第8話 ダンジョン奮闘記 其の二
3つあったレバーも残すは1つだけとなった。
「ソラ、押してみろよ」
「じゃんけんで負けたのはタイチだろ? 最後までちゃんとやれ! 」
「あーまだ寒い……」
ボヤきながらレバーに手をかけた。 その瞬間、レバーは勝手に下へと降りた。
すると部屋全体から軋むような音が鳴り響く。 まるで部屋全体が叫んでいるかのようだ。
「おい! 後ろ!」
タイチの声とともに全員が後ろを振り返る。
「壁が崩れてく!? 」
「みんな離れろ! 」
「ピート達もこっち! 」
扉付近の壁がガラガラと音を立てて崩れていく。 砂煙や埃が舞い散り、辺りを覆い隠した。 フウカが起こした風にのって埃達は霧散した。
煙が薄まるに連れて壁の向こう側の物が姿を現した。なんとそこにはまた宝箱が現れたのだ。
「やっぱり宝箱があるじゃん! 」
タイチは大喜びして宝箱へと駆け出す。
「おい! まだ罠の可能性も……」
「大丈夫だって! 」
「タイチやめなよ! 」
俺とチエの制止を無視して、タイチは宝箱を開ける。 タイチはさっきの事でまったく懲りてないみたいだ。 何が起こるから分からない。
タイチが勢いよく宝箱を開ける。 すると……何も起きない。
「なっ? 言った通りだろ!」
満面の笑みでこちらを見てくる。慎重になり過ぎていたのだろうか。
その度胸がうらやましい……
「中には何が入っているの? 」
「大きな鉄の金槌みたいだ」
「これは持てないね」
「タイチの馬鹿力でも無理なら誰も持てないよ」
スズカの言う通りだ。この中じゃタイチが1番ガタイがいい。俺が金槌を持ち上げようとしてもびくともしない。
タイチも試してみるが、引きずって運ぶのがやっとの状態だった。
「じゃあ意味ないじゃん……」
「でもいいもの見れたよ! ご主人様!」
「まぁ確かにな!」
「タイチ、ゴクウ、また凍りたいの?」
スズカの一言にタイチ達は固まった。完全に殺し屋の雰囲気を纏っていた。スズカが本気であることが伝わってきた。
タイチとゴクウはさっきの恐怖が蘇ったようだ。寒くもないのに、体が震えている。
「お前たちも懲りないな!」
「ソラ、貴方も早く忘れなさい」
スズカが微笑みながらこちらを見ている。 笑っているのに目が怖い。スズカを怒らせてはならない……そう心に誓った。
「スズカ、そこの馬鹿達はほっといて次いこ! 」
「そうね、チエ。 ピート、フウカ行こう」
「うん!」
完全に蛇に睨まれたカエル状態だった。3人はその場を動くことが出来ずしばらくの間硬直してしまっていた。
「あの2人、特にスズカを怒らせてはいけない」
俺の言葉にタイチ達は激しく合意を示した。
ようやく硬直していた体が解放され、先に行ったスズカ達に合流して先を目指す。3つあった分かれ道も残すは1つだけとなっていた。
「後は残り1つの道か……」
「やっぱり探索は全部の道を試したいよね」
「マップを埋めるの好き! 」
「でも明らかに行き止まりってわかってるのに進むのって面倒……」
「分かる! でもそういう所にアイテムとかありそうで結局進んじゃう!」
スズカとチエはゲームの話で盛り上がっているようだ。
ピートとフウカは話がわからないせいか2人で盛り上がっている。
「フウカはもっと強くなりたい?」
「もっと強くなりたい ……でもやっぱり怖い」
「ならフウカの分も僕が強くなる!」
「ううん、私も大好きなご主人様たちを守りたい……だからピートみたいに強くなりたい!」
フウカはだいぶ心を開いたくれたようだ。 最初の頃はチエとスズカ以外には全然話そうとしなかった。
今ではピートだけでなく、俺にも話しかけてくれる。
「みんな成長してるんだな」
「ソラ、なんかおじさんみたいだぞ」
「そこはせめてお兄さんとかだろ……」
「ご主人様! 俺も成長してる?」
「もちろんだぞ、ゴクウ!」
タイチとゴクウはまるで兄弟みたいだ。2人ともヤンチャで似た者同士って感じだ? やっぱり大勢でいるのは楽しい。 ましてやこんな世界だ。
もっともっと仲間を増やして色んな冒険をしたみたい!
みんなの声が一斉に止んだ。
目の前には大きな扉がある。扉を今までとは比較にならないほど大きく、魔法陣のような模様が刻まれていた。
どこからどう見てもボス部屋だ。 全員がそう感じていた。
まだ1つしか階層は下がっていないがもうボス部屋が現れてしまってなんだか残念な気持ちになった。
「意外と狭いダンジョンだったんだね」
「それでも楽しかったけどね!」
「確かに……チエの動き凄かった」
「スズカの魔法もね!」
「2人ともまだ終わってないよ。 本番はこれから! 」
何が出るかわからない。大型モンスターなのか……それとも大勢のモンスターなのか…
みんなは何が出るか分からない恐怖よりも、ワクワクの方が強いようだ。
「それじゃみんな行くか! 」
「ピート達も頼んだぞ! 」
「任せて! ご主人様!」
全員が気合を入れ、扉の前に立つ。重そうな扉を全員で力の限り押した。
重音と共に、扉がゆっくりと開く。次第に中の様子が見えてくる。 中は意味でのレンガ出てきた通路ではなく、洞窟のような大きな空間が広がっていた。
初めて神にあった空間ほどではないが、天井がとても高い事はすぐにわかった。
洞窟の中へと進み辺りを見渡してみる。そこには大きな銅像のようなものが立っているだけだった。
「何にもいないの?」
「でもあの像動きそう……」
チエの予感は当たりだった。ドアが閉まると同時に銅像の目が光りだす。
「みんな気をつけろ! くるぞ!」
銅像は大きな音を立てながらゆっくりと歩きだす。一歩踏み出すたびに部屋全体が揺れるようだ。
「みんな踏まれるな! 」
「分かってる! けどどうやって倒すんだ!? 」
「とりあえず攻撃してみるしかないだろ! 」
明らかに効かないと分かっているがとりあえず攻撃をする。すると石で作った武器が全て壊れてしまった。
攻撃した時の音から何かしらの金属で出来ているようだ。
「これ全然歯が立たないぞ! 」
「痛っ! こんなの殴ってたら手が壊れちゃう! 」
「みんな下がって! 」
「待つんだ、スズカ!」
魔法を使おうとしたスズカを静止する。 こんな大きなものすぐには凍らない。
凍りつく前にスズカの方が倒れてしまうだろう。
「ご主人様! こいつ固すぎて噛めない!」
「私の風も効かない!」
「炎も全然ダメだ!」
今できる事を考えろ!
打撃は効かない。 あるものと言えば、風、炎、氷。
(そうだ! あれならもしかして……)
「フウカ! あいつの周りに風を起こせるか!? 」
「やってみます! 」
銅像を中心に風の渦かできる。風は次第に強くなり、風切り音が部屋中に響き渡る。
「よし次はゴクウ! ありったけの炎を!」
「わかった!」
風の渦に炎が巻き込まれる巨大な炎の渦が出来上がる。
「なるほどな」
「ソラは頭いいねー」
みんなも俺の考えに気づいたようだった。 ただし気がかりがある。
スズカの体力というか魔力というか、それがあいつを凍らせるまで保つか心配だ。
「スズカ、大丈夫そう? 」
「やってみるよ、ソラ」
「じゃあお願い…頑張って!」
ゴクウの炎で充分に銅像の温度を上げた。今度はスズカの冷気で一気に冷やす。
冷やされた箇所から銅像は徐々に崩れ始めた。
「フウカ、スズカ! もう少し!」
しかし段々と冷気が弱まっていく。どうやらスズカの限界が近いらしい。
「スズカ危ない! 」
銅像は凍りつく体で強引に腕を振り上げてスズカめがけて振り下ろそうとしていた。
みんなでスズカに駆け寄ろうとしたその時、ピートが大きな声で叫んだ。
「任せて! ご主人様!」
すると今度はピートの目の前に魔法陣のようなものが現れた。 スズカ同様、魔法陣からは冷たい冷気が放たれた。
「ピート、貴方も……」
弱った声でスズカが話しかける。
「ご主人様を守るために強くなるって思ったら使えるようになってたんだ!」
「ピートかっこいいよ……」
「えへへ、ありがとうご主人様! 」
小さかったあのピートが大きくみえる。
「フウカ! 2人であいつを倒そう!」
「うん、ピート!」
2人の風と冷気が合わさり強烈な冷たい風が銅像へと吹き付ける。 銅像はあっという間に完全に凍りついてしまった。
「フウカ達、すごい……」
「俺たちの出番は完全になかったな」
「助かったよ、ピート! フウカ!」
「ありがとうフウカ、ピート」
スズカとチエは優しく2人を撫でた。
2人は照れながらもとても嬉しそうにしている。
俺は凍りついた銅像を落ちていた石で思いっきり殴った。
すると大きな銅像はみるみると砕けていき、後には氷の山が出来ていた。
「よし!これでボスは倒した! 」
「みんなお疲れ様! 」
「初めてにしては楽勝だな! 」
「私は疲れた……」
「今回は完全にスズカとピート達のおかげだな」
本当にスズカ達は頑張った。スズカの頭をそっと撫でる。 自分でもどうしてそんなことが出来たのか不思議だが自然と撫でていたのだ。
スズカも疲れているからか抵抗せずに受け入れてくれた。殴られるかもっと覚悟したいたのだからよかった。
今回、俺とタイチとチエはほとんど何もしていないといってもいい。はじめのモンスターと対峙したくらいだった。
「それよりもボス部屋ってことは何かあるんじゃ……」
唐突にタイチが喋り出したが途中でやめた。突如として銅像の破片達が光り出しからだ。
「おいっこれってまさか! 」
「ボスなのにあり得るの!? 」
「まさかな……」
しかしそのまさかだった。 破片達は1つの塊となりタマゴの形へとなった。
あれだけ巨大だったものが今では小さなタマゴへと姿を変えていた。
「まさか本当にタマゴになるとは……」
「よかったなソラ! トドメはお前が刺したんだろ! 」
「何もしてないけどな」
「まあまあいいじゃん! とりあえず触ってみよっ! 」
チエに急かされて俺はタマゴへと触れる。
タマゴはひび割れ、中からモンスター……ではなく人間の女の子が出てきた。
「子供!? 」
「見た目は完全に人だな」
「ソラ……まさかあんたそういう趣味が……」
「ソラの変態……」
誤解だ! 完全に誤解だ!
しかしどこから生まれたモンスターはどこから見ても人間の子供だ。
灰色のロングヘアーをツインで束ねている。服装は白衣のようなもの羽織っていた。 これにランドセルなんかあれば白衣を着た小学生ってところだろう。
別に俺にはそんな趣味はない……ないはずだ!
「ハイドワーフだって」
「ドワーフ!?」
全員が叫んだ。 ドワーフといえば髭もじゃの小さなおっさんのイメージが強い。みんなもその印象が強いのだろう。ドワーフと言われても誰もピンとこなかった。
「貴方が私のマスター?」
「そうだよ。 君の名前は……」
ふと、視線をスズカのほうへと向ける。自分にはセンスがない事はガイルの時にわかっていた。
命名はやっぱりスズカにお任せしよう。
「貴方の名前は……リタでどう?」
「リタ……リタ!」
リタは嬉しそうに自分の名前を繰り返していた。繰り返すたびに満面の笑みを見せている。
「よかったね、リタ!」
「うん! それよりもマスターそれは? 」
リタは俺が持っていた壊れた斧を指差した。
「これはさっきの戦闘で壊れた斧だよ」
「壊れちゃったの? リタ物作るの得意だから直してあげる! 」
「本当に? ならお願いしようかな!」
壊れた石の斧を渡すと早速修理を始めた。どうやらリタは鍛治スキルのようなものがあるらしい。 この世界にもやはりスキルなどがあるのだろうか。あるとしたら俺たちも習得可能なのか?
あれこれ考えても、今の俺たちに知るすべはなかった。
リタに武器の修理をお願いし、その間にボス部屋を調べてみることにした。ボス部屋には特に広いだけで何も置かれていない。ふとボスが立っていた場所を見てみる、そこにはなんと宝箱が埋まっている。
「みんなこっちに来てくれ! 」
俺は急いでみんなを呼び、埋まっている宝箱を掘り出した。土に埋もれボロボロになっていた宝箱をゆっくりと開けるとその中には釜のような物が入っていた。
釜を凝視すると頭の中にある文字が浮かんできた。
「魔法の釜!? 」
魔法の釜といえば物を入れたら色んなアイテムに変わるってやつか!?これがあれば、もしかすると色んなものが作れるのでは?
こんな便利な物を手に入れてしまうとは……
「マスター、それは鉱物とかを入れると色んな金属や宝石に変えてくれる釜だよ! 」
後ろの方からリタの声が聞こえた。どうやらリタはこれがなんなのか知っているようだった。 なんでも作れるものではなく鉱物などを精錬してくれるもののようだ。
「そうなんだ……それでもすごいな」
「宝石ってことはネックレスとかも作れる? 」
スズカとチエは大喜びしている。俺はオシャレに興味がないが、2人とも女の子なんだ。やっぱり気になるんだろう。
「これがあれば色んな装備が作れるんじゃないか? 」
「誰が作れるんだよ」
「リタ、作れるよ! 」
リタは鉄なども加工できるようだ。RPGで言えば鍛治師みたいなものだ。拠点に帰ったら早速お願いしてみよう!
やはり自分達の装備が整っていくのはRPGをやっていると嬉しくなってくる。それに鉄の装備が手に入れば今やりもっといい生活ができるかもしれない!
「よし! じゃ早く拠点に戻って鉱物集めの準備をしよう!」
「了解!」
今回のダンジョン探索では色々なものを得た。
アイテムだけでなく、経験や信頼もだ。
全員での連携しての戦闘、スズカとピートの強力な魔法、スズカとの距離も前より近くなっている気がする。
帰り道の途中でさっき持てなかった金槌を思い出しリタに話すと、リタなら待てるといってきた。武器を鍛えるのにも使いたいとのことなので寄り道して回収した。
リタは小柄な割にはかなりの力持ちらしい。俺やタイチが持てなかった金槌を片手で軽々と持ち上げて振り回していた。
(もしかしてガイルといい勝負かも)
そんなことを考えながらゆっくりとダンジョンの出口へと向かった。帰り道ではモンスターには一度も会わずに出ることができた。
「もしかすると、時間が立たないと復活しないのかも」
「そうだよ! あのダンジョンはゴーレムの死体から出来たダンジョンなの! 」
「死体から? 」
「そうなの! 」
どうやらこの世界のダンジョンはモンスターの死体に色々な魔力が集まった結果、ダンジョンとなるようだ。
その証拠にダンジョンを出た後に扉をみると、ゴーレムのダンジョンということがわかった。
この世界についてまた知ることができた。
新たな仲間リタを引き連れて、ガイルの待つ拠点へとみんなで戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます