#010 サンドゴーレムを大量召喚します

星歴1229年 9月28日 午後14時00分

カレル西湖畔 建設地



 数日後、ボーリング調査の結果が集まった。

 中央帝都工学院から招いた設計技巧官エトルリアさんに、調査で地面から採取した土壌サンプルであるボーリング柱を見てもらった。

 

 結果は――

「飽和状態の粘土層が結構な厚みであるぜ。計画どおり盛土したら、荷重で圧密沈下、つまり、地盤沈下が起きるぞ。」

 あ、やっぱり……?


「圧密沈下は、何年も後からじわじわ来る厄介な地盤沈下だ。上下水道管も雨水用の水路もやられるし、城壁やら、建物やらは傾くぞ」

 予想はしてた。湖は、静水面だから、当然、細かい粒子の粘土層が沈殿してるはず。そのすぐ近くなのだから、絶対、何か問題があるはず。

 でも、こんなにガッツリな粘土層が、地面の下に隠れているとは……


 どうしよう?

 ここが魔王城下町の新設に最適地なのは間違いない。

 それと、小鬼との交渉に差し障るから、事前にはボーリング調査はできなかったの。う~んと腕組みして悩んでたら、エトルリアさんが提案を出してくれた。


「ここは、土質改良を提案する。ゴーレムを使え」

 へ? えっと?  


「土質改良ですか? でも、ゴーレムでどうやって?」

 私は小首をかしげた。

「簡単だ。サンドゴーレムを建設地の地面へ、埋め捨てにするんだ」

 エトルリアさんが笑う。


 あ、なるほど。

 やっとわかった。


 ゴーレムには材料により複数種が存在するの。

 エトルリアさんは、サンドゴーレムを使えと言った。つまり砂で作ったゴーレムを大量に作り、建設地の地面にぶち込めと提案してきたの。


 ゴーレムクリエイト、いわゆる召喚は、地面に召喚魔法符を刻んだ楔を打ち、召喚術士が魔法を展開することで行われる。


 ゴーレムを地面の中へぶち込むとは、その逆をするの。

 ゴーレムの頭に逆効果の魔法符を打ち込み、召喚術士がサンドゴーレムを大地に還す魔法を行う。


 そうすると、つまり、軟弱地盤の粘土層の中へ、大量の砂がブレンドされる。

「これで粘土層の排水性が改善される。

 水分で飽和した粘土が圧密沈下の原因なんだから、あとは、ストーンゴーレムで百回踏め。そうしたら、必ず締め固まるはずだ」

 まず、砂を混ぜて水はけを良くする。

 次に、問題の粘土層を潰れなくなるまで、踏み潰せと。そうしたら、安心して建設工事ができる。

 実に、合理的ですね。さすが専門技術者です。

  

 ◇   ◇


 その日の夕方、ご飯の支度をしながら、みんなで情報共有した。

 建物の建設が本格化するまでは、遠征軍は天幕生活を続けることになる。本隊も合流して、大天幕村が草原の真ん中に出現していた。

 六王国の領地からは離れているし、認識阻害の結界を張っているから、しばらくはバレないと思うけど、でも、外周城壁までは急いで仕上げたい。


 そんな天幕村のあっちこっちで、急作りのかまどの周りに集まって、みんなでお料理をしてた。何気にキャンプみたいで楽しい。


「そういうわけで、サンドゴーレムをたくさん作ります。あと、並行して魔王城下町建設のために必要な資材調達を進めます」

 ニンジンを剥きながら、みんなに方針を伝えた。


「俺たちの出番だな、五十体くらいでいいか?」

 小人族の召喚士たちが、嬉々として聞き返した。

「ううん。この広い大地を土質改良するんだから、五千体くらい必要かな?」


 ジャガイモを剥いてた小人族が、慌て始めた。

「ひぇ~! そんなにですか? 俺たち、魔法力持つかな?」

「あの、地面への返納魔法はどうするんですか? あまり使わない魔法なので、使えない子もいますよ」

「魔法符も、そんなに用意してないです」

「サンドゴーレムを五千体も召喚なんて、そんなバカ魔法力の持ち主なんて、どこにいるんですか?」   


「はい」

 私はニンジンを持ったまま、左手を挙げた。


「魔法符の材料ならたくさん持ってきました。

 召喚魔法も返納魔法も、私が法符プログラムを書きます。

 あと、動作用の魔法力も魔法符にセットで組み込みますから、みなさんのご負担は軽減できると思います」

 にっこり笑って見せる。


「「「ええっ!?」」」

 小人族たちの驚く声がハモった。

「そこで驚くの、ちょっと失礼。私、魔王皇帝陛下の孫娘だよ」

 でも、ゴーレムの操縦は出来ないから、みんなにそこはお任せだけど。


 私、乗り物の運転は何もできないの。

 魔法力なら無尽蔵にあるんだけど、馬も、飛竜も、船も、全部だめ。センスってものが致命的に欠如しているらしい。


 そんなわけで、サンドゴーレム五千体を動かせるようにするから、運転はお願いね。

 


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