第10話 神からのお告げ

 昨日に引き続き、土を集める。昨日かなりの量を集めたがまだまだ足りない。

 ピート達には壁作りをお願いし、4人で土を集める。 リタに作ってもらった鉄のシャベルのおかげで効率よく土を掘ることができた。


「やっぱり道具があると違うね」


「リタに感謝だね」


 スズカが相槌を打つ。


「ソラ! こっち来てみろよ!」


「スズカもこっちこっち!」


 2人に誘われて、2人の元へと駆け出す。辺りはボコボコしていて中々進みにくい。なんとか2人のそばまで近づく。

 するとそこに綺麗な花畑が広がっていた。色とりどりの花達が咲いていた。見たこともない光景に目を奪われる。

 小さな丘には大木が管理者のように花畑を見守っていた。


「綺麗……」


「確かに綺麗だ……」


 俺とスズカは目の前の光景に自然と言葉を零した。


「ひと段落ついたらここでピクニックでもしようか? 」


「それいいアイデアだね! 」


「確かに!」


 チエとタイチが即答した。こんなところでピクニックなんて開放的で気持ちが良さそうだ。スズカなんてまだ見惚れている。


「それじゃあ引き続き頑張ろうか!」


「おー!!」


 みんなで気合を入れて、作業場へと戻る。花畑に癒されたおかげか先程よりもやる気に満ち溢れていた。

 ふと先程まで居た場所に目をやる。 そこには二足歩行のトカゲ……いわゆるリザードマンのようなモンスターがいた。


「ソラ、どうする? 」


「ちょうどいい、リタの作った武器を試してみよう」


「チエ達は下がってろ」


「タイチ、気をつけて! 」


 2人を下がらせて、タイチと2人でモンスターに立ち向かう。リタに作ってもらった刀とタイチ用の大剣はかなり立派なものだ。


 実際、刀も持つのは初めてだがやるしかない!


 ―キュウウウウウ!


「かかってこい!」


「俺が引きつけるから、トドメは任せた!」


「おう!」


 タイチにトドメを任せて、先ず一対一で戦う。 モンスターの爪や尻尾に気をつけながら、少しずつ切りかかる。

 モンスターが腕を振る度に体のそばを鋭い爪が通り過ぎる。慣れてきた事もあり、モンスターの攻撃を軽々と避ける。

 リタ製の刀を振るうたびに、モンスターに確実にダメージが入っていく。金属で出来ているはずなのにとても軽く使いやすい。


(確か軽めの鉱石を使ってるから壊れやすいって言ってたな……)


 刀で攻撃を受けるのは不味そうだ。そのためモンスターの攻撃を紙一重で避けながら、隙を伺う。


 モンスターは間合いを取りながら攻撃を繰り返してきた。中々隙を見せない。しかしだいぶダメージが溜まっていたせいかモンスターはよろけた。


「いまだ!」


 すかさずモンスターの足を斬りつけ転ばせる。


「任せたぞ、タイチ!」


「うおりゃあああ!」


 タイチは大剣を振りかぶり思いっきり振り下ろした。重い一撃がモンスターはきれいに真っ二つした。


「すごい切れ味だな! この武器があればなんでも倒せそうだ!」


「確かにな! リタに感謝しておけよ?」


「2人ともすごいね」


「ボクも暴れたい!」


「それは今度! まずは家を作らないと!」


 暴れたいと駄々をこねるチエをなだめながらふとモンスターの死体を見る。このままでは土集めの邪魔になる。

 モンスターの死体を動かそうとすると、もはや見慣れた光を放出しだした。


「またか! 」


「今度はどんなモンスターだ!? 」


 タイチは期待を込めて叫ぶ。

 モンスターはタマゴとなり、小さなリザードマンが生まれた。


「ご主人様、私……」


 そこには先程よりも一回り小さなリザードマンがいた。体は茶色に近い鱗で覆われ、鋭い爪が特徴的だった。


「君の名前はソーカだ」


 タイチがすかさず命名した。 どうやら一目見て頭に浮かんだらしい。 こういう時の判断力というか瞬発力は俺にはないもので。素直に尊敬している。


「ソーカ……ありがとうご主人」


「よろしくね、ソーカ!」


 思わぬところで仲間が増えた。それにしてもこんなにタマゴが出て良いものなのか。確か最初の説明では稀にと言っていた気がする。

 ふとそんなことを思いながらソーカも加えて、沢山の土を集める作業を再開した。ソーカは穴掘りが得意らしく、自慢の爪で沢山の土を掘り返してくれた。


 ソーカのおかげでかなりの土を早く集めることが出来た。 体力の土を持って拠点へと戻るとまた何軒か家が出来ていた。

 灰色の壁は土が乾燥して固まっただけだが、骨組みもしっかりあるし中々丈夫に出来ていた。


 当初の予定より早く家を建てることが出来た。残すはガイル用の少し大きめの家だけだった。


「申し訳ありません、私のために……」


「気にするなよ、仲間だろ? 」


「ありがとうございます」


 ガイルは俺のことを慕ってくれている。みんなもそうだ。元の世界ではなるべく中心から避けように生きていた。 しかし勇気を出してやってみると意外と気持ちのいいものだ。


 先程みんなで集めた土を使い、あっという間にガイル用の家が完成した。 他と比べるとかなり大きめだがガイルにはちょうどいいサイズだ。


「完成だ! みんなお疲れ様! 」


「疲れたー、でもかなりいい出来なんじゃない?」


「みんなの分の家が作れてよかったね、ソラ」


「こう見ると、拠点って言うよりは1つの村みたいだな!」


 言われてみれば確かにそうだ。はじめの頃は本当に何もなかった。それがモンスターから得た素材や、仲間達の協力を経て1つの村が完成した。


(仲間を増やして村を大きくする、そんな目標もいいかもしれない)


 密かな目標を自分の中で立てた。達成するには1人では絶対に無理だ。 これからもみんなでコツコツと頑張っていこう。


「確かに! もっともっと仲間を増やして賑やかな場所にしたいね!」


 タイチの一言にチエはその気になったようだ。


「そうだね、もしかしたら他の神子たちにも会えるかもしれないし」


 スズカも続いて同意した。


「じゃあとりあえずの目標はこの村を大きくするって事で!」


 みんなの中で1つの目標ができた。 生活にもかなりゆとりが出来てきたし、そう遠くない未来に達成出来るかもしれない。


「賛成! でも村ってことは名前とかどうするの? 」


「うーん、まだいいんじゃないかな? 」


「スズカの言う通り、先ず決めなきゃいけないのはどこに誰が住むかだ」


 みんな素材は同じだがやはり始めの方に作った家の方が少し見栄えが悪い。強度には問題ないと思うが所々ひび割れがある。

 さらにはガイル用の家は確定として、それぞれ2人ずつしか入らない。


「ペアはもう決まりでしょ?」


「私とスズカ、タイチとソラ、それからピートとフウカでしょ?」


「それなら私はガイルと同じがいい!」


「リタは本当にガイルが好きだな」


「すると残りはゴクウとソーカかな?」


 これでペアは決まった。ピートとフウカは言うまでもなく同じ家だ。みんなが何もいなくてもわかっていた。


(あれ? フウカの様子が……)


 少し気にはなったがとりあえずは家を決めよう。話し合いの結果、公平にあみだくじで決定することになった。



「ソラの運のなさを恨むぜ……」


「お前だって、あそこで良いとか言ってただろ! 」


「まあ、初めてのマイホームだしこれからよくしてけばいいか! 」


 ポジティブなタイチが羨ましい。こういう所は見習わないとな。


「確かにな、やっぱり家があるのはいいな」


「やっぱり落ち着くな! 」


 少し狭いながらも周りは壁に囲まれ、屋根もしっかりとある。さらには木で作ったベットもある。

 初めてにしては立派な家だ。


「それより今日も疲れたし、早めに寝ようぜ! 」


「そうだな、おやすみタイチ」


「おう、おやすみー」


 疲れていたせいか、すぐに深い眠りへと落ちていった。




 ここは?

 ふとした浮遊感を感じて目を開けてみる。 するとそこは作ったばかりの家ではなくこの世界に来て初めて訪れた大きな部屋だった。


「やっほー! みんな元気? 」


「ティア様、だから真面目にやってください」


「はーい、今日みんなを呼んだのはお告げを授けようと思ってのことなのです!」


 お告げ? このいい加減な幼女神が?


「実を言うと設定を間違えてね、モンスターのタマゴが落ちやすくなってたんだ」


「まったくティア様は……バレたらまたお仕置きですよ」


「だからバレないようにしようとしてるんでしょー」


 この神は本当に大丈夫か?


「まあみんなも仲間が増えてよかったでしょ? 」


「既にかなりのモンスターが生まれてるみたいですね」


「それでー、ミスったのバレるとまずいからいっそのこと初心様キャンペーンってことにしようと思ってね! 」


 初心者キャンペーンって……この幼女はソシャゲにまで手を出してるな。 本当に神なのか?


「んでね? キャンペーンは明日までだから仲間増やしたいなら明日一日頑張ってね!」


 唐突すぎる! ツッコミたいのに声を出すことが出来ない。


「ただし増えすぎても困るので、明日はパートナー間で最初に倒したモンスター2体までしかタマゴを出さないようにします」


「まあ、好きなモンスターを仲間にできるって事で! いわゆる確定ガチャ!? 」


「黙ってください。 明後日以降はタマゴはかなりレアとなりますのでご注意ください」


 二体までか……どいつを仲間にするか考えないと。


「ちなみに今後も何かあればこのようにお呼びいたします」


「夢の中で神と話すなんて最高でしょ?」


「ティア様は黙っていてください、皆さんもう結構死んでおられる方もいるみたいですが気をつけてください」


 そういえば不死身なんだっけ?

 痛いのは嫌だし死なないようにしていたから忘れそうになっていた。


「共通の記憶とはつまり、前回の私の説明すら忘れるということです。 その意味を考えてくださいね。私がお伝えしたルールは絶対です」


 前回の説明……つまり俺たちが離れると消滅するというルールを忘れること?

 それは確かに気をつけないと……


「それと、言い忘れてましたが貴方達は不老です。 この世界がどうなろうと貴方達はずっとこの世界に居続けることとなりますからご注意を」


 それに関しては今のところ大丈夫だな。


「それでは皆さんの活躍をお祈りします」


「またね! 」


 不意にまた浮遊感に襲われる。二度目なので大した驚きはない。 慣れは大事だ。


 気がつくと作ったばかりの家の天井が見える。 外の様子をみるとどうやら朝になっているようだ。


 全員が村の中心にあるたき火へと集まる。


「みんな同じ夢を見たか?」


「ああ」


「私も」


「ボクも」


 俺にはどうしても仲間にしたいモンスターがいる。 タイチ達にもいるみたいだ。


「俺は鳥と蜘蛛とモグラのモンスターを仲間にしたい」


「ソラ、どうして蜘蛛?」


「リタ曰く、蜘蛛の糸を加工すれば布が作れるらしいんだ。 それで服とか作れないかと思って」


「いいね! ボクも新しい服欲しい!」


「私も裁縫とかなら任せて!」


 やはり女の子だ。色んな服を着たスズカを見てみたい。


「俺はスライム! 」


「あんた、変な事考えてないでしょうね」


 ダンジョンでのことを思い出す。


「ソラ、何を思い出してるのかな?」


 スズカが無表情で睨んでくる。とても視線が痛い。


「なんでもないよ! それじゃ手分けするか」


「俺とスズカで鳥と蜘蛛を、タイチ達はモグラとスライムを探してくれ!」


「他のモンスターに襲われたらどうする? 」


 確か最初の二体がタマゴになるということだった。なら前から気になっていた事を試してみたい。


「倒してもいいけど、ピート達にトドメを任せてくれないか?」


「? とりあえずわかった!」


 神子が倒すとタマゴになるのか、それとも誰でもいいのか、どちらかがずっと気になっていたのだ。



 お目当てのモンスターを探しにいく準備を進める。

 こっちのメンバーは俺、スズカ、ピート、ガイルだ。

 タイチ達はゴクウとソーカ、それからリタだ。


「チエはフウカと一緒に留守番しててくれ」


「ボクも行きたい! 」


 行きたがるチエを抑え、小さな声で話しかける。少し前から気になっていたがそろそろどうにかしないと。


「ピート曰く、最近フウカの元気がないらしいんだ」


「そうなの? ボクの前では全然元気だったけど……わかった、ちょっと話してみる」


「頼んだよ……それじゃ皆んな行こうか!」


 フウカのことはチエに任せて、拠点を後にした。



 スズカ達と共に森の奥へと進んでいく。俺は刀、スズカには鉄の弓矢、ピートには鉤爪、ガイルには立派なハンマーがある。


「リタの武器はどれもすごいな」


「特にガイルのは気合が入っているね」


「いいなー」


「リタには本当に感謝してます、ただ毎晩寝てる時にくっついてくるので困ってます……」


「ラブラブなんだね、ガイル」


「ご主人様、からかわないでください……」


「そうだ、ずっと気になっていたんだ、そのご主人様っていうのはやめないか?」


「私も思ってた」


 せっかくの仲間なんだ。ご主人様じゃなく普通に名前で呼び会いたい。前の世界でも上下関係が嫌いで先輩、後輩関係なく名前で呼び合ってたからずっと違和感があった。


「俺たちは仲間だろう、だから名前で呼んでくれ」


「しかし!? ……わかりました。 ソラ様、スズカ様」


 様はいらないんだけど、これはガイルの個性だしいう必要もないな。


「じゃあ僕は、ソラ兄とスズカ姉で!」


「ピート! 」


 スズカはピートのことを抱きしめた。姉と言われたのが余程嬉しかったんだろう。

 ピートも見た目はかなりのイケメンな青年になったが俺たちの前ではまだ子供みたいな感じだ。


「でもピートもフウカと仲良いよね」


「うん! フウカといるととても楽しい! 」


「確かに、フウカも楽しそうだな! 」


「でも最近少し元気なくて心配……」


 そっちの方はチエに任せよう。俺はそっとピートを撫でた。


「それじゃあお目当てのモンスターを探そうか! 」



 とりあえず鳥に関しては当てがある。拠点に流れる川に沿って森の中を進んでいたのだ。目的は1つだ。

 拠点から予想よりも離れたところにそれはあった。少し大きめな湖だ。


「ここなら魚とかいそうだ」


「魚目当ての鳥を狙うのね」


「そういうこと! スズカ頼りにしてるよ」


「任せて!」


 流石に飛んだら取りに刀や鉤爪は意味をなさないだろう。スズカの弓が頼りだ。

 湖近くの草むらに隠れていると、早速鳥のモンスターが魚を狙ってやってきた。


「思ったより大きいな」


「ここら辺のボスだったりして……」


「まさか……」


 モンスターは大きな翼を優雅に羽ばたかせ、上空にとどまっていた。


「いえ、ソラ様。確かにあの大きさは異常です」


 もしかするとここはあいつの狩場なのかもしれない。ふとモンスターと目があったような気がした。

 ワシのような姿をしたモンスターはこちらに気づき襲いかかってきた。


「みんな、避けろ!」


 モンスターは羽を飛ばして攻撃してきた。羽は勢いよく地面や木はと突き刺さる。

 かろうじて避けた俺はモンスターのほうを見上げる。


(なんとかあいつを引きづり降ろさないと! )


 色々考えていると、急にピートが叫んだ。


「ガイル! 俺をあいつめがけて投げて!」


「わかった! いくぞピート!」


 ガイルはピートを抱え上げ思いっきり投げ飛ばした。凄まじいスピードでモンスターへと突っ込んでいく。

 ピートはモンスターへ近づくと体を反転させ、そのままモンスターへと飛び乗った。


「ピート! 気をつけて!」


「大丈夫! 凍っちゃええぇぇぇ」


 ピートの魔法によってモンスターの翼は次第に凍り始めた。片翼を失ったせいか飛ぶことができずに落下してきた。


「よし、これなら! 」


 すかさず俺とガイルでモンスターに攻撃する。

 落下した際の一瞬の隙にガイルの重い一撃が頭に入り、そのあと俺の攻撃でモンスターにトドメを刺した。

 ガイルの一撃が効いたのか、意外とすんなり倒せてしまった。


 そしてモンスターの死体は幼女神の言った通り、タマゴへと変わっていった。


「さてどんな姿かな? 」


 タマゴが割れ始める。 すると中から子供サイズの二足歩行のモンスターが生まれた。

 全身真っ黒な姿だが腕は翼のようになっていた。スズカ同様にクールな印象を受ける鳥人のようだ。


「アサシンホークだって! 」


「あなたが私の主人ですか? 」


「そうだよ、名前はソラ、こっちはスズカ」


「僕がピートであっちがガイルだよ!」


「皆さま、よろしくお願い致します」


「君の名前を決めないとね……うーん……忍者みたいだしサスケはどう? 」


「サスケ……気に入りました」


 スズカの命名が気に入ったようだ。スズカに対して深く御礼をしている。ガイルには引き続き礼儀正しい。

 確かに俺も親からのしつけのせいで変に礼儀正しいところがあるし、そのせいかな?


「じゃあサスケ、これからよろしくな!」


「はい、主人様」


「ソラでいいよ、スズカもね」


「わかりました、ソラ様、スズカ様」


 礼儀正しすぎる。俺の特性か? でもリタは全然違うし……まあいっか。



 当初の目的通り、新しい仲間がまた増えた。

 この調子でもう1つの目標である蜘蛛のモンスターも見つけ出そう!

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