#043 Intermission (システィーナ姫殿下の奔走)

〈ナレーション〉

 11月1日 午前7時15分。追撃に現れたベルメル貴族騎士団は、あっけなくビッグホーン男爵指揮下の魔族突撃騎士団に殲滅された。魔王帝国軍でも精鋭中の精鋭である突撃騎士団は、愚かな人類に絶望を叩き込むのみである。


 午前7時30分。漆黒馬車20両が召喚され、救護テントから重軽症者、約30名が運び出された。漆黒より召喚された馬車は、街道を飛ぶように駆けた。


 午前8時00分。システィーナ姫殿下は、ラーベナの森に集結した魔王帝国遠征軍と、アリエラの人々に、私たちの街への帰還をふんわりと号令した。

 ラーベナの森へ進出していた遠征軍1500人と、アリエラの人々約4500人は、美しく整備された街道を、15キロ北西にある建設地へ整然と歩いた。


 途中、昼休憩をはさみ、昼下がりには、人々はカレル西湖畔にある建設地へと辿り着いた。


 だが、システィーナ姫殿下が奔走することになるのは、建設地に着いてからだった。  

 ベルメル貴族によるアリエラ狩りを契機に、アリエラ王国ティア女王を眷属に迎え入れた結果、大幅に建設計画は繰りあげられた。


 ベルメル王国下層市街に囚われていた、旧アリエラ王国民を収容した。新・魔王城下町建設地は、人口が倍増した。

 遠征軍が、魔族と眷属を合わせて約5400人。 

 アリエラの人々が、約4500人。

 合計では、1万人に迫る規模になった。


 人類との接触に備えて、建設地では外城壁や外周運河など、防衛施設を優先的に施工していた。また、住居棟については、旧アリエラ市街からの移築により、大幅に進捗していた。

 この移築した住居棟により、多数のアリエラ住民の受け入れも可能だった。また、ベルメル貴族の迫害下におかれていたアリエラの人々にとって、事実上の帰郷ともなった。

 

 多数のヒト族を眷属として、建設地に迎え入れた。

 傷病者の救護、住民への食事や衣服の配布。さらに、住民への聞き取り調査による住民票の作成、住居棟の部屋割り当て―― システィーナ姫殿下に直属の獣人騎士団だけでは人手が足りず、施設大隊や魔族突撃騎士団からも応援を頼んで、アリエラの人々の収容作業を進めたのだった。


 だが、問題はそれだけではなかった。

 多数のヒト族を住民として受け入れるということは、さまざまな都市インフラが必要となることを意味していた。具体的には、市庁舎、学校、病院、銀行、教会、各種商業ギルド、食料品市場などである。


 前述のとおり、この段階では、建設地には外城壁の一部、外周運河と橋梁、住居棟だけしかない。


 施設大隊できちんと準備していたのは、診療所くらいだった。

 学校については、旧アリエラ王国から移設した図書博物館を転用した。

 各種ギルドについては、ライムギルド長へ協力を仰ぐとともに、アリエラの人々から経験者を集めた。

 銀行については、住居棟から特に堅牢な建物が選ばれて、急ぎ改装された。運営は施設大隊から会計担当の従者が選抜された。

 食料品市場は、大通りの一部に天幕が渡され、アーケード街とすることで、何とか解決された。当面は、果物やジャガイモが、木箱や荷車に盛られたまま売られることになった。

 

 システィーナ姫殿下は、アリエラ街区始まりの日、怒涛の如くスタッフに指示を飛ばした。建設地の工事現場を、たった1日で人々が住まう街に作り替えたのだった。

 折り紙の鳥により、ファレンカルク伯爵へ、アリエラ住民の受け入れ準備を予めて依頼していたことも幸いした。


 とはいえ、前夜からの徹夜続きだった。

 当面の課題について、すべての決裁を終えたあと、システィーナ姫殿下は万年筆を握ったまま、眠っていた。

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