8話目

「それじゃ、ぱぱぱっと買っちゃいましょ」

「うん」

「とりあえず上下合わせて4つづつあればいいでしょ」


 恋伽に連れられてお店の奥の方へと進んでいく。夜玻はお店の前で待ってくれてるけど、こういうお店の前で待ってて恥ずかしかったりしないかな。


「さて、胸のサイズは軽くないといってもいいくらいだけどA位はありそうよね」

「その辺よくわかんないから恋伽に任せる」

「そうね、とりあえずAの付けてみて良さそうだったらあとはデザインね。さ、試着室行きましょ」


 試着室でブラジャーを付けることになったんだけど、改めて自分の体を見て違和感というか前とは違うのに戸惑う。下を見れば少し胸のあたりが膨らんでいるし、なんか変な感じ。


「紗奈、どう?キツかったり大きかったりしない?」

「大丈夫」

「わかったわ。じゃああとはデザイン見て買いましょ。上はともかく下は学校行く時もかならず履くことになるからね。可愛いの選びましょ」

「うん」


 恋伽と一緒にブラジャーとパンツを選んで買ったらなかなか値段がした。お金は恋伽と夜玻から貰ったお金で間に合った。


 お店の外に出ると夜玻はちょっと恥ずかしそうに立っていた。


「お待たせ。さっ、夕食の材料買いに行きましょ」

「ああ、腹も減ってきたし急ごう」


 多分お腹がすいていた以外にも急ぎたかった理由はあると思うけど、そこは言わない方が良いんだろうな。

 卵がお一人様1パックまでで安かったから夜玻と恋伽に手伝って貰って3パック買った。安い時に買っておかないとね。

 あとは明日の分の食材も買わないと。姉さんが帰ってくるから一人分多めに買わないとね。

 家に帰ると早速夕飯作りを始める。と言っても中華麺を茹でて卵焼いてきゅうりとか切るだけなんだけど。


「「「いただきます」」」

「うん、美味しい」

「麺もちょうどいい硬さね。さすが私」

「誇るようなことではないだろうに」

「良いのよ、自己満足だから」

「紗奈、ごま油あるか?」

「あるよ」

「香り付けに使いたくてな」

「あっ、私も使いたい」

「今持ってくるね」


 いつもとは違う夕飯。いつもは1人で食べる夕飯。今日は恋伽と夜玻が居て、いつも寂しく食べる夕飯とは違って楽しい夕飯。

 だけど、僕も違う。女の子になってしまって、今までとは違う生活をこれから送るのだと思うと不安で不安で仕方がない。

 今は恋伽達と居て、その恐怖心も和らいでいるけど1人になってしまったら僕はどうなるのだろうか。

 お姉ちゃんも、帰ってくるとは言っていたけど、何時まで一緒にいてくれるか分からないし。

 やっと1人の生活にも慣れてきたって言うのに、これじゃまるで振り出しに戻ったみたいだ。

 お姉さんが海外にいった夜みたいに。

「紗奈、おーい紗奈」

「ん?どうしたの夜玻」

「どうしたのはこっちのセリフだ。どうしたんだぼーっとして」

「え?ぼーっとしてた?」

「してたわよ、どうしたの?やっぱり不安?」

 夜玻立ちの気遣いが優しくて、この恐怖心という氷が溶けていく。

「うん……」

「大丈夫よ、大丈夫。今は私たちが居るし明日にはお姉さんも帰ってくる。紗奈は1人じゃないわ」


 隣に座っていた恋伽が僕を抱きしめてくれて。その温かさに僕は甘えてそのまま静かに恋伽の肩で泣いてしまった。


「電話くれりゃ、夜だろうと急いで来てやるから。だから安心しろ、な?」

「うん、ありがとう2人共」


 僕は涙を流し、震える声でそう答えた。

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