#036 Intermission (虚飾の街の王侯貴族たち)

星歴1229年 11月1日 午前2時45分

ベルメル王国 貴族街区


〈ナレーション〉

 遠雷のような低い音が、星空を叩く。地鳴りが地を這う波紋となって、ベルメル王都を襲う。繰り返し、巨大な太鼓を打つような地響きが襲い来る。


 ベルメル王城中央鐘楼からは、彼方から歩み来る巨大なストーンゴーレムの群れが見えた。あろうことか、その巨躯の群れは、ベルメル王都の外城壁よりも巨大だった。石材の巨人が整然と二列縦隊に並び、平原を踏み均しながら、このベルメル王都を目指しているのだ。


 中央鐘楼で危機を知らせる鐘が、深夜にもかかわらず打ち鳴らされた。

 寝静まっていたはずの街に、次々に明かりが灯り、騎士たちの叫び声が行き交う。


 騎士たちは、急ぎ甲冑を着込み、馬に跨って屋敷を飛び出した。

 だが、そこまでだった。

 貴族家の屋敷が並ぶ美しいケヤキ並木は、すでに、骸骨兵たちに占拠されていた。馬たちは死霊の軍勢を恐れていうことを聞かない。馬を御することができず、振り落とされて、腰を打ち、動けなくなる騎士さえもいた。




星歴1229年 11月1日 午前3時10分

ベルメル王国 王城 玉座の間


「何が起きている! 兵を集めろ、いますぐにだ!」

 ベルメル国王、マルセルは、玉座の前で怒鳴り声を張りあげた。このとき国王は、恐慌のあまり玉座にかけることもできず、おろおろと歩き回って、叫び声を上げ続けていた。

 重臣たちにもできることは何もない。

 王都が混乱に陥っているありさまが報告されるたびに、当惑と恐怖に蒼ざめた顔を、互いに見合わせるばかりだった。


「報告します。巨大ゴーレムの群れ、およそ150体が向かってきます」

「王都内に骸骨兵の群れが出現、貴族街区を占拠されました」

「アリエラ地区で反乱発生! 下民どもが脱走を始めています」

 次々ともたらされる凶報が、玉座の間に集められた重臣、将兵らを絶望に叩き落した。


「も、もう、だめだ……」

「魔王帝国が攻めてきた」

「逃げるしかない」


 大理石の床を鞭が鋭く打った。

「何を恐れるか! 兵を集めよ! 夜明けとともに城門より打って出る。魔王帝国軍をカレーナ河岸にて撃退する! すぐに出陣の用意をせよ」

 恐怖に呑まれた国王に変わり、義理の弟であるイーベル将軍が叫んだ。ベルメル王国軍の主力、精強騎士団を率いる彼は、王国の軍事拡張主義を主導してきた張本人でもある。


 だが、イーベル将軍の命令が終わらぬ間にも、次の凶報が飛び込んできた。

「敵、ゴーレムが…… 先頭のゴーレムが橋になって、さらに後ろのゴーレムもゴーレムも橋になって、魔王帝国軍のゴーレムはその上を進んできます」

 驚き慌てて転がり込んできた見張兵は、要領を得ない。だが、防衛線と考えたカレーナ川を、魔王帝国軍が異常な方法で渡河していることだけは、伝わった。


「ひるむな! 王都外周城壁へ兵を配置しろ! 何としても、敵を食い止め……っ!?」

 イーベル将軍の怒鳴り声は、さらに、間近で起きた轟音に掻き消された。


「近いぞ!」

「すぐ近くだ」

「城門の方角だ」

 玉座の間は将兵たちのざわめきで満たされた。いま轟いた破壊音は、間違いなくベルメル城都内からだ。


「静まれっ! 玉座の間であるぞ! 我が城都の城門は鉄壁である。鋼鉄の扉に魔法防御までも刻まれている! いかに、魔王帝国といえども、容易には突破はさせん!」

 がなり立てるイーベル将軍は、不愉快を罵声と鞭で表した。周囲から将兵や騎士たちが慌てて飛び退る。


 そこへ伝令の兵士が転がり込んできた。

「申し上げます。北城門が破壊されました!」

「――なんだとっ!」

 



 

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