#012 ゴーレムって大きいんだね
星歴1229年 9月29日 午後14時00分
カレーナ川中流域 砂州
はぁ~ いやあ、ゴーレムって大きいんだね。
小人族の召喚術師たちが作ったゴーレム軍団を見上げて、思わずため息。
アイリッシュが駆る飛竜に乗せてもらった。小人族の召喚術師たちは、それぞれ空を飛べる小動物や精霊を召喚して飛んできた。
やってきたのは、カレル湖から流れ出るカレーナ川の下流部。砂州が発達していて、ここならきれいな細かい砂が手に入る。海まで行けば、もっとサラサラの砂浜があるんだけど、土質改良に大量に使う都合から、塩分を含む砂は避けることにしたの。
エルイット長老様からの意見を採用したの。
「姫殿下、大量に使うのなら、海砂は避けてくだされ」
「どうして?」
「土中の塩分濃度が上がりすぎると、耕作地に障害になるのじゃよ」
つまりね、畑の作物が根から水分を吸えなくなるの。
「植物の根っこは、浸透圧の差を使って水分を吸い込んでいるのじゃから……
土壌中の方が浸透圧が高くなったら、水分を吸えなくなって枯れてしまうぞ」
「なるほど」
そんなやり取りがあって、川砂を使うことにした。
カレーナ川の下流部には、大きな中洲があって、ここでサンドゴーレムを大量生産することにした。
飛竜に吊るしてきた大袋から、昨夜夜なべして用意した魔法符を配った。
「紅い方が召喚魔法符、蒼い方が返納魔法符です。予め魔法陣展開に必要な魔法力も込めてあります」
アイリッシュも手伝わせて、大勢の小人族たちに魔法符を配った。それからの実際の作業は、専門家である彼らにお任せした。エルイット長老様の指揮で、次々と巨大な砂のゴーレムが立ちあがった。
私は、実はゴーレムって本物を見たことなかったの。書籍で習って、知っている気がしてただけだった。目の前にすると、感嘆が漏れた。
すっと、私の前に手が差し出された。
「あたしにもサンドゴーレムの魔法符、貸して」
カルフィナだった。
どうしよう?
迷って、エルイット長老様を見遣ると、ふむと長老様はうなずいた。
「ここなら、問題なかろうて」
私は、エルイット長老様へ、感謝の気持ちでペコリと頭を下げた。
「はい。昨夜、作ってるところを見たとおり、召喚術一回分の魔法力も込めてあるから、カルフィナはコントロールだけに集中して」
「う、うん」
「中央帝都でもSランクの死霊術師なんでしょ。才能もセンスもあるはずだよ。頑張って」
紅い魔法符を砂地に差し込む。
カルフィナが呪文の詠唱に入ると、ぽうと周囲の空気が輝き始めた。
私たちは、魔法陣の外へ離れた。
舞うようにカルフィナが呪文を練りあげた。こんなときのカルフィナは、本当に美しいと思うの。
魔法陣が急拡大した。
そして―― カルフィナが発動鍵となる呪文を叫んだ。
「出でよ! サンドゴーレム〈ガルフィリウスの白亜〉っ!」
地鳴りとともに、巨大な砂の塊が地面から突き出した。足元を掬われたカルフィナが尻もちをついた。そのままサンドゴーレムは、カルフィナを頭のてっぺんに載せたまま、空へと立ち上がった。
土魔法〈ガルフィリウスの白亜〉は、大昔の魔族、大魔導師ガルフィリウスが作り出したゴーレム生成魔法。
魔法を使うには、本当は、複雑な祭儀や、星の運行に合わせた祈りや、魔道具の類が必要なのだけど―― この世界では、常用される魔法は、手順が簡易化・一般化されている。
大昔の偉大な大魔導師たちが行った儀式の効果を、簡単な散文詩と法符名の組み合わせで、繰り返し呼び出せるの。
ゴーレムを作る魔法は、いくつか系統があるけど〈ガルフィリウスの白亜〉は、妙なクセもなく、扱いやすくて、応用範囲も広い。今回みたいに、大勢の小人族スタッフに魔法符を配って、ゴーレムを大量生産する場面に向いていた。
「うわわわわっっ! た、高いっっ!」
カルフィナが、サンドゴーレムの頭にしがみついて、叫んでいた。
高さ二十メートル以上あるから、そりゃあ大きいわ。
急いで、アイリッシュに飛竜を出してもらって、カルフィナを助けに行った。
「だいじょうぶ?」
「なんだって、こんなに大きいのよ!?」
???
カルフィナの抗議に近い悲鳴に、小首をかしげた。
「姫殿下の魔法力は、莫大な容量がありますからな」
エルイット長老様が笑う。
あとで知ったのだけど、土魔法〈ガルフィリウスの白亜〉で作るゴーレムって、普通は、この半分くらいの大きさらしい。
私、ゴーレムは書籍でしか見たことないから、そこは実感なかった。
だってね、土質改良の深さが最大で二十メートルだから、問題の粘土層の深さに届くように、サンドゴーレムの大きさを二十メートルに設定していたの。
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