32話目

「沙奈忘れ物はない?」

「うん」


 今日は待ちに待った花火大会の日。出店がはお昼からもやってるみたいで、お昼から夜玻と夢伽と行くことになった。

 お財布にスマホ、服を入れる袋をショルダーバッグに入れて準備万端!


「虫よけスプレー忘れてるわよ」

「ありがとう姉さん」

「楽しんでくるのよ。あっそれと」

「カステラあったら買ってくればいいんだよね」

「そうお願いね。これお小遣い、足りなくなったら使いなさい」

「いいの?」


 姉さんから五千円ももらっちゃった。


「人込みには気を付けるのよ。二人と離れないようにね」

「うん」


 二人と待ち合わせしてるのは、何度も行ってるショッピングモールの入口。

 時間に余裕もって着いたけど早かったかな。二人とも居ないや。一時間前って早いかな?


 待ってる間に読む本を持ってきてよかった。日陰のベンチで本を読みながら本を読んでたら、僕の名前を呼ぶ声がしたから顔を上げると夜玻と恋伽が二人並んで歩いてきた。


「おはよう。夜玻、恋伽」

「おはよう紗奈」

「おはよう、さぁ早く浴衣借りに行くわよ!時間は待ってはくれないんだから」

「あっ、待ってよ恋伽」

「ゆっくり行こうぜ紗奈。どうせ目的地同じなんだしな」

「良いのかな?」

「遅い!って怒られるだろうけどそれくらいだからな」

「じゃあゆっくり行こ」


 もう恋伽の姿が見えなくなってて、走って行っちゃったと思うとどれだけ楽しみなのか分かるね。


「二人とも遅いわよ!」

「恋伽が早いんだよ」

「沙奈の言うとおりだ、先急ぐのはわかるけどよ少しは落ち着けって」

「そんなこと言われても今日は今日しかないのよ」

「あー、わかったから中入ろうぜ」


 夜玻めんどくさくなって話切り上げちゃった。

 定員さんに着付けをお願いして、試着室から出るともう二人は綺麗でかっこよくなっていた。

 恋伽は黒に金の刺繍が入った大人びた浴衣を着て可愛い髪飾りを付けていた。

 夜玻は濃い青色の浴衣を着てシュッとしてた。いかにももてる男って感じ。

 僕のは薄紫に雲の柄が入ってるのだった。女の子ぽくなかったかな?でも夜玻が選んでくれたのだし変じゃないよね。店員さんも似合ってるって言ってくれたし。


「お待たせ二人とも」

「似合ってるぞ沙奈」

「ほんとね。珍しく夜玻のセンスがさえてたのね」

「ほんと? ありがとう。恋伽は綺麗だし夜玻もかっこいいよ」

「うれしいこと言ってくれるじゃない」

「照れちまうな、沙奈に言われると」

「あら、私に言われると照れないっていうの?」

「そういうわけじゃないけどよ」

「二人とも話すなら店の外でね?」


 店員さんにお礼を言って、河川敷の屋台がずらっと並ぶ通りに向かうことにした。

 まだお昼だけど、夜よりは人が少ないからって。二人が気を使ってくれたんだ。


「さて、遊ぶのと食べるのどっち先にする?」

「先に食べちゃいましょ。ちょっと小腹すいてきたし」

「いいのか?最近食べるとふと――」

「何か言おうとしたかしら?」


 恋伽怖いよ。


「いや何にも?」

「いいのよ今日は。お祭りだしお歩くからカロリー消費するから!」

「なんか自棄になってねえかそれ?」

「とにかく行くの!まずはあそこのクレープよ!」

「走るなって!浴衣は走りにくいんだよおい!」


 しれっと僕は夜玻の手を握って恋伽を追いかけた。これで迷子にならなくて済むよね?

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