#046 城壁塔も住んでみると、快適だった


 星歴1229年 11月5日 午前6時15分

 カレル西湖畔 建設地 東街区外城壁、城壁塔7階


〈システィーナ〉

 ストールを羽織り、コーヒーを満たしたマグカップを手に、ベランダに出た。

 懐中時計の針は、6時を回ったところ。

 早起きなのは、癖だからしょうがない。


 カレル湖の向こう、東の空がうっすらと紫色に変わり始めていた。頭の上はまだ星空。湖を渡りくる風は、夜風のしっとりした冷たさだった。


 城壁塔も住んでみると、思いのほか、快適だった。

 臨時の市庁舎に選んだのは、運河を渡り東街区の城門に繋がる橋梁を見下ろす位置にある、東2番城壁塔。

 1階から3階が市庁舎としての事務室や窓口。4階、5階が私たち遠征軍が使う会議室など執務スペース。6階、7階が私や獣人騎士団の居室となっていた。


 見晴らしの良さは最高だった。

 私のお部屋は、城壁塔7階の窓際にした。つまり、外城壁よりも街の外に飛び出しているの。アガパンサス平原の緑も、カレル湖の碧も、空の蒼も、全部見渡せる。素晴らしい。

 えっ? 魔王ポジションというか、この城都の主なのに、城都の外で寝起きしているって、変かな?

 ううん。ちがうよ。この新しい城都はみんなのモノなんだよ。 


 城壁塔は、外城壁に設けられた防衛施設。敵が攻めてきたら、外城壁に取りついた敵兵に矢や鉄砲を浴びせる。外城壁から突き出した構造なので、敵兵の側面を撃てる。外城壁の攻略を目指す敵兵は、正面の城壁の上を守る兵だけじゃなく、左右の城壁塔からも集中攻撃される。

 そういうのが、城壁塔の本来の役割なの。

 都市機能の中枢、市庁舎を、城壁塔に置くなんて常識外れだけど、でもね、私たちは魔族。凄く強いもの。そこは大丈夫。


 だって、一番強いの、私だもの。

 私がラスボスだもの。

 建設途中で脆弱な状態にある街を守るには、最初に敵とぶつかる場所が、ラスボスの居場所として最適でしょ。


 私が、みんなを守るから、ね。

  


 ◇  ◇



 星歴1229年 11月5日 午前8時30分

 アリエラ街区 商店街


 新・魔王城下町建設地に、まだ正式な名前はなかった。私が命名会議を、うっかり、すっぽかしたのが、原因なんだけど。とりあえず、私は「カレル西湖畔の私たちの新しい街」と呼んでいた。


 これも長いので、早くもみんな、適当に端折って、「カレル湖畔の街」とか「西湖畔のアリエラ」とか「新しい街」とか「魔王城建設予定地」とか、ばらばらの呼び方になってるけど……


 東街区の方は、アリエラ街区に改めで、統一できた。

 実際に建物は、東湖畔のアリエラ王国廃墟から、船でここへ運んだものだし、住民もベルメル王国のアリエラ下層市街から引っ越した。 

 魔王帝国保護下にできた、第二のアリエラ王国といっても過言ではないから、問題ない。


 ばたばた続きの数日間だったけど、やっと、市庁舎の中が片付いたので、街に散策に出た。


 

 えっとね、街道だけど、いま、街づくりでとても忙しいのから、いったん撤去した。

 といっても、元がゴーレムでしょ。

 作ったときの逆の手順でゴーレムに戻せば、撤収完了。

 例によって、小人族のみんなは芸が細かいから、街道の跡には、ソイルゴーレムで土を掛けたうえ、すぐ伸びる草のタネまでまいているけど。


 私の認識阻害結界も復旧した。

 ベルメル王国側が本気を出して探せば、さすがにもう隠し通せない。ビックホーン男爵指揮下の魔族突撃騎士団と、アイリッシュたち飛竜使いの若い獣人騎士たちを警戒にあたらせた。

 

 でも、しばらくは、私は大丈夫と思っている。

 ピッホーン男爵に、私の考えを伝えると、男爵は釈然としない様子だった。


「姫殿下、多数の住民を奪われて、ベルメル王国が黙っているとは思えぬのだが」

 ビッグホーン男爵は、超攻撃特化の魔族だけど、根は紳士だと思う。ベルメル貴族も、彼くらい住民のことを思っていたら、良かったのにね。


「どうかなぁ? 概ねの位置と方向は、ベルメル側にバレていると思うけど……」

 私は、くすりと笑みを含んで、ビッグホーン男爵を見る。どう話そうか? ちょっと考えてやめた。ベルメル貴族はプライドだけで動いている。アリエラの人たちがいなくなっても、実はあまり気にしていないはず。ベルメル貴族たちにとっては、アリエラの人々は何の価値もないの。

 

「ベルメル貴族たちで構成された騎士団を、蹴散らしたから、当分は追ってこれない気がするけど」

 たぶん、ビックホーン男爵は忘れている。

 彼自身が、アリエラの人たちを救出した際に、ベルメル側の追撃を蹴散らした。これは、ベルメル側の精鋭部隊を使い物にならなくした。そういう状況なの。

 あまりに手応えがなさすぎて、男爵はすっかり忘れているみたいだけど。


-*- -*- -*- -*-

 

西暦2021年10月22日 午後22時45分

後で消すつもりの業務連絡です。


 次回更新は、もしかしたら、少し遅くなるかもしれません。

 現在、12月1日のカクヨムコン7に参戦するため、投入用の異世界ファンタジーを構築中です。あの、その…… 予定より進捗が遅れてまして…… ごめんなさいね。


 次回は、第47話 「カレーナ学院の制服つくりとチビたち」

 アリエラ王国跡地から移築した、あの図書博物館を学校に作り変えて、ティアちゃんをモデルに制服づくりをはじめます。

 そこは―― 10年前にアリエラ王国とベルメル王国の和平会議の場所、呪詛魔法による悲劇の発端となった場所は、子供たちの笑顔でいっぱいになりました。


 そんな感じです。

 長くなりそうなので、話に分けるかも知れません。


 あと、色々な進捗や創作いろいろ話は、近況ノートに載せてます。

 イラストも載せてるので、作者フォローして見に来てくださいな。



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