第4話 自給自足のための農作

 新しい仲間のピートが加わり、何日かたった。

 拠点には枝を組み立て、葉っぱで簡易的な屋根を作った。周りの罠の数も増え、落とし穴も完成していた。


 その間、ゴブリンやインプなど沢山のモンスターが襲ってきたがスズカとピートと力を合わせて撃退していた。


「経験値って出るけどレベルアップとか出ないね? 」


「確かに、結構倒してるけどまだ足りないのかな? 」


「でもピートはすごくレベルアップって出るよ? 今20って出てるもん」


 どうやらピートのレベルの上がるスピードは俺たちと違うみたいだ。 確かに最初はとても小さく頼りなかった。

 しかしレベルが上がるにつれて体も大きくなっていた。 だんだんと強くなってるのが目に見て分かるくらいに成長している。


「ご主人様を守るためにもっと強くなる! 」


「ありがとうね、ピート」


 もしかすると神子が育てたモンスターは成長速度が速いのかな? ここら辺にいるモンスターならピートだけでも全然大丈夫な気がする。


「なあ、ピートはもっと強くなりたいか? 」


「うん! 強くなりたい! 」


「そうか! ならもっと探索範囲を広げてみるか! 」


 拠点の周りを何日か回ったが、そろそろ果物など食べ物が不安になってきた。 初日に取った魚もあれ以来見ない。


「スズカはちょっと遠くでも大丈夫?」


「大丈夫だよ」


「それじゃあ、今日はちょっと遠出をしてみようか! 」


 ゴブリンが身につけていた布で作ったカバンと、鳥のモンスターから手に入れた羽を使って作った矢と弓をスズカに渡した。自分は狼の牙で強化した斧とカバンを持った。

 これで、冒険の準備は万端だ!


「そういえば、水筒を作ったんだった。スズカにも渡しておくよ。」


「ありがとう。結構装備も充実してきたね」


「そうだね、でもどんなモンスターがいるか分からないし手に入るものは何でも使わないと! 」


「私も何か思いついたら作ってみるね! 」



 3人で普段行く場所のさらに向こうへと進んでいく。 道中、見たことのない果物やキノコ、さらにはモンスターとも出会った。


 一番強かったのはトカゲのようなモンスターだ。


「こいつのウロコは硬くて使えそうだし、肉は食べれそうだ! 」


「ピートお肉大好き! 」


「美味しいもの作ってあげるね」


 スズカの一言にピートは大喜びではしゃいでいる。

 大きくなったといっても、やっぱりまだまだ子供だ。


(スズカとのやりとりは完全に親子だな)


 そうなると俺が父親になるのか?

 いや、俺とスズカでは釣り合わないだろう。



 普段来たことがないこともあり、注意しながら進む。歩くスピードも遅く、常に気を張っていた。 そのせいか、スズカとピートの疲労が溜まったらしい。


「そろそろカバンもいっぱいになったし戻ろうか? 」


「うん、疲れちゃった……」


「ご主人様、背中にのる? 」


「ううん、ピートはまだ小さいから大きくなったらお願いするね? 」


「ピート早く大きくなる! 」


 本当に2人の会話は癒されるなぁ……2人に見とれていると注意が散漫となったようだ。 そのせいで何か柔らかいものを踏みつけてしまった。


 ―ブヒュゥ!


 豚みたいな声と共に目の前の岩だと思っていたものが動き出した。

 急に動き出した目の前の岩をよくみるとイノシシのような姿に大きな牙が見える。

 どうやら奴の尻尾を踏んでしまったようだ。


「これはかなり大きいな……」


「大丈夫……?」


「一応スズカは下がって弓で援護してくれる? 」


「わかった」


 イノシシのモンスターは足踏みしながら突進しようとしていた。 大きな図体のせいか威圧感が半端ない。

 さらには巨体に似合わず、かなりのスピードでこちらにつっこんできた。 まるで暴走トラックのようだ。


「意外と速いぞ! ピート気をつけろ!」


「わかった、ご主人様! 」


 ピートと2人でイノシシを挟みながら一定の距離を保つ。

 イノシシは狙いがつけられないのか、先程のように突進はしてこなくなった。


(あの分厚そうな皮膚じゃこの斧じゃ倒せないかも……)


 何か使える手はないかとあれこれ考える。


「ピート! 少し時間を稼いでくれ!」


「わかった! 」


 ピートがイノシシに威嚇している間に周りを見渡す。


(よし!あの岩なら使える!)


「ピート! こっちに来い!」


 イノシシを挟み込むのをやめ、ピートと一緒に後ろへと下がった。

 イノシシは逃げる俺たちに対して、先程同様に真っ直ぐ突っ込んできた。


「今だ! ピート横に飛べ!」


 イノシシをギリギリまで引きつけてギリギリでかわした。突然、目の前から標的が消えたにも関わらず、自分が出したスピードのせいで止まることができない。

 そのままイノシシはさっき見つけた岩に頭から思いっきり激突した。激しい音と共にイノシシの動きが止まった。


(これでどうだ?)


 イノシシは数歩後ろへと下がったがそのままゆっくりと横に倒れた。 どうやら気絶したみたいだ。


「何とか成功した……助かった……」


「ご主人様、大丈夫? 」


「ああ、それよりありがとう、ピート」


 ピートのおかげで何とかイノシシを倒すことができた。 ピートをゆっくりと撫でてあげるとしっぽを振って喜んでいた。

 銀色のモフモフはとても触り心地がよく、いつまでも触っていたい。


「さてこのイノシシはいい食料になりそうだ」


 イノシシにトドメを刺しトカゲに続き、大量の肉を手に入れたと思った矢先、目の前の大きな物が突然輝き出した。


「これってまさかピートの時とおんなじ!? 」


 光が収まるとそこには大きなタマゴが落ちていた。

 タマゴに触れるとヒビが入り中から少し大きめのモンスターが出てきた。


 見た目はRPGとかでよく見るオークのような姿だ。


「ハイオークか……言葉は分かる?」


「分かります、ご主人様」


 オークの姿だがとても礼儀正しい。 見た目からは想像もつかないほどだ。

 オークと言えば、もっと野蛮なイメージが強かった。


「その子、さっきのイノシシから生まれたの?」


 後ろからスズカの声がして振り返る。

 そこには心配そうな顔でこちらを見ていた。


「そうみたい、しかもピートと一緒で言葉が分かるみたいだ」


「じゃあこの子にも名前をつけてあげないと」


 名前かぁ……そういうセンスないから困ってしまう。

 うーん……どうしよう……タロウとか?


「ガイルとかはどう? 」


「いいね! 君の名前はガイルだ」


 命名はスズカに任せよう。 俺よりもカッコいい名前をつけてくれそうだ。


「ガイル……いい名前です。ありがとうございます。ご主人様」


「良かったな、ガイル」



 遠出をしたおかげで色々な食べ物はもちろん、ガイルという心強い仲間もできた。

 やっぱり遠出して良かった。



 拠点に帰ると今日の戦利品を確認する。


「色々手に入れたけど、4人分の食料となるとちょっと心許ないな……」


「すみません、私が増えたせいで……」


「ガイルは悪くないぞ、それよりも明日試したいことがあるんだ。力仕事だから今日はゆっくり休んでくれ」


「力仕事なら自信があります! お任せください! 」


 期待されていることが嬉しいのかガイルは胸を叩いて力強く言った。 見た目通りかなり力がありそうだし期待しよう。


(仲間が増えたことで色々出来ることが増えそうだ!)



 翌日、スズカとピートには休んでいてもらい、近くの少し開けた場所へとガイルと一緒に出かける。


「ここら辺でいいかな」


「ご主人様、私はどうしたら?」


「ここら辺に畑を作ろうと思ってね。でも周りの木が邪魔で困ってたんだ」


「なるほど、私の仕事は木を倒すことですね」


 そういうとガイルは木に抱きついたかと思うと、力一杯引っこ抜いた。

 いや、切り倒してもらおうかと思ったんだからまさかの倒し方だ。倒すというよりは引っこ抜くが正しい。


「本当に力もちだな! 一応抜いた木も後で使うから綺麗にまとめておいてくれ! 」


「分かりました! 」


 ガイルのおかげで畑予定地に生えていた木は根こそぎ抜かれた。 さらには木も手に入れることができた。 今すぐには使えないだろうがいつか役にたつだろう。

 さてここからも、大変な作業が続く。


「じゃこのくわで一緒に畑を耕してくれ! 」


「分かりました! 」


 ガイルと2人で土を耕したことで、思ったよりも全然早く畑が完成した。 世話のこともあるし初めは小さな畑から始めよう。


「ありがとう、ガイル! 思ったよりも早く完成したよ」


「お役に立てたのでしたら嬉しいです!」


 ガイルは嬉しそうだ。 どうやら頼られるのが嬉しいみたいだ。 俺も人から頼られるとなんだか嬉しくなるし、やっぱり似てるのか?

 それより、ピートに引き続き頼もしい仲間が出来た。


「よし!後は何を植えるかだけど…」


「ソラ」


「スズカ! ちょうどいい所にきてくれた」


 畑を見るとスズカは驚いた様子だった。 スズカには何をするか秘密にしていたから当然だ。


「これもしかしてソラとガイルで作ったの?」


「そうだよ、ほとんどガイルのおかげだけどね」


「そんなことありません。ご主人様も一生懸命頑張っておられました」


 ガイルは本当に礼儀正しいな。 まだ生まれたばかりなのに立派な大人のようだ。


「何を植えるの?」


「それをスズカに決めてもらいたくて! 」


 スズカは悩みながら拠点へと戻っていった。 あれから色々植物は拾ってきた。 その度に、種は色々と貯まっている。

 考え込むスズカの後を追いながら一緒に拠点へと戻る。



「やっぱり食料としてはこれかな?」


 スズカが手にとってみせたのは麦のようなものだった。


「これならたぶん釜があればパンが焼けると思う! 」


「パンか……いいね! 」


 さっそく麦のようなものから種を取り畑へと植えてみた。 すると植えた途端に芽が出てきた。


「早い!もう芽が出てきた!」


 しかし芽が出ているものとそうでないものがあった。

 よくみると俺とスズカが植えたものは芽が出ていて、ガイルが植えたものは出ていない。


「もしかすると神子が育てるものはこの世界だと成長が早くなる? 」


 確かに、ピートのレベルといいそうなのかもしれない。 これは思ってもみない誤算だ。

 しかし冷静になって考える。つまり植えるのは全部俺たちがやらなければいけないのか?


 しかしそんなことはなかった。 ガイルの植えた種に水をやるとすぐに芽が出てきた。麦が育つまで何ヶ月も覚悟していたがこれなら数日で手に入りそうだ。


「初日に見つけた体力を回復する果物の種も植えておこう! 」


「この先何が起きるか分からないし回復は必要だよね」


 今までに溜め込んだ種の中で使えそうなものを次々と植えていく。 種植えなんて疲れるだけだと思っていたが実際に芽がでるのを見ると楽しくなってくる。


 種植えの間ピートには周りの警護をガイルには柵作りをお願いしスズカと2人で種を植えた。



 一通り作業が終わるとすっかり日が暮れていた。 俺とスズカはお年寄りみたいに腰を叩いていた。


「よし、今日はここまでにしよう! 」


「上手く育てば食料は当分大丈夫そうだね! 」


「そうだね! 明日パン焼くようにかまど作っておくよ」


「造り方分かるの?」


「昔動画で見ただけだから見様見真似だけど大丈夫! 」


「ソラはなんでも知ってるね」


「たまたま知ってたたけだよ」


 とりあえずやってみれば何とかなるだろう。 そこら辺は適当な性格のせいかあまり深くは考えなかった。

 とりあえず今日は疲れた……農家の人は大変だったんだな……湯船に浸かって癒されたい。


 力仕事で疲れきった俺とスズカとガイルはピートに畑の見張りをお願いして眠りについた。



 数日が過ぎ、畑の麦はだいぶ育ってきた。

 果物に関してはもう実がなっている。あれから畑を拡張して色々な果物や薬草を植えた。 そのおかげかどこからどう見ても立派な畑になった。

 様々な色の果実が実り、小麦色も鮮やかだ。


「麦ももうすぐだね」


「かまども完成したし、麦が出来たらパン作りよろしくね?」


「材料もそんなにないから美味しくないと思うけど頑張るね!」


 最近の日課は畑のお世話になっていた。

 畑の世話をしている間に何度もモンスターに襲われた。 その度にみんなで力を合わせて撃退した。モンスターとの戦闘にもだいぶ慣れてきた。 この調子ならそうそう負けないだろう。


 それよりも、モンスターの数だ。 大事な畑を守るためにも何か対策を考えないと……


 ふとそんなことを考えている、畑の向こうに何か近づいてくる気配がした。


「3人とも、またモンスターだよ」


「分かってる。とりあえず弓で威嚇するね」


 空いた時間でスズカは弓の練習をしているらしく命中率はかなりのものになっていた。


「じゃあお願いするね」


 弓を思いっきり引き、素早く矢を離した。 放たれた矢は風切り音と共に真っ直ぐ目標へと向かっていく。


「わああああ!」

「きゃああああ!」


 矢が飛んで行った方向から明らかな人の悲鳴が聞こえた。

 急いで矢が飛んだ方に近づくとそこには男女か倒れ込んでいた。


「死ぬかと思った……」


 男の方は短いオレンジ色の髪にタンクトップ姿で明らかにスポーツマンって感じだ。

 女の子の方はというと茶色のショートヘアで雰囲気からはスズカとは違い活発な印象を受けた。



 こいつらはもしかしたら他の神子なのか?


 この世界に来て初めてモンスター以外の生物に出会った。

 スズカと2人で倒れてる2人を起こしながら人に出会えた嬉しさを噛み締めていた。

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