第7話 ダンジョン奮闘記 其の一

 いざ初めてのモンスターへと戦いを挑む。 もちろんゲームのようなターン制やシュミレーション系とはわけが違う。

 自分で考え自分自身が動く、言うなればリアルアクションゲームだ。


「みんな、とりあえずあいつをとり囲もう」


「了解! 」


 モンスターを中心に俺、タイチ、チエで取り囲んだ。

 スズカには遠距離から弓で狙ってもらっている。

 ピートとフウカとゴクウはスズカを守っている。


(これが今のパーティで安全な陣形だな)


 突入する前にみんなで考えた陣形だ。

 モンスターの方も3人に取り囲まれ様子を伺っているようだ。しかし待ちきれなくなったのか、タイチが飛び出した。


「うおりゃあああ」


 槍を構えモンスターめがけて突進をした。

 しかしモンスターは簡単に避け、タイチの背後を取った。


「チエ! 」


 タイチが叫ぶと同時に、チエが飛び出す。


「せーのっ! 」


 モンスターめがけて飛び上がって、後頭部を思いっきり蹴り飛ばした。

 タイチとチエの連携は完璧だった。伊達に今まで2人で冒険してきてるわけではなさそうだ。


 視覚外の不意打ちでよろけたモンスターにすかさずスズカが矢を放つ。


「当たって! 」


 スズカの放った矢はモンスターの片目へと突き刺さる。 スズカの命中率をすでに百発百中に近い。


 ―ガァァァァ


 モンスターの唸り声が部屋中に響き渡る。 ものすごい咆哮のせいで体が動かない。


(やばいぞ、体が麻痺してるみたいに動かない!)


 すると後ろの方からさらに大きな咆哮がモンスターの咆哮をかき消した。


「ウガァァァァァ」


 ピートが大きく吠えていた。

 ピートの咆哮にモンスターは一瞬怯えた。

 その隙を見てフウカとゴクウがカマイタチと火の玉を出した。


 フウカの風がゴクウの火の玉を特大の炎へと変化させモンスターへと襲いかかる。


「すごい……」


 モンスターは炎に呑まれ崩れ落ちるように倒れた。


「倒したのか……」


 タイチが恐る恐る槍で突いてみる。

 するとモンスターは勢いよく跳ね上がり、近くにいたタイチを押しのけチエへと突進した。


「危ない! 」


 とっさにフウカと俺は飛び出し、チエの身代わりにモンスターの体当たりを受けた。


「フウカ! 」


 モンスターが瀕死の状態であることはわかっていた。

 体が小さい分、フウカのダメージは大きそうだ。


「みんなはフウカを! タイチ、俺たちでトドメを刺すぞ!」


「わかった! 」



 タイチと2人てモンスターと対峙する。

 相手の動きはみんなの攻撃のお陰でかなり鈍い。


 俺があいてを牽制し、タイチが槍を刺す。

 ヒットアンドアウェイを繰り返しているうちに、モンスターは今度こそ倒れた。


 普段は倒れたモンスターはその場に死体が残り続けて腐っていく。しかし倒れたモンスターは今までと違い、みるみると崩れていき土の塊となった。


「これはダンジョンの特性なのかな……? 」


「さぁな。 それよりフウカは無事か!? 」


「うん、大丈夫。 ちょっと気絶してるだけみたい」


「よかった……」


 ピートも心配しているようだった。2人は親友のように仲が良くなっている。


 あたりを警戒するが、この部屋にはもうモンスターはいない。


「少し休もうか。 一応モンスターが急に湧くかもしれないし、ゴクウとピートは見張っててくれるか? 」


「わかったよ! 」


 ピートとゴクウに見張りをお願いし、部屋の探索を始める。 はじめに見た何かはやはり宝箱のようだった。


「なぁソラ、これって宝箱だよな! 」


「間違いないね」


「とりあえず開けてみようぜ! 」


「どっちが開ける?」


 もちろん罠の可能性がある。 某ゲームではモンスターだってありえる。

 それはタイチもわかっているようだ。


「じゃんけん、ぽん!」


 急なタイチの掛け声で焦って手を出してしまった。

 タイチはパーで、俺はグー、つまり俺の負けだ。


「急にじゃんけんすると人はグーかパーしか出せないらしいぜ!」


 こいつハメやがったな。 後で覚えてろよ。


 恐る恐る宝箱へと手をかける。どうやらモンスターではなさそうだ。

 ゆっくりと宝箱を開けるとそこには本が入っていた。


「??の本だって」


「なんだそりゃ? 」


 本を開いてみても何も読めない。文字は書かれているがまったく理解できないのだ。タイチにも見せてみるが反応は俺とおなじだった。


「何か見つかった?」


 後ろを見るとスズカとチエが近づいていた。


「??の本ってのがあったんだけど読めなくて」


「見せて?」


 スズカに本を渡すと、スズカはゆっくりとページをめくり始めた。


「本当だ、ボクも読めない! 」


 横からチエが覗き込んだが俺やタイチ同様読めないらしい。


「ちょっとまって……」


 スズカは真剣に本を見始めた。

 もしかしてスズカには文字が読めている?


「雪原の主人……孤狼の吐息……凍てつく風よ」


「スズカ? 」


「……えいっ! 」


 突如スズカの前に魔法陣のようなものが現れ、そこから冷たい冷気のようなものが放たれた。


「あぶねっ! 」


 咄嗟に後ろへと飛び退いて避けた。しかしタイチは間に合わなかったようだ。

 冷気をまともに受けたタイチの体は見る見ると氷に覆われていった。


「冷たっ! さぶっ!」


「すごい! 今のってもしかして魔法!?」


「どうやらそうみたい」


 凍りついたタイチを無視してスズカとチエが盛り上がっている。

 どうやら見つけた本は吹雪の書と呼ばれるものらしい。 しかしスズカが読むと本は氷の塊となり砕け落ちた。


「あの本を読んだおかげで身についたのかな? 」


「そうみたい。 でもみんなには読めなかったんだよな? 」


「適正みたいなのがあるのかな? 」


 3人であれこれ考察してみる。色々な意見を話してると後ろの方からタイチの弱々しい声が聞こえる。


「早く……助けてくれ……」


 ゴクウに氷を溶かしてもらい、なんとかタイチは助かった。

 タイツに保温効果のある果物を渡し、全員の回復を済ませる。


「ごめんね、なんか出ちゃった」


「もういいよ。避けれなかった俺も悪いし」


「ん……ご主人様……? 」


「フウカ! 大丈夫!? 」


 フウカがゆっくりと体を起こした。モンスターの攻撃をまともに食らっていたが、とりあえずは怪我もなく大丈夫そうだ。

 フウカもかなり強いはずだ。 単に当たりどころが悪かったかもしれない。


「フウカ、ありがとうね。 でもフウカはまだ小さいんだから無茶しちゃダメだよ? 」


「ごめんなさい……」


「ううん、助けてくれてありがとう! 」


 チエは優しそうに微笑みながらフウカにお礼を言った。

 チエは活発な印象が強いが、母性とも言えばいいのかとても優しい感じがする。

 その証拠に、フウカはとても嬉しそうだ。


「フウカ……大丈夫? 」


「大丈夫、ありがとうピート」


 ピートも心配だったのかフウカに寄り添う。

 2人は本当に仲良しだな……



 全員が全快したのを確認し、次の部屋へと進む。


「こっちはスライムだっけ? 」


「スライムなら凍らせれば一発なんじゃない? 」


「スズカお願いできる? 」


「わかった、やってみる」



 部屋に入るとスライムがうじゃうじゃといる。


「凍って! 」


 スズカの魔法により、部屋全体にいたスライムはあっという間に凍ってしまった。


「これはすごいな……」


 感心していると急にスズカがよろけた。すかさず体を支える。

 スズカの顔をみると少し顔色が悪そうに見えた。

 初めて魔法を使うせいか、消耗が激しいようだ。どうやら慣れるまではあまり連発はしない方が良さそうだ。


「スズカ大丈夫? 」


「大丈夫だよ、ソラ。 ちょっとくらっときただけ……」


「無理はしないでね」



 凍ったスライム達を踏み割りながら階段を目指す。

 やはり気になるのは踏み割ったスライムが土の塊になることだった。


(どういう仕組みなんだろう……)


 階段を下った先にはまた通路が続いていた。

 少し歩くと今度は細い通路が3つに分かれている。


「とりあえず右から順番に潰していこうか」


「それが一番だな」


 狭い道を全員で並んで進む。先鋒はタイチとチエ、次鋒はおれ、真ん中にスズカが居て後方はピート達にお願いする。


 とりあえずはモンスターもでずに進んでいる。もしかすると通路にはモンスターが出ないのかもしれない。


 さらに奥へと進むと行き止まりとなっていた。


「とりあえずこっちの道はハズレだね」


「それじゃ戻って左の道を行こう」


 さっきの道へと戻り今度は左へと進む。 先程のように行き止まりかと思ったが違っていた。

 奥の方にボロボロの扉を発見したのだ。


「開けるぞ……」


 先頭のタイチがゆっくりと扉を開けるとそこには奥の壁に3つのレバーのある部屋があった。

 それ以外には特に目立ったものは見当たらない。


「罠か……」


「罠だよね」


「罠ね」


 俺、スズカ、チエが声を揃えていう中、タイチは別の言葉を放っていた。


「もしかしたらお宝出現のレバーかも! 」


 たしかにそれもあり得る。

 しかし罠の可能性が高い。


「とりあえずスズカとチエは何かあった時のために下がっててくれる? 」


「気をつけてね、ソラ」


 2人を下がらせてタイチとレバーへと近づく。これだけ離れれば何かあっても大丈夫だろう。


「じゃんけんぽん!」


 不意にタイチへと叫ぶ。さっきとは真逆の結果となり、俺は満足した。


「さっきの仕返しだ!」


「くっそー……」


 悔しがっているタイチを見てスッキリした。やられたらやり返す。できれば倍返しだ!


 タイチにレバーの操作を任せ、自分も一歩後ろへと引く。


「まずはこれだ! 」


 1番左のレバーを思いっきり引くと、レバーが折れてしまった。

 タイチの馬鹿力のせいか、それとも元々古かったのかはわからない。


「おい! 」


「壊しちまった……でも何も起きないな!」


 どうやら本当に何も起きないようだ。とりあえず安心した。タイチはレバーを投げ捨て次のレバーに手をかける。


「じゃあ次だな! 今度はこれだ!」


 今度は真ん中のレバーを押す。しかし何も起きない。

 少しの間の後、後ろから悲鳴が聞こえた。


「なにこれっ!? 」


「気持ち悪い……」


 後ろを見るとスズカ達がスライムのようなものに拘束されている。それどころかスライムの触手のようなものが体中に巻き付いていた。


「ちょっ……このスライムどこ触って……」


「んっ……ダメ……」


 これっていわゆる触手プレイ……?


(って言ってる場合じゃない! 助けないと!)


 スズカ達を助けようと動いた瞬間、手と足を誰かに掴まれた。

 自分もスライムに捕まってしまったと思ったがどうやら違う。


「なんだ!? 」


 振り返るとタイチとなぜか後ろにいたはずのゴクウが俺を取り押さえていた。


「ソラ、害はなさそうだしもう少し!」


「もう少しってなんだよ! 」


 スズカ達を見ると顔が赤くなってきている。スライムの触手が彼女達の体を這いずり回っている。

 やばいこのままだと色々とやばい!


 2人を助けたいのにタイチ達に抑えられて動けない。 こいつらなんて執念なんだ。


「ゴクウ、ソラを抑えろ! 」


「分かってるよ! 」


 こいつら……確かに俺も本当だったら見ていたい。

 でも助けないと!


「いい加減に……して! 」


 突如スズカが魔法を放った。 部屋一面が氷に覆われてモンスター共々、俺やタイチ達が氷漬けにされた。



「タイチ、ゴクウ、あんた達分かってるわよね?」


 タイチとゴクウがチエに正座をさせられていた。 スズカもかなり怒っているようだ。

 そしてなぜか俺も正座をさせられている。


「あんた達、ダンジョンから出たら覚悟しておきなさい」


「待ってくれ! 俺は2人を助けようと……」


 なんとか弁明をした。この2人を前に通じるかは分からないかこのままだと何をされるか分からない。


「ソラはとりあえず許してあげる。 でも今度からはこのバカ2人を倒してでも助けなさい! 」


「はい……」


 とりあえず許されたようで助かった。

 今度からは全力でタイチ達を倒そう、俺のためにも……

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