#009 建設開始っ! の前に測量します

星歴1229年 9月29日 午前9時00分

アガパンサス平原北部 カレル西湖畔 建設地


 新・魔王城下町の建設地として選定した場所は、カレル湖の西湖畔。

 水資源の確保、耕作地を開墾できる場所の広さ、街道アクセス…… 様々な面で最良と評価した。


 小鬼族が標石を撤去した後に、すぐ魔王帝国財務卿の紋章入り標石を設置して回った。魔王帝国では、土地など国有財産の管理事務は、財務卿が所掌しているの。


 小鬼族の結界魔法は、所有権を主張するための機能しかなかった。本当はお金を払わなくても、あれくらい簡単に蹴散らせた。でも、所有権譲渡を明確にしたかったので、ちょっと手間だけど、買収したの。


 それとね、お金って金庫にしまっておくだけじゃ、ダメなの。流通しない銀貨に何の意味がある? ちょっと散財しちゃったけど、これは新しい街で商売がうまく回るための布石ってところかな。


 小鬼族のみなさんは、カレル湖畔の丘陵や森林に、小さな集落をつくり生活している。ちょっと気が短いところもあるけど、お金に関しては身綺麗。小鬼族は、宵越しの銀貨を持たない。

 さすがに一晩では使いきれない金額だから、向こう1年くらいは継続して、メイルラント地方の通貨供給量を増やしてくれると思う。


 そんなわけで、買収した広大な土地はというと――

 施工エリアの安全確保のため、入れ替わりに私の魔法で結界を施した。

 私の結界魔法には、認識阻害や、心理的な忌避誘導など、様々な効果がある。これで害虫や、面倒な野生動物、弱小の魔物は、施工エリア内に進入できなくなるはず。


 ◇   ◇


 建設工事の前には、まず、正確な測量が欠かせない。

 施設大隊所属の技巧官をふたつのチームに分けた。


 測量チームには、施工エリア内に、まず、施工用の基準点を設けることを指示した。魔王帝国は、領土周辺の土地にも、測量基準点を設置している。本来は、戦闘用の砦建設などで使う目的なのだけど、それらの基準点を使うことを指示した。


 ところが――


「進軍途中にて、ヴァーリア峠の既設基準点を確認測量をしました。異常が認められなかったため、この基準点を使用して、すでに建設地の測量を開始しております」


 えっ? ごめんなさい。ごめんなさい。プロフェッショナルな施工大隊のみなさんの方が、私よりも手順が早かった。移動中にもできることから測量を進めていたの。


「測量は、本日中に完了します。

 明日から、基盤整備のための盛土の丁張作業に入れますが、その前にご確認をお願いしたい件がありまして」

 そういうと、測量技巧官は、カレル湖畔に広がる建設用地を見遣った。


 総面積約100平方キロメートル、つまり、概ねで縦横10キロもある巨大画地なんだけど、大半は耕作地や牧草地、森林として管理する予定だった。

 巨大な人口を擁する大都市には、近郊農業のために耕作地は必須だと思う。木材需要を満たすために、森林資源もいるでしょ。あと、湖があるから水産資源はここで確保できる見込み。


 そのうち、湖に面した20平方キロメートルを、魔王城下町として整備するのだけど……


 測量技巧官が進捗について、私に意見を求めた理由はもう知っていた。

 もうひとつのチーム、土質調査チームの結果を持っていたの。


 その20平方キロの魔王城下町建設予定地で、ボーリング調査を実施した。

 特に、魔王城直下と、暗黒大聖堂予定地と、外周城壁や、橋梁の予定個所は念入りに調査を指示した。


 新魔王城下町の建設地は、美しい湖のほとりに広がる肥沃な大地。

 それだけに、地盤の強度は心配だった。

 

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