#013 トラブルも仲良しの証かも知れない

 小人族の召喚術師たちは、ひさびさにゴーレムを召喚した喜びに、大はしゃぎだった。それに、魔法力は全部、私持ち。コントロールだけに集中できるのって楽しいよね。


 外周城壁を仕上げるところまでは、急いで施工したかった。中央帝都の工学院からは、急速施工向けにアレンジされた外城壁設計図が届き始めていた。


 えっと、中央帝都からこの建設地まで、私たちは、荷馬車を伴う遠征軍は移動で一ケ月近くかかった。

 でも、帝都郵便卿付きの赤い飛竜なら、3日あれば余裕で届く。ただし、郵便卿が従える赤い飛竜は、高速飛翔向けの改良種で、あまり荷物は運べない。図面筒くらいなら問題ないけど。書類か小荷物しか運べないの。


 せっかく図面が届いたのだから、工事を急ぎたくて、小人族の召喚術師たちに、

「ひとりで制御できるかぎりいっぱいのサンドゴーレムを召喚して、建設予定地に向かわせて」

 と、指示を出した。


 中央帝都や魔王帝国領内では、事故になっちゃうから、こんな大雑把なことはできない。でも、大草原の真ん中だもの。二百体や三百体のゴーレムがうろうろしても、誰かにぶつかるわけじゃない。広大な草原ならではの大雑把さだった。


「カルフィナは、こっち、来て」

 サンドゴーレムの頭のてっぺんに飛竜を寄せて、カルフィナを招き寄せた。

「えっ? あたしも小人族の子たちみたいに、ゴーレムを操りたいのだけど」

 やっとの思いでサンドゴーレムにしがみ付いてるのに、カルフィナはまだやれるって気持ちでいた。


「だめっっ! そんなデカいゴーレムが転んだら、カルフィナが潰れちゃう」

「だって、小人族の子たちは、ひとりで十体以上も制御してるのよ。あたしだって、一体くらいは何とかしたいよ」 

 小人族の人たちは、見た目は幼くて可愛いけど、実際にはそんなに子供じゃない。

 小さいのは、小人族だからなの。

 何より、幼い頃から召喚術に慣れ親しんでいる。大ベテランぞろい。

 カルフィナの意地っ張りは、嫌いじゃないけど、事故は困るってば。


「カルフィナ死霊魔導士様、飛竜にお移りください」

 アイリッシュが、再び、飛竜をサンドゴーレムの頭へ寄せた。

「あたし、せめて、この一体だけでも建設地に届けてみせて…… あわっ!?」

 ほら、言わんこっちゃない。

 サンドゴーレムが、何もない草原の真ん中でつまずいた。体勢を崩して、前に倒れる。


 カルフィナの細い身体が空中に投げ出された。

「アイリッシュっ!」

「任せろっ!」

 アイリッシュの手綱さばきで、くるっと、飛竜がバレルロールした。最短距離を飛んで、正確に、カルフィナの落下位置に入る。

「システィーナっ! 受け止めろっ!」

 飛竜が翼を開いて、一瞬だけ空中で急制動した。

 ふんわりと、カルフィナの身体が手の届く距離に飛び込んでくる。伸びあがって、両手でカルフィナを抱きしめた。

 転倒した巨大サンドゴーレムは、轟音とともに、草原にうつぶせに倒れた。砂煙がもうもうと立ちのぼる。


「もうっ! 心配した!」

「ご、ごめんなさい」


 腕の中に捕まえたカルフィナの温かい身体が、荒く喘いでいた。半べそのカルフィナを、もっと叱りつけようとしたら……

「姫殿下、カルフィナ様に召喚魔法をお与えになったのは、姫殿下です。そして、俺たちも認めた。カルフィナ様だけを責めるのは、間違いと存じます」

 アイリッシュが急に声色を改めていうの。いつもは、この子、私にタメ口で話すくせに。


 ……わかりました。


「ごめんなさい。私も悪かった…… と、思います」

 それから、心の中だけで、アイリッシュに感謝した。この子は、ときどき、私に強いメンタルと冷静さを分けてくれるから。

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