#030 石工職人のケガを手当てします

星歴1229年 10月31日 午前11時45分

ベルメル王国 平民市街 ギルド本部


 お昼ご飯の時間。あの石工職人たちが、ギルドに現れた。

「けが人が出た。手当をお願いしたい」

 あの大袈裟男だった。先日、失礼なことをいわれたときは、「ちょっとくらい痛い目に合ってしまえ」と思ったけど、包帯でぐるぐる巻きの足を見たら、やっぱり可哀想だと思った。


「すまない。医師は王国軍が引き抜いてしまったから、いないんだ」

 ライムギルド長は、困り切った顔をしていた。

「痛い、死ぬ、誰か……」

 大袈裟男が半泣きで苦痛を訴える。包帯が赤く滲んでいるから、痛いのは本当らしい。


「だから、崩れかけの城壁には登るなといっただろう」

 現場監督の男が声を荒らげた。

 不安定な城壁が崩れて、大袈裟男は転落したらしい。筋肉質な体躯のおかげで何とか生きてるけど、右足首骨折の重傷らしい。

 

「痛い、血が血が…… 助けて、おかあちゃんっ!」

 ギルド本部奥の医務室に運んだけど、手当てしない限り、大袈裟男は泣き止む気配がない。ライムギルド長と、現場監督が、どうしようもなくため息をついた。


 私もため息をついた。もう仕方ない。

「この中に、お医者様はいませんか?」

 大勢の人が見ている前だから、命令は出来ない。仕方ないので、決まり文句を棒読みでしゃべった。


「はい」

 医務室のすぐ外に控えていたソマリちゃんが手を挙げた。さっきまで押し殺していたはずの表情が、ぱっと輝いている。彼女も私が命じるまではと、患者を前にして我慢していたの。

「手当をお願い。魔法は使わないで」 

「はい」

 ソマリちゃんが駆け寄る。すれ違う瞬間に、小声で指示した。


 大袈裟男が仰向けにひっくり返っているベッドに駆け寄る。

「あの、この医務室の備え付け、お借りしますね」

 ソマリちゃんが、まるでどこに何がしまってあるのか知っているかのように、手早く医務室の引き出しや、ガラス扉を開いて、処置の準備を整えた。


 それから、無駄にぐるぐる巻きにされた包帯をハサミで切った。 

「うわあっ、この処置したの誰ですかぁ? こんなことしたら、動かなくなっちゃいますよ」

 あとの処置は早かった。満足な設備もないのに、ソマリちゃんは骨折箇所を捻ってつなぎ直して、添え木で固定した。傷口の縫合の速さと美しさは、ちょっと人間業を越えちゃってたかも。


 大袈裟男がやっと泣き止んだところで、ふと、気づいた。そういえば、石工職人がひとり足りない。えっと、カルフィナのこと見惚れてた優男で、あれ? 名前、確か……

「リゼルか? そういえば、姿がないな。まだ、作業現場に残っているのか」

 現場監督が首をひねった。怪我人が大袈裟に喚くものだから、みんな周りのことが見えてなかったの。

 

 

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