失われたアリエラ王国を救おう

#015 みんな、打合せしたいから、集まって!

星歴1229年 10月11日 午前7時20分

カレル西湖畔 建設地


 地面づくりが終わったら、いよいよ、忙しくなる。石材を運び、運河を掘り、城壁を積みあげて、本格的に城都建設が始まるのだけど……

 中央帝都を出発してから、もう一か月を過ぎていた。朝夕は風がだんだん寒くなっていた。


「そろそろ天幕生活から抜け出して、温かいベッドで寝たいですよね」

 朝、コーンクリームシチューをすすりながら、イヌ族の連中と話した。

「俺たちはまだまだ余裕だけど、ネコ族チームはもうヤバいんじゃね?」

 アイリッシュが、骨付き肉をしゃぶりながら、笑う。朝からガッツリメニューたべてる。元気だよね、こいつ。


「姫殿下、施工打合せの関係だが…… ちょいと、よろしいか?」

 施設大隊を率いる建設責任者役のエルトリアさんが、渋い香りのブラックコーヒーを片手に現れた。

「ミルクや角砂糖、入れないんですか?」

 特大マグカップに、なみなみのブラックコーヒー。思わず聞いてしまった。

「ははは、俺は大のコーヒー好きだぜ。ミルクなんかいれたら、この香りや苦みがもったいないだろ」

 はぁ、私もコーヒー好きだけど、ここまでのブラックは苦手かも。


「急に冷えてきたんでな、施工順序の変更を意見しようと思ってな……」

 エルトリアさんは、抱えてきた図面をテーブルに広げた。よいしょっと、テーブルの上から、ピザやパスタのお皿を片付けた。

 ちらりと、資料に目を走らせた。私も考えてたことが、図面に仕上がっていた。

 なるほどと思ったの。

 だから、みんなを呼び集めることにした。


 すうっと、朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで――

「みんなぁ~ 打合せしたいからぁ、集まってっっ!」

 大声で、私の天幕のそばにいた主要スタッフを呼び集めた。


「にゃあ、ねむいにゃあ」

 ソマリちゃんが枕を変えて起きてきた。

「姫殿下ぁ、こんな時間に素っ頓狂な声、出して、どうしたんにゃ」

 ラグドールさんも、枕を抱えている。

 このふたり、サモエド副団長ですら手を焼くお寝坊さん。下手すると、朝から晩まで寝てることもあるほど。でも、私の声だと起きるんだ。

 えっと、ふたりの名誉のために言い添えると、ソマリちゃんは医務官。オールマイティにこなせるけど、主に外科手術が得意。ラグドールさんは、魔法薬師。お薬の調合や、内科治療を専ら担当していた。そんな職域担当なので、夜が遅いのは事実なの。


 ふたりにはホットミルクを出した。

「温かあい。朝が寒いとホットミルクがじわじわしますね」

「ホットミルク、うれしい。心が落ち着く。また、眠くなりそう……」


 他に、小人族のエルイット長老たちや、カルフィナも集まってくれた。

 みんなにホットミルクやコーヒーを配った。


「さあ、準備できました。エルトリアさん、お話をお願いします」

 みんなで大きなテーブルを囲んだ。椅子は足りないから、立ったままお話した。


「あ、朝早くからお集まり頂き恐縮…… って、俺は、いきなり朝イチで全員会合をやるつもりはなかったんだが。

 実はな、施工する順番を変更しようと、図面や資料を整えて、姫殿下の元をお尋ねしたところ……」

 エルトリアさんが、コーヒー片手に苦笑いした。

「姫殿下が、こんな大声で朝から叫ぶとは考えなかったんだ。たたき起こして済まない」


 自然と、笑い声の輪ができた。眠り姫のソマリとラグドールも、ぎりぎり何とか起きてた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る