35話目

 金魚すくいにヨーヨー掬いそれから輪投げもあって。みんなで遊ぶのは楽しかった。


 昔は金魚救ったら持って帰れてたりしたんだけど。

 今は遊ぶって言うのがあるのを初めて知った。

 姉さんと来た時とは変わってて、何をしても新鮮だった。

 そして、待ちに待った花火が打ち上がる時間になった。


「これより第七十二回花火大会を開催します」


 放送がかかって、ちょっと時間がたった。多分開会式やってるんだと思う。

 花火がよく見える場所まで歩きながら、まだかなまだかなと待ってると


 ドン!


 って音がして、空に綺麗な花火が上がっていた。


「始まったわね!綺麗ねー」

「夏って感じだな」

「うん」


 花火が始まって、二人と見る花火はなんだか特別な感じがして。

 雪さんは恋伽のとなりで、憂い気な表情で花火を見てた。

 花火を見ると悲しいことを思い出してるのかな……

 そう心配になったけど、恋伽が声をかけると笑顔になって楽しそうだった。

 恋伽と雪さんは取っても仲がいいんだね。

 なんだかちょっと恋伽を取られた気がしてむっ、ってなるけど。

 でも楽しそうだから、それでいいかなって思う。

 それに僕には夜玻がいるから。


「ねぇ夜玻」

「なんだ?」

「手、繋いでもいい?」


 この場所に着いてから僕は夜玻の手を離してた。

 ストラップを貰ってからなんだか夜玻の手を握ってるとドキドキして。

 すごくおっきい手で、頼りになるなとか。

 安心するとか。

 色んな思いが溢れてきて、恥ずかしくなって手を離したんだ。

 でも今は、今だけは夜玻と手を繋いで花火が見たくなった。


「いいぞ」

「ありがと夜玻」


 夜玻が手を出してくれて、僕と手を繋いだ。

 繋いだ時、夜玻がビクッってして。

 それからソワソワしてきて、繋ぐの嫌だったのかな?


「嫌だった?」

「いや、そういうんじゃないんだけどな。なんでもない」

「そう?」


 夜玻が、手を出してきた時。

 僕はぎゅっと手を握ろうとして、少し握り方を変えた。

 おっきい夜玻の手をもう少し沢山感じたくて。

 夜玻の指の間に僕の指を絡ませて繋いだ。

 普通に繋ぐより、夜玻の手の大きさを感じられて。

 すごくドキドキするけど、とっても落ち着いて。

 花火見ているドキドキよりも、もっとドキドキして。

 花火のことより夜玻の事が気になって。

 夜玻の方を向いたら、夜玻も僕のことを見てて。

 夜玻は顔を逸らしたけど、僕は夜玻のことを見たままで。

 そのうち僕もなんだか恥ずかしくなって。

 また、花火の打ち上がる空を見上げた。

 恥ずかしいけど。でも、手を離す気にはなれなくて。

 ドキドキの気持ちと一緒に、僕は花火を見ていた。

 何も会話はないけれど、ちょうどいいのかもしれない。


「終わっちゃったわね」

「短かったな」

「楽しかったよ、雪さんは?」

「私は楽しかったよ。恋伽と一緒に見れたから」


 花火大会が終わった帰り道。

 借りた浴衣はちゃんと返して、今は四人並んで歩いている。

 夜玻ともう手はつないでなくて、少し手がさみしい気がする


「恋伽、家まで送っていくよ」

「いいの?でも沙奈送っていかないと」

「沙奈なら俺が送っていくよ」

「夜玻と一緒に行くから、恋伽は雪さんに送ってもらったら」

「でも」

「道逆なんだから、無理するな」

「わかった、夜玻ちゃんと送ってくのよ」

「わかってるよ」


 恋伽と雪さんと別れて、帰り道夜玻と二人きりになった。

 そう、二人きりに

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る