#041 ラーベナの森で美味しいシチュー

 星歴1229年 11月1日 午前4時30分

 ベルメル王国近傍 ラーベナの森


 破砕したベルメル王国北城門を抜けると、真新しい敷石舗装の街道ができあがっていた。その先には、ゴーレムを変形させて作った石のアーチ橋へ繋がっている。さらに、街道は中間拠点にしたラーベナの森に続いていた。


 突貫工事とは思えない出来栄えの街道を眺めて、思わずぽーとしていた。本当に、これ、こんな短期間で作ったの?

 白亜の敷石舗装は綺麗に仕上げられていて、馬車で駆けても揺れないと思うほど。それが、ラーベナの森を越えて、私の領域魔法の外へ、遥かカレル西湖畔へ続いているの。


「姫殿下、まずは上首尾のようですな」

 北城門をぶち抜いた先で待っていたのは、小人族エルイット長老たちだった。


「ありがとうございます。それと、いろいろお任せにしてすみません。あと、この街道、すごいです」

「なぁに、姫殿下が魔法符の作り置きをたんと残しておったから、存分に使わせてもらったのじゃよ」 

 エルイット長老は真っ白なあごひげをしごいて笑う。


 あとで、詳しく説明してもらったところによると……

 設計技巧官エトルリアさんの発案から、色んな種類のゴーレムを二列縦隊で行進させながら、街道を施工する手順を小人族で編み出したらしい。


 つまりね、先頭を超巨大石材ゴーレムが歩み、重量で街道の地盤を締め固める。

 次に、砕石で作ったゴーレムが、踏み固められてできた溝を歩きながら、小さくなりながら、砕石をばらまいていく。

 三番目に、土で作ったソイルゴーレムが同じように土をまいて歩く。

 四番目に、また、大型ストーンゴーレム。砕石と土を踏み固めて、街道の基礎路盤を成型する。

 五番目に、サンドゴーレム。路盤の上に、クッションになる砂をまく。

 六番目に、薄くスライスした石材を積み重ねて作ったゴーレムが登場。この石材ゴーレムが砂の上に、敷石舗装を並べていくの。といっても、歩きながら、足の裏の石材が一枚ずつはがれ落ちるだけで、敷石舗装ができてしまう。

 小人族の召喚術師たちってば、ゴーレムを大量に召喚して毎日、動かしているうちに、足の裏で街道を敷石舗装できるくらいに、器用にゴーレムを操れるようになったの。

 七番目に、小型のサンドゴーレムが敷石舗装を歩きながら、転圧しつつ、砂をまいて目地を埋める。

 最後、仕上げにカレル湖の水で作ったウォーターゴーレムが、敷石舗装を洗いながら、終点であるベルメル北城門まで走って、完成。

 素晴らしい習熟達成度だった。エトルリアさんとエルイット長老、ふたりの職人が意気投合した結果である、芸の細かさには呆れたけど。


 そのあと、

 まずは、全員でラーベナの森に移動した。

 そこには、獣人騎士団の手により、天幕村ができていた。

 いい匂いがした。たくさんの大鍋が急作りのかまどで火にかけられている。


「間に合ってよかったですわ。もう、姫殿下がアリエラの人たちを大勢連れてくるっていうから、大慌てでジャガイモ剥いて、ニンジン切って、シチューを用意したんですよ」


 ラグドールさんが、大変だったと訴える。そりゃあ、4500人分のシチューを煮込むのは、大仕事だよね。

「あ、ありがとうございます。でも、いい匂い。私も食べていいよね?」

 鶏肉とジャガイモ、ニンジンがとろりと煮込まれたシチューは、ほんのり甘い暖かい匂いがするんだよ。お腹空いた。


「はいっ! どうぞ。食器やスプーンも小人族のみんなで急いで作ったんです。食べてくださいね」

 ラグドールさんが、エプロン姿でくるりと舞い、両手を広げた。


 でも、じゃあ、私も食べようかなと思ったその時、後ろからアリエラの人たちが集まって来た。何となく隅へ避けてしまった。


「うわわっ! すげぇっ!」

「これ、本当に食べてもいいんですか?」

「ちゃんとお肉の入ったシチューが食べられるなんて……」


 アリエラの人たちは、どっと沸き返った。みんなお腹を空かしていたし、ベルメル貴族たちの暴行に曝されて、生命すら危ういところだった。

 だから、温かいシチューを食べたら、一気に緊張が途切れたり、高ぶっていた心から泣き出す人さえいた。


「はぁ、お料理してこんなに喜ばれるなんて、幸せ~」

 ラグドールさんが両手を胸元に押し当てて、うっとりしていた。


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