第9話 初めてのマイホーム
ダンジョンからの帰り道、みんなの足取りは重かった。ずっと気を張っていたせいもありとても疲れていた。
いつも元気なピートでさえ、元気が無く少し心配になった。
「ピート大丈夫か? 」
「平気、へいき……」
言葉とは裏腹にピートは突如苦しみだした。 ピートだけではなく、フウカも同じような症状に襲われていた。
「ご主人様……身体が熱い……」
「ピート、しっかり!」
「フウカ、 どうしたの!」
スズカとチエは心配そうに2人に話かける。しかし2人はそれに答えるだけの余裕はなさそうだ。
「タイチ、水筒を取ってくれ! とりあえず2人を冷やす!」
「わかった! ほらっ!」
「スズカ、チエ! これで2人の身体を冷やして!」
「わかった!」
何が起きたのか分からない。 直目の前で苦しむ2人をなんとかしなければ!
「マスター、大丈夫だよ」
ふと、リタが囁きかけてきた。
「何か知ってるのか?」
「うん、これは多分……」
リタが喋り終わる前にピート達から眩しいほどの光が放たれた。
「何が起こってるの……? 」
「これは進化だよ」
「進化って? 」
進化といえば、姿が大きくなりより強くなるイメージがある。
ピート達が大きくなる? どんな姿になるんだ? 不安から一転、俺の心は期待へと変わっていた。
次第に光が弱くなっていき、ピート達のシルエットが見えてきた。
「ピート達が立ってる……」
「フウカ、あなた……」
スズカとチエはとても驚いていた。それもそのはずだ。
今までそこにいたハズの小さくて可愛いものはそこにいなかった。そこには明らかに人の形をした何かが見えたのだ。
「ワーウルフだって……」
「フウカはハイエルフだって……」
フウカの方はマンガで良く見かけるエルフそのものだった。長くて細い耳、整った顔立ちは高貴な印象を受ける。 金色の長い髪がとてもよく似合っている。
薄い布のような服を身に纏うことでより清廉さが際立っている。
一方ピートの方は狼の耳と尻尾は残っているものの、顔立ちに幼さはなく、とてもイケメンだ。 身体は俺やスズカと同じくらいだが肩幅なんかはしっかりとあってとても強そうだ。毛皮で作られた服をまとい、勇敢さが感じられる。
「ご主人様、僕たちどうなったの? 」
「ピート、私たちご主人様みたいな姿になったみたい……」
「本当に!? 」
ピート達は自分達の姿に驚きつつも、俺たちと同じような姿に慣れて嬉しそうだ。 それにしても順応が早すぎる。
急に二足歩行に変わったというのに既に飛んだり走ったりしている。
「フウカ、綺麗……」
「確かに……見惚れちまった」
「ピートもカッコいいよ」
「大きくなったな……」
2人はとても照れてる様子だった。 それにしてもまさか人型に進化するとは……これも神子の影響なのか?
だとすると、ガイルやゴクウも同じような進化をするのだろうか。
2人の進化を喜びつつ、ダンジョンを後にして全員で拠点へと帰ってきた。
「ガイル、ただいま! 」
「おかえりなさいませ、ご主人様! 」
「ご主人様、この人は? 」
「こいつはガイルだよ、リタ。 とっても頼りになる仲間だよ」
「新しい仲間ですか? 私はガイルと申します」
「カッコいい……」
リタがガイルに見惚れている。完全に目がハートになっていた。実際にはハートではないがそう表現するのが1番しっくりくる。もしかして一目惚れってやつなのか?
ピートとフウカも側から見れば恋人みたいだし、異種族とか関係ないのかな?
「それよりもご主人様、そちらの2人も新しい仲間ですか? 」
「違うよ、ガイル。 この2人はピートとフウカだ」
「ピートとフウカ!? しかしその姿は……」
「進化して姿が変わったんだよ、ガイル」
「あまり見ないでください……」
「これはすみません……驚きました」
「それよりもお腹すいたー」
チエの一言で全員が空腹であることを思い出す。ダンジョンでは集中して忘れていた。体もなんだか重く疲れ切っていた。
「確かに色んなことが起きすぎて腹が減った」
「それでは皆様、休んでいてください。私が準備致します」
「私も手伝う! 」
「ありがとう、ガイル、リタ」
2人に食事の準備を任せて各々拠点で休んでいた。タイチとチエ達はピートの耳や尻尾を触って遊んでいる。
「ソラ、ちょっといい? 」
「どうしたの、スズカ」
「あのね、仲間も増えてきたしこの拠点だけじゃちょっと狭いような気がして……」
「俺もそう思ってた。 だから明日からちょっと拠点を整備しようかと思って」
「いつも頼ってばかりでごめんね……」
「そんなことないよ。 今日だってスズカに助けてもらってばっかりだし」
「少しは頼ってもいいんだよ? ソラはどこか背負いこんじゃうような気がする」
スズカは本当に優しいな。確かに言われてみればそうかもしれない。クールで冷たい印象だけど、みんなの事を常に気遣っている。そんなスズカだからこそみんなから信頼されやすいんだろう。
「皆さん、食事の用意ができました」
「なんかすごくいい匂いがする! 」
「ガイル、この鍋どうしたんだ!? 」
そこには拠点にはあるはずのない、金属でできた鍋があった。 鍋の中には色々な薬草や肉が入ったスープがたっぷりと入ったいた。
「リタが作ってくれました。 料理は以前ご主人様に聞いた作り方を参考にしました」
「ダンジョンで銅鉱石を拾ったから、魔法の鍋を使ったの! 」
「ガイル、少し教えただけなのにすごいよ」
「リタも頑張ってくれてありがとう! 」
2人の頑張りで美味しいものを食べることができた。 そのおかげかダンジョンの疲れも忘れ、全員が美味しそうに食べている。
鍋のギリギリまであったスープはみるみるうちに減っていく。
「ご主人様、これ使いにくい……」
「ピート達にはまだスプーンとかは使えないか」
「練習あるのみだよ、ピート」
今までは単純にかぶりついていただけなのだ。 それが急にスプーンで食べるなど難しいだろう。 しかしピートは諦めず、スズカの優しい声に励まされ練習を続けていた。
フウカはチエに教わりながら少しずつ上達していった。
鍋の底が顔を見せる頃には、2人は食器の扱いに慣れた様子だった。
ピートはスズカにべったりとくっついている。 スズカもそんなピートが可愛いからかずっと頭を撫でてあげていた。
「スズカはピートのお母さんだね」
「お母さん……」
スズカは何か思い出したのか、少し暗い顔してうつむいた。
しまった…何か嫌なことでも思い出させてしまった。
なんとか話題を変えようとみんなにさっき話した話をした。
「そういえば仲間も増えてきたし、この拠点を広くしようと思ってるんだ」
「いいね! 」
「はいっ! それならお願いがあります!」
「どうしたんだ、チエ? 」
「そろそろお家が欲しいです! 」
「確かに雨とかはそんなに降らないから大丈夫だけど、ずっと野宿はつらい……」
スズカもチエの意見に同意した。 どうやらうまく話を切り替えれたようだ。
「そうか? キャンプみたいで俺は楽しいけどな!」
「あんたは黙ってなさい! 」
2人の痴話喧嘩が始まった。
それにしても確かに家があれば安心する。雨風がしのげるだけじゃなく、気持ち的にも安心するだろう。
しかし問題は作り方だ。家を建てるとなるとある程度の知識がいるだろう。
「俺が知ってる作り方は土から作るものしか知らないけどそれでも大丈夫? 」
「よく分からないけど、家と呼べるものならなんでも! 」
チエが元気よく返答してきた。
「私も手伝うから一度作ってみよう?」
「力仕事なら任せろ!」
チエに続き、スズカとタイチも合意する。 全員の意見が一致したんだ。ここまでくればやるしかない。
「それならまずは建ててみよう! 」
「おーっ! 」
とりあえずは明日の計画を立てながら眠りにつく。どんな家にしようか、他にも必要なものはないのかあれこれ考えてみる。
一から色んなものを作っていくなんてRPGではあり得ない。普通はある程度のものはショップで買えるだらう。
しかしこの世界には何もない。自分達の力でなんとかするしかないのだ。
この世界に来てから色んな事を経験している。ただまだ経験していないこともたくさんある。 その中でやっぱりどうしてもやってみたいことがある。
(魔法……使ってみたい……)
ダンジョンでのスズカはかっこよかった。俺もあんな風に魔法ん使ってみたい。夢の中でもいい、そう思いながら眠りについた。
翌朝目が覚めると、みんなぐっすり眠れたせいか誰も疲れを感じていない。元気よく挨拶を交わしながら各々起き上がる。
「なんか、昨日よりも身体が軽い気がする」
「昨日の鍋に疲労が取れる薬草なども入れましたのでその効果でしょう」
早起きして朝食の用意をしていたガイルがいた。
「ガイル!? そんな気配りまで……ありがとう! 」
ガイルは本当に頼りになる。力持ちで気配り上手、ましてやスズカが教えた料理をマスターする腕、野生的な見た目とは裏腹になかなか繊細な仕事ぶりだ。
「それじゃみんな昨日話した拠点の拡張を頑張ろう! 」
「了解です! 」
各自に指示を出し、作業を進めていく。
まずは周りに設置した罠を一度壊す。拡張するためには必要だ。
そして周りに生えていた木をガイルに引っこ抜いてもらう。これでだいぶ見晴らしが良くなるだろう。
抜いた木はフウカの風で切ってもらい加工する。先端を尖らせて、不要な枝を切り落とす。
加工した木はピートに一箇所に集めてもらった。狼の姿では難しい作業も難なくこなしている。
(この木を使って家が建てれたらな……)
そんな叶いそうにない夢を見ながらとりあえず指示を出し続ける。
スズカ、チエ、タイチには粘土質の土を探して集めてもらう。水を含ませることでコンクリートのようにして使うためだ。
みんなが作業をしている間に、俺は硬そうな枝を大量に集め家の骨組みを作る。まずは人が2人入れるくらいの大きさでいいだろう。部屋も1つとかで作った簡易的なベットが2つおける広さだ。
辺りの木をあらかた抜いたガイルにフウカに作ってもらった丸太を拠点を取り囲むように地面に刺すように指示を出した。 川を中心に円を描くように丸太の壁をつくる。
いくつかは門を設置する予定だがいまはとりあえず全てかこってもらい、外敵に備えた。
ガイル達のおかげであっという間に安全地帯が作られた。
一仕事終えたピート達には一緒に骨組みを作ってもらっている。集めた枝を地面に刺し、さらにロープで別の枝を結んでいく。
地道な作業だかピートとフウカの手助けもあり、スムーズに進んでいく。これは元の姿ではできなかった作業だ。
(ピート達のお陰でだいぶ作業が捗ってる! この調子ならあと何軒か建てれそうだ)
最初はぎこちなかったピート達だがこれなら2人に任せても大丈夫そうだ。
それに2人の良い雰囲気を邪魔するのは悪い。
2人に作業を任せて、リタとゴクウの元へといく。2人はダンジョンや帰りの洞窟で拾った鉱石を魔法の釜へと入れていく。
そしてできた金属を使って色々な武器を作っている。 もちろん加工に必要な炎はゴクウが作り、リタが加工する。
昨日のダンジョンのお陰か、ゴクウの炎はかなり強くなっていた。
(みんな頼もしくなってきたな! )
リタ達の仕事ぶりに感心し2人を後にして、スズカ達と合流する。 家の壁となる粘土質の土は大量に必要だ。
3人はすでにかなりの量を集めていた。しかしまだまだ足りない。俺も手伝い、4人で土集めをした。
「だいぶ集まったんじゃないか」
「私もう腰が限界!」
「チエ、顔に泥がついてる」
「うそっ! スズカとってー」
「じっとして……」
「なぁソラ、とりあえずそろそろ運ばないか? 運ぶだけでも大変だぞ……」
「確かに、 じゃそろそろ拠点の方に戻ろうか! 」
全員で持てるだけ土をカゴへと詰め込み、拠点へと帰る。途中どっちが多く持てるかで競いあったせいで無駄に疲れてしまった。
拠点へと戻るま既に丸太の壁で覆われており入ることが出来なかった。これなら簡単に敵が入ってくることはないだろう。
「おーい、開けてくれガイル! 」
「分かりました! 」
掛け声とともに、目の前の丸太が持ち上がる。
「ありがとう、ガイル」
「ガイルも土を運ぶのを手伝ってくれ」
「分かりました! 」
土を持ちながらピート達の元へといく。 すると骨組みがかなりの数作られていた。
どれもそこまで大きくはないが2人が入るには十分な大きさだ。
「ピート、フウカ、ご苦労様! 」
「2人とも頑張ったな! 」
俺とタイチは感心し、2人を褒めた。2人はまだまだ元気そうに他に仕事がないか聞いてくる。
「それなら2人も土を運ぶのを手伝ってくれ! 」
「了解です! 」
2人は手を繋いで元気よく走っていった。 ピートは相変わらずだがフウカもよく笑っている。なんとも微笑ましい光景だ。
全員で土を運び入れ、その土を水と混ぜる。 できた泥を骨組みにくっつけて壁を作っていく。
初めは泥だか乾燥して固まれば立派な壁になるだろう。
とりあえず一軒できれば充分と思っていたが、全員で協力したお陰か夜には二軒建てることができた。
「すごい……家だ! 」
「ソラ、この家少し光ってない? 」
スズカが初めに気づいた。まあみれば一目瞭然だ。
「この前のダンジョンの壁を削ったやつを泥に混ぜてみたんだ」
「色々考えてるんだな!」
「お前とは違うんだよ」
「確かに、タイチじゃ思いつかないだろうね」
俺のからかいにチエが同意してきた。これは例のものが始まる合図となった。
「お前だって同じだろ!」
「なによ!」
「なんだよ!」
「夫婦喧嘩は置いといて、そろそろご飯にしない?」
「確かにそうだね、スズカ」
「だから夫婦じゃない!」
お約束のセリフをタイチとチエはまたまた同時に叫んだ。
それを聞いた俺とスズカは目を合わせ笑い出した。
家を手に入れたせいか、なんだか心に余裕が出来た気がする。 見た目はまだまだ小さいが明日からもみんなの分の家を作ろう。
それに色んな建物を建てよう。
リタ達の工房や、スズカとガイルの調理場、俺たちの武器や道具置き場、畑から収穫した食べ物の保管庫、建てたいものは沢山ある。
これからもみんなで協力して、拠点を住みやすくしよう!
そう決意しながら、明日の作業のために早めに眠りにつく。
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