#039 北城門前広場で貴族と対峙します

 そして、想定シナリオどおり、バカ貴族が私たちの前に颯爽と現れた。

 さっき、〈メルクッセンの柊〉を浴びたバカ貴族だった。たぶん、治癒魔法でもかけて、回復した気分になっているんだと思う。


 紅いマントに、魔法具らしい指輪を両手の指にいくつもはめた重装備で、勝ち誇っているの。

「残念だったな、城門は開かぬ。なぜなら、この名門貴族ラーベス家のトゥーベス様が魔法をかけている」


 無駄に偉そう。残念すぎるセリフを聞かされて、こっちまで寒気がした。せっかく広場周囲の建物に、兵士を隠し配置したのだから、さっさと撃てばいいのに。

  

「我が魔法〈アルツーブの閂〉は鉄壁なのだ」

 呆れた。土系統の基礎魔法〈アルツーブの閂〉は簡易暗号付き戸締り魔法。中央帝都では鳥小屋や納屋など、比較的重要度の低めな施設に用いられている。

 

 魔法に関する知識がないアリエラの人々からは、低いどよめきが起きた。

「絶望せよ。そして、下民の分際で我らに逆らった罪を償え。おまえたちは完全に包囲されている」


 トゥーベス様とかいうおバカ青年貴族は、うれしそう。意味ないのにサーベルを抜いて、私たちに向けた。

 同時に、北城門前広場を取り囲む建物の屋根や3階窓に、マスケット銃や弓矢を手に、兵士たちが現れた。

「おまえたちには、死を与える」


「ティアちゃんっ!」

「はいっ!」


 私の合図に、ティアちゃんが魔法を展開した。

 バカ貴族がサーベルを振り上げて、高笑いとともに振り下ろした。

 マスケット銃の発砲音と矢の飛来する風音が、ふっと、途切れる。ティアちゃんが展開した〈カトレの水晶壁〉と〈ドラスの鉄籠目〉が、鉄砲弾も矢も衝撃音もすべて遮断したの。


 あ…… やりすぎた。


 ティアちゃんを中心に、カトレ・ドラスの複合魔法の防壁球体がどんどん広がる。広間を包み込み、さらに広がって―― ティアちゃんが敵対者と認識しているモノを全部、弾き飛ばして広がる。

 バカ貴族が集めた私兵たちが、屋根から飛ばされた。大けがをすると可哀想なので、とっさに風魔法で受け止めた。200人もいると、さすがに間に合わなかった人もいる。


 喚き声がした。

 ごめん。目の前にいたのに、バカ貴族を受け止めるの忘れてた。

 地上にいたのに、魔法の知識があるはずの貴族なのに、トゥーベス様とかいうバカ貴族は、北城門まで吹っ飛んでいた。鉄製の門扉に背中を打ち付けて、苦痛にあえいでいる。


「小娘っ! おまえはっ!」

 ティアちゃんを指さして、怒鳴りつけている。でも、ティアちゃんはもう罵声には怯えていない。


 でも、ここからは私が交代することにした。ティアちゃんには、アリエラのみんなを守り、ともに幸せになってほしい。愚かな王侯貴族を殲滅するのは、魔王帝国の皇女である私の役目だから、ね。


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