#019 カレル東湖畔の廃墟3
星歴1229年 10月13日 午前11時00分
カレル東湖畔 アリエラ王国跡
私とカルフィナが担当した呪詛の調査、遺骸と浮遊霊の回収作業と並行して、小人族や施設大隊による建物調査が始まった。調査に三日、移築可能な建物の解体と積み出しに三日のスケジュール感だった。その間は、この死んだ街に天幕を張って泊まり込みになった。
と、いっても、破滅させた城都なら、魔王帝国軍は慣れっこだから問題ない。
初日と翌日は天候にも恵まれて、浮遊霊の回収も、建物調査も順調に進んだ。
……のだけど、学芸員資格を持っているスタッフが施設大隊に混じっていて、解体前にスケッチを取りたいと申し出があった。
彼、エルマーさんは、旧アリエラ王都に行くと聞いて、呪詛の危険にもかかわらず付いてきたの。
「エルマーさん、写真じゃ、ダメなの?」
施設大隊では、解体前に移築する建物の撮影をしていた。
「スケッチなら、写真では難しい細部のディテールも残せます。記録としての価値もあります。姫殿下、どうか、お認めください」
ちょっと考えたけど、許可を出した。
詳細なスケッチがあった方が、あとで魔王城下町建設地で組み立て直す工程が、スムーズになると思った。彼の熱意に負けたという気もするけど。
それにね、写真っていうのが、ガラス乾板のいわゆるクラシック写真しかないの。当然、モノクロ。何気に懐かしいけど、技術的な事情もあって解像度がいまひとつだった。
「その代わり、魔王城下町の都市計画にも反映させたいから、2部作製し、1部を設計部署へも提出をお願いします」
東街区のデザインにも活かせるような気がしたの。写真の方も撮影枚数を増やすように求めた。エトルリアさんたち技巧官たちのお仕事に役に立つと考えたの。建物解体は、スケッチと撮影が済むまで待ってもらうことにした。
◇ ◇
星歴1229年 10月15日 午前9時00分
カレル東湖畔 アリエラ王国跡
その二日後からは秋雨が続いた。予定のスケジュールでは終わらなかった。
建物の移築は、予定外のスケッチ作業を加えた分がそのまま遅れになった。でも、これは目途が立ってるから心配ない。
問題なのが、私とカルフィナのペア。
浮遊霊と遺骸の回収はできたけど、呪詛の解除が難航していたの。
「そろそろ見つけたいね」
「この近くと思うんだけど、いまひとつ感覚が来ないんだよね」
カルフィナの指揮下には、骸骨兵団がいる。カルフィナは感覚で得た感触から、城都の中心部、図書博物館の付近へ的を絞り、骸骨兵たちに捜索を指示していた。しとしと降る秋雨の中を、漆黒色の衣に包まれた骸骨たちが行き交う。
「呪詛を解くには、呪いの源を見つけ出す必要があるのだけど…… 誰も見てないみたいなんだよね」
優れた死霊術師のカルフィナは、回収した浮遊霊や骸骨からも情報を得ようとしていた。だけど、死者たちの誰もがアリエラ崩壊の原因を見ていなかった。何が起きたのか、理解できないまま死んでいったらしいの。前後の関係から、ベルメル王国軍に何かされたらしいとは、気づいていたようだけど。
「ねぇ、こんなことってあると思う?」
カルフィナの問いに答えられなかった。
〈メールシュトームの流血鎖〉を何らかの魔道具を用いて発動させたとしても、アリエラ王都内で呪いの儀式を行ったのなら、誰か見ているはずと思った。
何が起きたのかすら、認識できないほどに速やかに呪詛汚染が進み、アリエラの人々が死に絶えたとは…… 人類の魔法技術でそんなこと、できるの? 疑問は残ったの。
◇ ◇
その夜、カレル西湖畔の建設地でお留守番をしているミヌエットさんへ、手紙を出すことにした。
当初の予定を越えてしまうから、こちらの状況を知らせた。
そして、呪詛の源に関することも、問い合わせてみた。といっても、話が漠然とし過ぎているから、回答は期待できないけど。
「はい。書いた。これでいい?」
私がタイプライタで打った文章に、カルフィナが手書きで呪詛の源探しについて、思うことを書き加えた。
「うん。ありがと」
手紙を鳥の形に折って、魔法をかけて空へ放った。折り紙の応用だけど、法符魔法が使える私、ミヌエットさん、ラグドールさん、ソマリちゃん、ファレンカルク伯爵、サモエド副団長、アイリッシュの間では便利な連絡手段として使っていた。
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