガイル大丈夫か!?」
「ソラ様……体が熱くて……」
「ソラ、これってまさか!?」
「ピートの時と同じだ!」
ガイルの体が光に覆われ始めた。ピートの時と同じ現象だ。眩い光が収まるにつれ、ガイルの姿が見えてきた。
「ガイル、大丈夫か?」
「はい、問題ありません。 むしろ以前より強くなっている感じです」
腕や足には毛が残っているが見た目はガタイのいい青年の姿だ。見るからに筋肉質で素手だけでも相手を叩き潰せそうなくらいだ。
毛皮の腰ミノや上着のせいかとても野性味がある。
「ガイルもかっこいいね」
「ありがとうございます、スズカ様」
ピート同様、ガイルは人に近い姿へと進化した。 やはり神子の力なのか?
とにかく強くなるのはいい事だ。俺たちもピート達に負けないよう強くならなければ。何よりスズカを守れるくらいには強くなりたい。
そろそろ次のお目当てのモンスターを探そうか…
「サスケ、空から大きな蜘蛛の巣とかないか探してくれないか?」
「承知しました、ソラ様」
「気をつけてね、サスケ」
「では行ってまいります、スズカ様」
小さな翼をはばたかせ、サスケは上空へと旅立つ。偵察をサスケに任せて、スズカ達と休憩をする。
その間何度かモンスターが襲ってきたがガイルとピートが倒してくれた。
やはり2人が倒してもタマゴが生まれる様子はない。神子の特権なのか、それともこれが本来のタマゴが生まれる確率なのか、どっちなのだろう。
(まあおいおい確認していけばいいか)
そうこうしている間にサスケが偵察から戻ってきた。
「ソラ様、白い糸のような物がたくさんあるところを見つけました」
「よし、案内してくれ!」
この森なら蜘蛛くらいいるだろう。 睨んだ通り蜘蛛の巣を見つけることができた。気になるとしたら沢山あるということだ。出来れば大勢と戦うような危険は避けたい?
サスケの案内のもと、目的地へと目指す。以前見かけた蜘蛛のモンスターはまだ小さいものだったが、今回は巣からしてかなり大きいようだ。
(もしかしてまたボス級だったりして……)
「ソラ、あれ見て! 」
スズカが指差す方向を見ると、白い糸がたくさん見える。普段見る蜘蛛の巣とは違い、丸い球状になっている。
「外からじゃ中の様子はわからないな」
「でも蜘蛛はいないみたい」
「とりあえず気をつけて進んでみよう、まずは俺とガイルで様子を見てくるよ」
「わかった」
全員中へ入って全滅は避けたい。
「ピート、サスケ、スズカを守るんだ」
「任せて!」
「了解」
スズカ達を入り口に待機させ、ガイルと2人で奥へと進む。球状の蜘蛛の巣の中は薄暗くてよく見えづらい。板の隙間から差し込む光を頼りに奥へと進む。
しかしモンスターの姿は未だに見えない。
(ここにはいないのか? )
もう少し奥へと進もうとした時、ふとある違和感に気付く。なんだか体がベタベタしている。
体の周りいつのまにか細い糸があることに気がついた。糸の出所を探ってみる。
「しまった! ガイル上だ!」
「う……動けません……」
気づくのが遅れてしまった。細い糸既に俺たちの動きを止めるくらい太い糸へと変わっていた。
あっという間に俺とガイルは捕まってしまった。
「ソラ、大丈夫!? 」
「スズカきちゃダメだ! 」
「でもどうしたら……」
「とにかく今はにげ……」
途端に今度は強靭な糸で体全体が覆われてしまった。口も塞がれて喋ることができない。それになんだか体が麻痺してきた。
どうやら麻痺毒のような効果があるみたいだ。
(普通の糸じゃないのか……まず……)
だんだんと意識が薄れてきた……
ソラとガイルを置き去りにしピート達と一旦その場を離れた。
「どうしよう……2人を助けなきゃ……」
「でもスズカ姉、あいつの糸は見えないよ!」
「見えさえすれば私の羽で切ることができるのですが…」
2人が心配で考えがまとまらない。一度落ち着かなきゃ……一度深呼吸しよう。
うん、頭が冴えてきた。
「あれだけの巣を外から凍らすのもできないだろうし……」
「ゴクウがいれば燃やせるのにな」
今から戻っていたら、ソラ達が食べられちゃうかも。そんなのは絶対にイヤ!
(私がふたりを助けないと!)
まずは持っているものを見てみよう。私にだって何か出来ることはあるはず。
鉄の弓矢、回復用の果物、水筒、さっき取った鉄の羽、どれも使えなさそう。
「どうしよう……」
いつもソラに助からられていたことが改めて実感した。私今までソラの言う通りに動いていただけだ。
私にあるのは魔法だけ。それも冷気を操るというだけな魔法。
(弱気になっちゃダメだ、しっかりしろ私! )
魔法のことをもう少し考えてみる。 スライムを凍らした時のように吹雪を出すことができる。
しかしすぐには凍らないし、攻撃には向いてない。
相手を凍らせる以外に何か使い道がないだろうか。そういえば冷気を操るってことは空気中の水分も凍らせることができる?
「それならもしかすると! 」
「スズカ姉? 」
「スズカ様? 」
「2人とも手伝って!」
準備を整えてさっきの場所へと戻る。
(2人ともお願いね)
入り口から確認する限りやはり何も見えない。ゆっくりと一人で奥の方へと進む。
さっきの様子だと上にいるのかもしれない。そう思い上を見上げるとソラとガイルが吊るされているのが見えた。
(二人とも待ってて! )
頭の中はとてもクリアになっている。冷静、常に冷静に行動するんど。
注意しながら進んでいく。すると急に何かに引っ張られ体が宙へと舞い上がった。
(しまった! でもまだ! )
糸に引き寄せられるにつれモンスターの姿が見えてきた。
さっきのモンスターと同じくらいに大きなモンスターだった。
(体が痺れてきた……やっぱりソラ達もこれで……)
予想通りの攻撃だった。それを見越して口の中に麻痺治しの果物を食べ、麻痺を回復させる。
(このまま痺れたふりをすれば……)
思った通りモンスターは動かなくなったのを見て安心したのか、入り口にいるピート達に気を向ける。
「今だ、当たって! 」
空気中の水分を集めるイメージで魔法を発動した。すると魔法陣から氷の矢がいくつも飛び出していく。
放たれた氷の矢はその全てがモンスターへと命中する。
―キュウウウウウ
モンスターは激しい悲鳴とともに暴れ出す。
「今だよ、ピート、サスケ! 」
「了解! 」
私の合図で二人がすかさずソラ達を助けた。
「スズカ……? 」
「大丈夫、ソラ? 」
「スズカが助けてくれたのか? 」
「うん、まだ動けないでしょ? そこで待ってて! 」
ソラ達が無事なのを確認して、私はモンスターへと立ち向かう。
正直とても怖いけど、みんながいるから大丈夫。
「ピート、サスケ時間を稼いで! 」
「わかった! 」
二人が時間を稼いでくれてるあいだにさっきよりも集中する。今度は小さなやではなく氷柱を作るイメージで……
(これを落とせば倒せるはず)
「二人とも下がって!」
「わかった! 」
モンスターの頭上に大きな魔法陣が現れる。イメージした氷柱が勢いよく現れるモンスターめがけて落下する。
モンスターは落下してきた氷柱に潰れて次第動かなくなっていった。
「倒したの……? 」
「そうだよ! スズカ姉、すごい!」
私が倒したの? 動かなくなったモンスターを見て一気に緊張が解けてしまった。
「ソラ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、サスケ。 それよりすごいね、スズカ!」
「スズカ様、ありがとうございます」
「2人を助けなきゃって……無事でよかった」
安心したのか、涙が止まらなかった。ソラは私のことを抱きしめてくれた。とても安心する……ソラが無事で本当良かった。
ソラのおかげで落ち着くことができた。先程倒したモンスターに目をやる。すると既にタマゴになっていた。
肝心の生まれたモンスターは、下半身は蜘蛛のようだか上半身は女の子の姿だった。
「アラクネだって」
「あなた達がマスター? 」
とても澄んだ声で訪ねてきた。黒色の短い髪と赤色の目が特徴的な女の子だ。
「うん、君の名前はそうね……ライラはどう?」
「ライラ……うん! 」
ライラは嬉しそうに飛び跳ねていた。喜んでくれて私も嬉しくなった。
「よろしくな、ライラ」
「そっちは?」
「ピートとガイル、それにサスケだよ」
「よろしく、ライラ!」
「よろしくお願いします、ライラ」
「よろしくな、ライラ」
新たに仲間となったサスケとライラ、とても手強かった分とても強そうだ。どの子も本当にいい子ばかりで可愛い。
「それじゃあ目的も達成したし、家に帰ろうか! 」
「そうだね……疲れちゃった」
「今日は完全にスズカのおかげだね」
「ピート達も頑張ったよ!」
「もちろん! みんなもありがとな!」
帰りは6人に仲間を増やし、家へと帰る。しかしまだ、夜までは時間があらし、どうせなら寄り道していこう。
「スズカ、さっきの湖に寄って魚を捕まえないか? 」
「いいけど釣竿がないよ? 」
「そこはサスケとライラに任せよう! 」
湖にやってくるとサスケは勢い良く飛び始めた。
ライラも手から糸を出して湖へ垂らした。
「サスケは空から水面に顔を出した魚を、ライラは麻痺糸で触れた魚を釣り上げるみたいだな!」
「2人ともすごい……」
待っている間に少し探索をしよう。スズカには休んでもらい、俺とガイルでその場を離れた。
(せっかく遠くまで来たんだし、何か持って帰りたい)
ガイルと一緒に辺りを探ってみる。すると何か騒がしい声が聞こえてきた。
声の方へと進んでみると、ゴブリンの拠点みたいなものを見つけた。
(モンスターの巣みたいなものか?)
「ソラ様、どうしましょう?」
「あれくらいなら俺たちでもやれそうだ」
ゴブリンは何度も倒してきた。正直余裕だろう。
「やろう! さっきはスズカに任せっきりだし、お前も暴れたいだろ?」
「もちろん! お伴します!」
作戦も何もない。2人で正面から突撃した。
突撃してくるゴブリンたちを避けては斬り、避けては斬りの繰り返しだ。
ゴブリン達は数は多かったもののほとんどが逃げ出していた。
「あっけなかったな」
「そうですね、ソラ様」
「じゃあ早速、箱を開けてみようか」
戦闘中拠点の隅に箱が置いてあるのを見つけていた。ゆっくりと箱を開けると中には本と巻物のようなものが入っていた。
「??の書と、??の巻物だって」
「中は何が書かれているのですか? 」
「それは帰ってから確認しよう」
もしかすると俺にも魔法が使えるかもしれない。そう期待しながらスズカの待つ湖へと戻っていった。
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