#014 この新しい魔王城下町に、笑顔と祝福を――

星歴1229年 10月4日 午後16時00分

カレル西湖畔 建設地


 そして5日後には、建設地のカレル湖畔に、五千体の巨大サンドゴーレムが勢ぞろいした。

 エトルリアさん率いる施設大隊のみなさんが、石灰の粉でストーンゴーレムを立てる位置を地面にマーキングしてくれた。小人族の召喚術師たちは、石灰で記された位置に、どデカいサンドゴーレムを並べて行った。


 もちろん、カルフィナが作ったサンドゴーレムもいる。

 彼女の頑張りに敬意を表して、カルフィナの作ったサンドゴーレムは、魔王城大天主堂の基礎にした。

「カルフィナのゴーレムが、センターポジションだよ」

 照れ隠しで、ぷいっとカルフィナは膨れて見せた。でも、てへへへっとにやけてる。うん。何だか可愛い。


 ◇  ◇


 図面に合わせた位置に、白亜の砂の巨体が林立する様子は、凄いのひとこと。都市計画に挙げたすべての建物が完成した、未来の姿が、イメージできた気がした。


 私とエトルリアさんで、飛竜に乗って、サンドゴーレムたちの位置を確認して回った。飛竜の御者はアイリッシュに頼んだ。


「 あ、1095番ゴーレム、あと二歩、左に移動してくれ」

 都市計画図と、眼下のサンドゴーレムの大群とを突き合わせながら、エトルリアさんが指示を飛ばす。私も、図面の控えをマーカー塗りして、手伝った。


「システィーナは、何でも首を突っ込みたがるんだな」

 飛竜を駆るアイリッシュが苦笑い。そりゃあ、そうだ。だって、ストーンゴーレムの立ち位置、確認作業は、私がするよりも施設大隊の技巧官の方が向いてる。確かに、カルフィナのこと、何かいえた義理じゃない。


 でもね、土質改良作業は後でやり直せない。

 建物が仕上がるよりも前のタイミングで、都市計画図と実際の施工エリアを対比して、イメージを把握できるのって、いまだけなの。

 だから、空から見下ろして、マーカーで都市計画図の束をすべてチェックできる機会は―― ごめんなさい、私が使わせてもらったの。 


 最後に、魔王城中心に据えたカルフィナのサンドゴーレムのてっぺんに降りた。

 これは、ちょっとしたセレモニー。

「この新しい魔王城下町に、笑顔と祝福を――」

 祈りの言葉とともに、小さな桜の苗をサンドゴーレムのてっぺんに植えた。


 ◇  ◇


 小人族の召喚術師と一緒に、再び、飛竜で空にあがった。

 すべてのゴーレムのてっぺんには、返納魔法符が差し込まれていた。


 施設大隊のみんなは、ストーンゴーレムの大群を少し離れて取り囲んでいた。

「施工エリア内から、全員の退避を確認しました」

「東街区、問題ありません」

「北街区、確認作業終了しました」

「東橋梁、A1橋台、A2橋台予定地ともに点検完了」

 次々と、赤い手旗があがる。

 私の手にしたチェックリストが、塗り潰しで埋まった。


 とんとんとん……


 もう一回、マーカーでチェックリストを確認。

 うん。大丈夫。

 

 私も、飛竜の上で立ち上がり、大きな紅い旗を掲げた。

 そして、紅い旗を空へ投げた。


「みんな、お願いっ!」


 蒼穹を舞う赤い旗。これが合図。

 小人族の子たちが一斉に返納魔法を発効させた。

 ストーンゴーレムの大群が一斉に魔法光包まれた。 


 お腹にずしんと響く轟音が、草原を震わせた。

 真っ白な砂埃が草原を埋め尽くした。


 ◇  ◇


 翌日からは、赤土で作ったソイルゴーレムの大群が、建設地に集まってきた。

 カレル湖への流入河川を遡って、山の中へ建設資材を探しに行ったの。


 そこで見つけた花崗岩の山を切り崩して、都市建設に使う石材を用意した。

 そのとき出た表土が、思いのほか良質土だった。エトルリアさんとも話して、この土壌でソイルゴーレムを作って建設地に運んだ。


 今度は、高さ4メートルの小さなゴーレムをたくさん作った。川沿いを赤土のゴーレムが一列に空いていく様子は、空から見ると、不思議と可愛かった。


 さらに、花崗岩で作ったストーンゴーレムも、ソイルゴーレムと並行作業で投入した。土のゴーレムを返納魔法で、地面に撒いて、それをストーンゴーレムで踏みまくるの。こうして、街を作るための土台が完成したのだった。


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