第2話 サバイバルの基本

 茂みから飛び出した何かに体当たりされ後ろに吹き飛ばされる。


「痛っ! 」


 目を瞑ったせいで受け身をとれず、尻もちをついた。

 しっかりとした痛みのせいで今までのことが夢でないことを改めて認識した気がする。


「いったいなんだよ……」


 ――グルァァァァァァ


 大きなうめき声にびっくりして顔を上げた。そこにはアニメでよく見るゴブリンが1匹だけ立っていた。手には明らかにお手製と呼べるお粗末な石の斧が見える。


「やばい! 何か武器になるようなものないか! 」


 そこら辺にあった枝を片手に、ゴブリンと対峙する。やばい、怖さ半分あるけどやっぱりワクワクする!

 本当にRPGの世界に来たんだ!テンションが上がったせいかBGMまで聞こえる気がする。


「よしっ! かかってこい!」


 ――キシャァァァァァ


 さすがゴブリンなだけあって単純に突進してくる。

 知能はあまりないみたいだ。


(まずは落ち着いて相手の動きを見よう)


 これでも剣道をやっていたんだ。

 それなりにやれるはずだ。


 相手は単純な突進を繰り返している。


(まずは武器だっ! )


 相手の武器を持ってる手を狙う。

 相手の突進を横移動でかわし、すかさず相手の右腕をおもいっきり叩く。


 ――ギィヤヤヤヤヤ


 腕が折れたのか相手は武器を落とした。


(今だ! )


 すかさず相手の武器を拾い上げ、頭めがけて振り下ろす。

 ゴッという鈍い音と共に、モンスターの頭へ斧が突き刺さる。


 ―ギィ………


 か細い声とともにゴブリンはゆっくりと崩れ落ちた。

 ピクピクと痙攣する体が次第にその動きをやめた。


「やったのか……? 」


 動かなくなったゴブリンを見て一気に力が抜けた……

 とたんに頭の中で勝利のBGMが流れ……

 ん?確かに聞こえるぞ?


「……おめでとう」


 目の前の木の上から無表情の女の子が飛び降りてきた。

 女の子の落ち着いたら声のおかげで興奮していた気持ちが落ち着いてきた。


「君は誰? 」


「周りに君しかいないって事は君が私のパートナー? 」


 質問に質問で返されてしまった。

 冷静さを取り戻し目の前にいる相手に向かう。


「多分ね。俺はソラ、君は?」


「私はスズカ、それよりも君強いね」


「一応剣道やっててね。君も歌が上手いね、さっきのBGNは君でしょ?」


 ズズカの顔が若干紅くなってる…もしかして照れてる?

 肩にかかる銀色の髪のせいで良く顔が見えない。


「本当RPGの世界に入ったみたいで興奮しちゃって……お願いだから忘れて! 」


 服装や雰囲気からクールな印象が強かったが、時折見せる可愛さがなんとも言えない。


「可愛い……」


 思わず声に出してしまった!


 お互い無言になってしまった。

 何か話さなくては!


「そういえばスズカは何かもってる? 」


「ううん、何も持ってない」


「俺も、何も持ってないんだ」


 とりあえず現状を確認してみる。

 周りは大きな木が生い茂っている。

 気温は影のせいか少し肌寒い気がする。


 休みの日に見たサバイバル番組を思い出す。


(冷えは体力を消耗するっていってたな……)


「ソラ? 」


「ごめん、昔見たサバイバル番組を思い出してね」


「サバイバル? 」


「そう、サバイバル。死なないとしても最低限の生活は必要だろ? 」


「確かに、餓死するのは嫌」


「サバイバルの基本は水、火、拠点らしい。その中でもまずは水を探そうと思う」


「確かに水があれば何日かは生きられるって聞いたことがある」


「それに火だ。この世界のモンスターが火を怖がるか分からないけど夜は冷え込むだろうしね」


「確かに、火がなければ君と私でくっついて寝ることになりそうね? 」


 よしっ火はいらないな! ……って冗談は言えないな。

 恐らくからかっているんだろう。


 スズカの冗談のおかげでさっきまでの気まずい雰囲気は無くなった。


「まあそれは最高だけどね。後は森の中だし迷わないように目印になる拠点を作ろう」


 んっ? 何か本音が出たような気がするが気にしないでおこう。


「君って面白いね! 」


 あぁ癒される。


「じゃあまずは水を探そう!森だし湖とかありそうじゃない? 」


「確かにさっき落ちる時に見たけどあっちの方に川っぽいのが見えたよ」


「なら先ずはそっちにいってみよう! 」


 2人で並んで歩き出す。

 途中彼女と話すうちに同い年であること、趣味がゲームであること、家事全般が得意なこと、そして何よりクールだと思ったけどちょっとした変化で表情が読み取れることがわかった。


「あっ、水の音……」


「本当だ行ってみよう! 」


 木々の間を踏み分けて進み、音の方へ急いだ。

 やっぱり聞こえる……川だ!


「これでとりあえず水は確保できそう! 」


「でも、森のモンスター達もここで水を飲んでるんじゃない?」


「確かに、だから次は拠点として周りを罠で囲おうと思う」


 本当は火もあるといいがモンスターが火を恐れると思えない。

 やっぱり罠が最優先だろう……決してやましい気持ちがあるわけではない。


「君は休んでいて、森の中を歩いて疲れたでしょ? 」


「ううん、君が枝とかを踏みならしてくれたから大分楽できた」


 気づかれてたか……まあいいか。

 それなら、もう少し頑張ってもらおう。


「それじゃ、その辺で枯れた葉や枝とか使えそうな物を探してくれる? もちろんこの近くだけでね! 」


「了解です!」



 先ずは単純な罠を作ろう。


 さっき途中で見つけた植物から先ずはロープを作る。

 そして、近くに生えていた弾性のある枝を曲げてロープで縛る。

 これでロープに引っかかると枝が勢いよく戻って攻撃する罠の完成だ!


 ついでにこの枝とロープを使って弓を作った。

 矢は今度作ろう。


 後はロープを編んで縄を作り、そこらへんの石を束ねて木に吊るす。

 これで落石トラップの完成だ!


 次にそこら辺の枝とちょうど良い形の石を結んでシャベルを作った。


 ここからはとりあえず今日中は無理だろうけど少しずつ穴を掘って落とし穴を作ろう。


 あれこれやっているうちに少し日が暮れてきた。


「そろそろ戻るか…」


 さっきの川のところまで戻ると、スズカが座っていた。

 辺りには色々な草や果物などが沢山置いてあった。


「これ全部君が見つけたの? 」


「とりあえず片っ端から使えそうなもの拾ってきたの」


「食べ物は良いね。俺も罠を作るついでに良いものを作ってきた」


 先程作ったものをスズカへとわたす。


「もしかしたら釣竿? 」


 食料確保の為に釣竿を作っていたのだ。

 まあ、今日はたぶん釣れないだろうと思っていたから果物があるのは正直に嬉しい。


「とりあえずまだ明るいし少しやってみる? 」


「君はちょっとやってみて? 俺は火をおこすよ」


「くっついて寝ないの? 」


 誘惑気味にこっちを覗き込むけど決して負けない。

 負けたいけど負けない……負けたいけど!


「冗談言ってないで釣りやってみて! 」


 少しふて腐れた顔をしてスズカは渋々釣り糸を垂らし始めた。



 ……よく耐えた、俺。



 ロープを枝に巻き、さらに床には板を置く。 ロープを押したり引いたりすることで、絡めた枝を板へと擦り付ける。

 手のひらが痛くなってきたが、我慢して続けた結果、火種ができた。

 弱々しく燃える火種を枯葉に移し、小さな火種を育て上げる。

 枯れ枝を追加してやれば、火種はたちまち炎へと成長した。


「よし!これで完成だ! 」


 スズカはどんな調子だろう……


「スズカそっちはどんな感じ? 」


「全然ダメ……」


 やっぱりダメだったか……初めから釣れるわけないよな。

 スズカには悪いけどなんとなくそんな気がしていた。


「今日は諦めて……ん? 」


 水面に浮かぶ浮きがプカプカと揺れ出す。 初めは川の流れに揺られだけかと思ったかがそうではない。


「スズカ、引いてる! 」


「本当だ! ソラ手伝って! 」


「すぐ行く! 」


 急いでスズカが握りしめている竿に手をかける。

 思ってる以上に大物のようで、作ったばかりの竿が悲鳴をあげている。


「同時に思いっきり引っ張ろう!」


「わかった!」


 スズカと一緒に思いっきり引っ張ったらせいか体制を崩してしまった。

 ゆっくりと2人同時に起き上がると奇妙なものが目にとまる。


「ソラ、あれ足生えてない? 」


「むしろ普通に立ってるね」


「いや、でも体完全に魚だよね」


「魚だね、どう見ても立派な魚だね」


 2人で顔合わせながら目の前の不思議な魚?に対して不思議がる。

 この世界なんでもありか……さすがあの神が作った世界だな……


 とりあえずの目標は達成したが、これからの生活を考えると不安でいっぱいになってきた。

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