#047 カレーナ学院の制服づくり
星歴1229年 11月5日 午後3時00分
東街区 カレーナ学院 2階講義室
アリエラ王国跡地から移築した、あの図書博物館は学校に作り変えた。
といっても、大急ぎで何とかしたのであって、子供たちを受け入れても、授業も始められないし、建物のあっちこっちで工事している。そんな有様だった。
だから、気になって見に行った。
図書博物館を学校へ改装する工事をしていたのは、冒険者ギルドのレストランで出会ったあの石工職人たち。
彼らも、私たちの建設地に来てくれた。大袈裟男がソマリちゃんに手当された縁で、そのまま付いてきちゃったんだけど、ね。
「お嬢さんが、まさか、魔王帝国の姫様だったとは、正直、驚きましたよ」
工事監督の男が、大テーブルに図面を広げて笑う。
ギルドのレストランで、ベルメル王国外城壁工事のずさんさに、呆れ顔だったときとは違う。ずいぶんと良い感じの笑みだった。総責任者の私としては、工事の施工監督から嘆き節が出ないので、とりあえず、ほっとした。
「えっと、リベストさん、明後日からは、アリエラの人たちも工事に参加します。初日は、最初に安全講習会をしますから、工事監督としてリベストさんも参加してください」
「ああ…… じゃなかった。了解しました」
石工職人たちを率いていた工事監督の男、お名前はリベストさん。指揮下へ一気に大勢の方々を加えたので、大変だ。頑張ってお名前を覚えよう。
リベストさんの方も、まだ慣れないみたい。ギルド本部併設レストランで、メイドをしてた女の子が、魔王帝国の姫君だったっていう展開に、頭が切り替わっていない様子。仕事さえ回れば、まあ、敬語とか気にしてないけど。
いまいる、2階の講義室は、図書博物館の中で一番に広い部屋だった。真ん中に大きな楕円テーブルが置かれていて、教室にするなら、ここがいいなと思った。
◇ ◇
遠慮がちな声が呼んだ。
「あ、あの…… システィーナ様、わたしまで、こんな……」
ティアちゃんだった。戸惑いと恥じらいの混じった声が、可愛らしく震えている。
「あ…… すごく似合う。可愛い」
思わず私まで、声が出ちゃった。
新しい学校の制服を急ぎ、カルフィナに作ってもらった。
カルフィナは、死霊魔術師なんだけど、器用だし勉強熱心だからお裁縫もできる。私が大雑把にデザイン案を伝えたら、すぐにミシンを踏んで作ってくれた。
モデル役はティアちゃんにお願いした。
「すごく気恥ずかしくて……」
長そでワンピースに三角襟を付けた、いわゆるセーラーワンピース。大きめのボタンで、襟元から裾まで身体の前で閉じるようにした。ボタンを全部はずすと、はだけることができるので、これなら小さな子供にも脱ぎ着がしやすいはず。
ティアちゃんは、アリエラ街区のまとめ役だから、制服の左肩に紫色の紋章入り腕章を巻いている。
ティアちゃんには、当然、学校へ通ってもらう。魔王帝国の法典には、子供の教育を受ける権利が明記されている。アリエラ街区のまとめ役と掛け持ちになるから大変だけど、頑張ってもらうしかない。もちろん私も応援するよ。
「システィーナのスケッチ画をアレンジして制服を作ってみたけど、こんな感じでどうかな? あと、これ、もしかして、全学年共通デザインなの?」
カルフィナが型紙やお裁縫箱を抱えて現れた。チビたちも一緒だ。
「「「「ティアお姉ちゃん」」」」
制服姿のティアちゃんを見つけたとたん、チビたちが一斉に駆けだした。
ティアちゃんがチビたちに囲まれた。
「うん。ボタン大きめだから、チビたちでも自分で着れると思う。どうかな?」
「いいんじゃない。これで決定なら、アリエラ街区にできたばっかりの縫物屋さんへ発注するわ」
カルフィナが、きちんと清書したデザインと型紙を大テーブルに置いた。デザイン決定稿には、『カレーナ学院冬服(全学年共通)』と記載されていた。
「ふふん。システィーナが忘れてるみたいだから、学校の名前、みんなで話し合って決めちゃったよ」
カルフィナが悪戯っぽく笑う。見回すと、ティアちゃんやリベストさんまでも、うなずいていた。カレル湖の湖畔の学校だから、カレーナね。
「うん。良いと思う。みんな、ありがとう」
私は、万年筆をポケットから引っ張り出して、花押を描いて承認した。
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