第5話 騒がしい神子との出会い
倒れ込んでいた2人を起こし、いきなり攻撃したことを詫びる。
2人は安心したのか、せっかく起こしたのにその場に座り込んでしまった。
「悪かったな。また畑を荒らしに来たモンスターかと思って」
「畑!? すごいなそんなの作ったのか! 」
「やっぱり他の人はちゃんと食料確保してるじゃん! それなのにあんたは何も考えず冒険しようしか言わないし! 」
「お前だって冒険したいっていったじゃねぇか! 」
2人の口論をスズカと黙って聞いていた。こういうのを痴話喧嘩と言うのだろう。
この痴話喧嘩を眺めているのもいいが終わりそうもない。
「2人は付き合って何年目?」
唐突にスズカが2人に質問した。 それは火に油を注ぐようなものじゃないのか?
「付き合ってない!!」
2人同時に返した。 完全に息ぴったりという感じだった。
「お似合いな夫婦だね」
スズカに続いて俺も2人をからかった。
この2人はからかいがいがある。 直感的にそう思った。
「夫婦じゃない! ってもういいや」
諦めたのか男の方がゆっくりとこちらに向き直した。女の子の方もこちらへと体を向ける。 2人とも同い年くらいに見える。
「ここ何日か何も食べてなくてな。そんな時に果物がたくさん実っているのが見えてな」
「そうだったのか…俺はソラ、こっちはスズカだ」
「俺はタイチ、こっちのうるさいのがチエだ」
「うるさいのはあんたもでしょ! 」
また痴話喧嘩ぎ始まるかと、チエの鋭い一撃がタイチのみぞおちに決まる。
「お、ま、え……」
タイチはその場に倒れ込んだ。 なかなかいい一撃だ。
「騒がしくしてごめんね。 ボクはチエ、よろしくね」
「それよりもお腹すいているんでしょ? まずはご飯にしない?」
スズカの一言でその場はまとまり、チエを連れて拠点の方へと歩みだす。
「大丈夫か、タイチ? 」
お腹を抑えながらのタイチとご機嫌なチエを引き連れて拠点へと向かった。 その途中でスズカがあることに気がついた。
「チエの首に巻いてあるのってもしかしてマフラーじゃない?」
「気付いちゃった? この子人見知りみたいでずっと顔見せないの」
よく見るとマフラーではなく、フェレットみたいなモンスターだった。
よく見れば分かるがぱっと見ではまったく気づかなかった。
「この子はカマイタチのフウカって言うの! 」
「フウカか……よろしくね、フウカ」
スズカがそっと手を伸ばすと、フウカは恐る恐るスズカの手をそっと舐めた。
スズカもそっとフウカの頭を撫でると、フウカは喜んでいるように見えた。
「スズカのこと気に入ったみたいだね! 」
フウカはとても臆病で人見知りのようだから優しく撫でてあげると心を開いてくれた。
それにスズカとチエもあったばかりとは思えないほど仲良しに見えた。
元気一杯のチエとクールなスズカ、正反対に見えるけど気が合ったのかもしれない。
「なあ、ソラ。 そっちの二体もタマゴから生まれたのか?」
「ああ、そうだよ。 ピートとガイルって言うんだ」
「ガイルと申します、チエ様、タイチ様よろしくお願いします」
「僕はピート! よろしくね!」
2人はいつもの調子でタイチ達に挨拶をしていた。
タイチはガイル達に怯えもせず接している。 度胸があるのかそれとも……いや、初対面の人にこう思うのは失礼だな。
「さぁここが俺たちの拠点だ。 周りは罠だらけだから気をつけて」
「すごい! 立派なキャンプだね!」
「ほとんどソラが作ってくれたの」
「スズカも材料とか沢山集めてくれたおかげだよ」
「それにしても、よくこんなの作れたな! 」
「暇な時に見た動画の内容をたまたま覚えてて見様見真似でやってみただけだよ」
みんなから尊敬の眼差しで見られて少し照れる。 普段注目されることを避けて生きてきたからこういう時どうしたらいいか困る。
「さぁそれよりもまずはご飯にしよう!」
なんとか全員の視線を食べ物に切り替えた。
畑で採れたばかりの果物などをタイチ達に差し出す。 よっぽどお腹が空いていたのか、勢いよく食べ始めた。
「本当にお腹すいてたんだね」
スズカが水を差し出しながら言った。
「本当こいつのせいで餓死寸前だったの! 」
「俺だけのせいじゃないだろ! 」
「まあ落ち着いて、それよりもだいぶ汚れてるようだけど川の方で洗ってきたら?」
2人の様子を見ると何日も彷徨っていたんだろう。 ところどころ泥まみれになっている。
俺たちはたまに川で服や体を洗っていたから、タイチ達の汚れが余計に目立っていた。
「ありがとう! 服とか汚れて気持ち悪かったんだ!」
「私もついでに水浴びしようかな」
「一緒にしようよ!」
女の子の水浴び……ふとタイチを見る。
タイチは何も言わず、ただ頷いた。 俺とタイチがどこか通じ合う気がした。
「ガイル君だっけ? お願いがあるんだけどあそこのバカ2人を見張って置いてくれる?」
「分かりました、チエ様」
バカ2人?もしかして既に俺もそういう扱いなのか?
ふとスズカを見る。
「ソラのエッチ」
スズカの冷たい言葉が胸に刺さる。
まだ何もしていないのにこの仕打ちは酷い!
これは逆になんとしても覗きたくなるがぐっとこらえる。
「大丈夫、俺は畑の見張りをしてくるよ」
「じゃあ俺も手伝うかな!」
「とか言って覗きにくるんじゃないでしょうね?」
「そんなことしねぇよ」
なんとか2人に信じてもらい、その場を離れた。 あらぬ疑いをかけられるところだったがなんとかなった。
タイチと2人で畑へと戻ると改めてタイチが驚いていた。
「それにしてもすごいな!」
「俺もここまでできるとは思わなかったよ。 ほとんどはガイルのおかげなんだけどね」
「確かに強そうだもんな! それにピートだっけ? あいつも強そうだ!」
「確かに2人とも頼りになる仲間だよ」
2人を褒められると何だか嬉しくなる。 これが親バカってやつなのかな?
親バカと言われようが本当2人は強くて頼りになる。
ふとタイチを見ると少し考え込んでいた。
さっきまでとは違い真面目な顔つきになっている。
「なぁソラ、ちょっと相談があるんだけどいいか?」
「言いにくいことか?」
「相談というかお願いというか……実は……」
――キャァァァァ
タイチが何か言おうとした瞬間、遠くから悲鳴が聞こえた。聞こえた方角にはスズカ達がいるはずだ。
あの悲鳴は確実に何かあったんだ。
「チエ達の方だ! ソラ急ごう!」
「わかった!」
立てかけてあった斧を持ち、タイチには石と棒で作った槍を渡し、急いでスズカ達の方へ向かう。
「チエ! 大丈夫か!」
チエとスズカを猿のようなモンスターが囲んでいた。 猿たちはこちらに気づいた様子で威嚇してくる。
「ソラ、助けて!」
遠くの方でガイルとピートが戦っている。
どうやらこいつら結構な数がいるようだ。
しかも、スズカ達を取り囲んでいるため下手に動けない。
「ソラどうする?」
「とりあえず今は動けないな……」
色々考えてみるがいい案が浮かばない。
下手に刺激するとどうなるかわからない。
「どうすれば……」
あれこれ悩んでいると、ふとある事に気付いた。
スズカ達を中心に風が吹いているようだ。
「今だよ! フウカ!」
チエが叫んだ瞬間、スズカ達の周りにいた猿が吹き飛んだ。
フウカの起こした風が猿たちを勢いよく吹き飛ばしたのだ。
「今だ! タイチ!」
猿たちが吹き飛んだのを見てすかさずタイチと駆け出す。 倒れ込んでいる猿たちにトドメを刺す。
混乱に乗じてかなりの数を減らしたがまだまだ猿たちは暴れている。
「こういう時ってだいたい群れのリーダーがいるんじゃないか!? 」
「そう思って探しているんだけど見つからないんだ! 」
周りを見渡しても見つからない。
もしかしたら隠れているのかもしれない。
「ご主人様! そこの木の上!」
ピートが思いっきり叫んだ。
どうやら匂いで群れのリーダーを探し当てたみたいだ!
「フウカ! もう一度お願い!」
「うおーりゃあああ」
フウカのカマイタチとタイチが投げた槍が群れのリーダーへと当たる。
「命中だ!」
リーダーが倒れたせいか猿たちは散り散りに逃げ出した。
「疲れた……」
猿たちは散り散りに逃げ姿が見えなくなっていた。
猿たちがいなくなりタイチと一息つこうとした時、リーダーの死体が光り出した。
「もしかして!」
思った通り、リーダーの死体があったところにはタマゴがあった。 見た感じだとトドメはタイチがさしたように見える。
タイチがタマゴに触れるとタマゴからモンスターが生まれた。
見た目はタイチと同じオレンジ色の猿だった。
身長は子供のようで、落ち着きがなくずっと跳ねていた。
「ファイアエイプだって!」
「ファイアってことは火とか吐くのかな?」
よくよく考えてみればここはRPGの世界だ。 魔法があってもおかしくない。
そもそも今まで俺たちの世界で物事を考えていたが、もしかして俺たちの常識が通じないかもしれない。
(もっとこの世界を知らないとな……)
ふと考えながら新しく生まれたモンスターを見るとずっと何かを凝視している。 さらには顔がとてもにやけていた。
「何を見て……あっ」
ふとスズカ達をみると服を身につけていない。
かろうじて下着を身につけているのが見えたのが最後の記憶だった……スズカ達に頭を思いっきり殴られたのだ。
頭の痛みのせいで目が覚めた。
「ご主人様大丈夫?」
「あぁ大丈夫だよ、ピート」
周りをみるとタイチが横になっていた。 おそらく同じ目にあったのだろう。
頭の中でずっと鐘がなってるように痛みが続いている。
「頭大丈夫?」
ふと横を見ると、スズカが心配そうに覗き込んできた。
「助けてくれたのにごめん! 」
「こっちこそ結果的にのぞいちゃってごめん」
もうお互い忘れよう、そういうとこの話題は収まった。
そして新たに生まれたモンスターの話になった。
「この子はさっきの猿のモンスターだよね? 」
「確かタイチがファイアエイプって言ってたな」
「火を吐いたりするの?」
ふとモンスターの方を見るとモンスターは頷き立ち上がった。
「火は吐かないけどこんなのはできるよ! 」
そういうとモンスターは手のひらから火の玉を出し、お手玉を始めた。
「すごい! 」
チエは褒めながらモンスターの頭を撫でた。 するとモンスターは調子に乗ったのかさらに多くの火の玉を出して調子に乗り始めた。
案の定、お手玉は失敗し火の玉がタイチの方へ飛んで行った。
「あっつ! 何だ、敵か! 」
タイチが飛び上がったのを見てモンスターは申し訳なさそうに、そして俺たちは大笑いした。
「ご主人様、ごめんなさい……」
モンスターは反省した様子でタイチには謝った。まるでイタズラをして怒られる子供のようだった。
「いいよ! それよりもお前の名前を決めなきゃな!」
「タイチが決めるの? 大丈夫?」
「ならチエが決めるか?」
「決めていいの!?」
チエは嬉しそうに考え始めた。 やっぱりこの2人なんだかんがお似合いだな。
「じゃあ君の名前はゴクウね!」
「ゴクウか……チエにしてはいい名前だな!」
新たな仲間ゴクウが加わりさらに賑やかになってきた。
最初はスズカと2人だったのがだんだんと仲間が増え、拠点も充実してきた。何とかひと段落ついた気がした。
色々あったがやっと落ち着ける、そう思った矢先ある事を思い出す。
「そういえばタイチ、さっき何を言おうとしたんだ? 」
「そうだった! さっきの戦いを見て確信した!」
「ソラ、何の話?」
「タイチ! あんたまさか……」
「そのまさかだよ! なぁソラ、俺たちと一緒にダンジョンに潜ってくれないか?」
ダンジョン!?
RPGなら沢山のモンスターや珍しいアイテム、数々の罠などワクワクがおさまらない。 あのダンジョンがこの世界にはあるのが!?
スズカもゲーマーの血が騒ぐのか、体をウズウズさせているようだった。
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