#011 夜なべ仕事のときも寂しくない
深夜23時、コーヒーをお供に、魔導タイプライタを叩いた。
明日朝までに、サンドゴーレムの召喚魔法符と返納魔法符を5千体分、頑張って用意しなきゃいけない。
獣人騎士団のイヌ族の連中は、朝が早い反面、夜は弱い。それに、夜更かしさせると、無駄吠えして迷惑だから…… そんなわけで、私の夜なべ作業用にもうひと張り天幕を用意した。
かこかこかこかこかこかこかこ
「へぇ、これが法符プログラムかぁ。システィーナって数学は凄いよね」
「ちょっと、ココア零さないでよ」
「あ、ごめんなさい」
ダークエルフ族の死霊術師で、私の親友というか幼馴染のカルフィナが、ココアを満たしたマグカップを持ったまま、のぞき込んできた。
かこかこかこかこかこかこかこ
「ミヌエットさん、大地への返納魔法符、書けました。検算、お願いします」
「あいよ。召喚魔法符の方は検算したよ。問題なしだよ」
ミヌエットさんは、獣人騎士団では、大ベテランの法符魔法使い。技術も経験年数も、私よりもかなり上。獣人騎士団でもトップは彼女だと思う。
それに、透くような真っ白な素肌に、清楚な容姿と才色兼備な女性騎士なの。
……黙って、お人形さんみたいに座ってれば、だけど。
お姉さん肌で、しゃべり始めると、男勝り。
バトルともなると、魔法使いなのに、前衛に出る。攻撃魔法を使い始めると止まらない。投射量で圧倒する物騒な戦い方をする人なの。
ミヌエットさんは夜に強いネコ族なので、夜なべ仕事に付き合ってもらった。私が書いた法符魔法のプログラムを、点検してもらう役目をお願いした。
召喚魔法符5千個、返納魔法符も5千個、合計で1万個もつくるから、ケアレスミスとかあったら、材料の真銀符がもったいないでしょ。だから、真銀符に法符を転写して焼き込む前に、法符プログラムに間違いがないか、他者の目で確認したかったの。
◇ ◇
ゴーレム召喚の法符プログラムを、カルフィナはしげしげと眺めていた。そんな様子を気に留めたのか、ミヌエットさんが声をかけた。
「カルフィナちゃんも、法符プログラムを勉強したいのかい?」
「はい。資格取得とか頑張りたいんです。誰かさんのわがままに巻き込まれて、こんなところまで来ちゃいましたけど」
ちらっと、カルフィナの青い瞳が、何か言いたそうに私を見た。
「わたしで良ければ教えるよ。
それに、わたし、法符術士の資格試験の審査員もしてるし……」
ミヌエットさんが、返納魔法符の印刷紙を赤鉛筆でチェックしながら、笑う。
「本当ですかっ!」
カルフィナが黄色い声をあげた。勢いでココアが私の方に零れる。
「ちょっと、カルフィナ、ココア……」
「あら、姫殿下も、初級法符術士試験の審査員のライセンス持ってるでしょ?」
ミヌエットさんが、からからと笑った。
あ…… そのライセンス、先月取れたの、カルフィナにはまだ話してなかったよ。
案の定、カルフィナがギンっっ! と、トゲトゲな視線で私を見据えた。
「抜け駆けしたな、システィーナってば」
「だって、審査員の試験、試しに受けてみたら、合格しちゃったんだもの。これは、不可抗力だよ」
ぷぅと、カルフィナが頬を膨らませた。
「ず・る・い……」
「ごめん」
「ずるい。あたしなんて、初級の法符士も取ってないのに、システィーナってば審査員になっちゃったの?」
「ごめん」
「ずるすぎる。責任取って、法符プログラム教えて」
「えええっっ?」
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