第17話 鬼ごっこと極限スキルの話。

ユキとの、無事に修業を終える。

今度は、シルクさんと修業する事になったのだが・・・。


「うぅーん!僕と鬼ごっこしましょう!」

「はい?」


背中のビシィっと効果音がなりそうなぐらいに伸ばし、シルクは準備体操を始める。

そのまま、シャドウボクシングを始める。


修業に、何か意味があるのか?

たしかに、成長スキルで素早さを上げるのに、問題はないけども、他にはなかったものだろうか?


「正直に言うと、僕が遊びたいだけですけどね!」


でしょうね!?

だって、そんな感じがしますからね!


「あ、でも!!よーくんには、ハンデはあげます!」

「ハンデ?」


そう言って、シルクは大剣を取り出す。

そのまま、立っている場所に、地面に円を描くように、大剣で削る。

綺麗に、描けたのか嬉しいのか、その場をぴょんぴょんと跳ねる。


「ウヒャアアア!見てください!綺麗に削れました!」

「お、おう、良かったですね」


褒められたことで、更に興奮し、胸を張って、自慢げに鼻息を鳴らす。

いや、確かに、綺麗に円状に削れてるけど、そこまで喜ぶことなのか?

そして、大剣を納めて、仁王立ちで、今回の修業という、遊びを説明しはじめる。


「僕は、この丸の中でしか動きません!あ、もちろん!よーくん達は、武器も投擲物も、何でも使っても良いですよ!」

「はい?本当に言ってますか?」

「もちろんですよ!後輩には優しくしろって、うーさんに言われてますからね!」


そう言って、自分の不利な条件ばかりを、次々と付け足していく。

他にも、「別に爆発させても良いですからね!ウヒャアア!芸術だああ!」とまで言う。

あの円の中で、どうやって避けるんだ。


「勝利条件は、僕にタッチしたら、勝ちでふ!」

「後悔しないでくださいね」

「むっふー!もちろんですよ!」


俺は【加速】【スピードアップ】を発動して、手を伸ばして、シルクさんを捕まえようとするが、その場からいなくなる。


「僕はここですよー」


いつの間にか、後ろに回り込まれる。

後ろを振り向くと、シルクは片足を、トントンと鳴らしながら待ってる。


「このッ・・・!」


ムキになって、掴もうとすると、またしても、その場から消える。


「な!?」

「むっふー!よーくんはまだまだですねぇ!」


いつの間にか後ろに回り込まれた。

今、思え返せば、あの時、助けてもらった時も、動きが全然見えなかった。

この範囲なら、すぐに捕まえられると思ったけど、簡単にはクリアできないようだ。


「い、いつのまに・・・」

「僕は移動しただけですよー」

「移動だと?アイリス魔力を使った形跡はあるか?」


瞬間移動の間違いじゃないのか?

アイリスに魔眼で調べてもらうと、すぐに返答が来る。


「ヨウイチ・・・シルクが言ってる事は本当・・・しいて言うなら魔力で身体能力を向上させてるだけ・・・」


アイリスはそう断言する。

シルクは、魔力で身体能力を上げただけだった。


「むっふふー、アイリスさん!流石ですね!その通りです!僕は魔力で身体能力を向上させてるのですよ!」

「魔素はつけないのか?」

「ダメですよ!?そんな事したら、よーくんがバラバラになって、死んじゃいます!!」

「はい!?」


シルクさんが言うには、魔素に纏ってる状態になると、魔素と魔素がぶつかり合って、その圧力によって、衝撃波が発生しやすくなるらしい。

つまり、さっきみたいに移動するだけで、弾け飛ぶとか・・・。

流石に、ここで死にたくないから、今まで通りにしてもらうことにした。


「むっふー!では!続けて行きましょうか!」

「わかりました」


その後、6時間程、鬼ごっこを続けたのだが・・・一度も捕まることはなかった。


「くっそー・・・!捕まんねぇ・・・!」

「まだまだですねー!」


既に、俺の魔力は空っぽで、捕まえるどころか、掠りもしない。

そして、シルクさんの魔力量が桁違い過ぎる。

あれだけ、鬼ごっこしても、息切れするどころか、疲れる様子もなく、その場でスクワットした後に、いつもの奇妙な踊りをしていた。


「僕は思うんですけどー」

「なんでしょうか?」

「せっかく、転職の加護があるのに、なぜ有効活用しないのでふか?」


変な踊りをしながら言われる。

シルクに、言われてから、初めて気づく。

ただ、捕まえることしたか、考えてなかった為、スキルも何も使っていなかったのだ。


「僕は、これが本当に殺し合いでしたら、使えるものは全部使いますけどねー」


シルクは物騒なこと言いながら、笑顔で言う。そのまま、隣に座る。

でも言ってる事は正しい、もしもこれが、殺し合いなら俺も使えるものは全部使う。


「どうでしょうか?ヒントにはなりましたかね?」

「はい、むしろ答えなのでは?」

「むっふー!そこは気にしない!」


そうだ、これは殺し合いだ・・・俺はシルクさんを殺さなきゃいけない。

だけど、対象が対象でやりにくい。

だから、復讐の対象でもある、”アイツ”をシルクさんと置き換える。


黒い何かが蝕む、久しぶりの感覚。

今、目の前にいるのは、アイツ・・・シルクさん何かじゃない。

俺の復讐対象、殺害対象、殺人対象、抹殺対象、処刑対象。

殺す・・・殺す殺す殺すッ!絶対、殺さなければならない!


今なら油断してる。何処を狙えば、確実に殺せるのか?

人の反応速度の限界は0.2秒、それ以内に攻撃すれば、何処だって良いのか?


黒杉はズボンに隠してあった、短刀を取り出し、シルクの首に向けて短刀を振る。

しかし、隣に座っていたシルクは、その場に消えた。


「ウッヒャアア!今の惜しかったですね!」

「ッチィ・・・これも当たらなかったか」

「ですねー!ナイフどころか、よーくんから殺意が、ビンビンに反応しましたからね!」


そのまま、顔に目掛けて【石投げ】【ピンポイント】【ショット】のスキル発動させて、短刀を投げる。

音速を超える投擲物を、シルクは少ない動きで避ける。


「よーくん!さっきよりいい感じです!」

「ありがとうございます」


そうだ、使える物は全部使う、俺にはスキルがあるんだ何も、体一つで戦えなんて言っていない、というか、絶対に無理な話だ。

俺は修業したつもりで、強くなったつもりだ。

しかし、現実はそうでもない。

相手は"超人(ヒーロー)"で、俺は"村人"なんだから。

なら、そんな超人に上回る事は何か?


力か?


───違う。


魔力か?


───それも違う。


それともスピードか?


───どれも違う。


答えは全部”NO”しかなかった。


だが、俺が唯一、上回る事ができるのはすれば・・・そう"量"と"数"だ。

俺はアイリスに命令した。


「アイリス!地面を抉らないぐらいに!魔法をどんどん撃て!俺を巻き込まない程度でな!できるか?」

「了解・・・楽勝」

「え、え!?ちょっとまって!?」


シルクは動揺し始める。


「さっき、シルクさん言いましたよね。"殺し合いなら使えるものは全部使えるって"」

「た、たしかに言いましたけども・・・!わわ!?」


シルクに向って、無数の火球が飛んでくる。

アイリスの魔法だ。

今度は、奇妙な踊りから、プロ顔負けのブレイクダンスを踊り始める。


「・・・・クックック。」

「ヨウイチ・・・すごい悪い顔してる。【過炎】・・・」


アイリスは両手で、【高速執唱】を発動させて、魔術執印を速度をあげる。そして、シルクに向けて、【過炎】を連続発動する。

その間に、俺は【収納】から霊水取り出してを飲み、魔力が元に戻ることを確認する。


「あ!ずるいです!」

「うっせ!使えるものは全部使ってやるわ!!錬成錬成錬成ィ!!」


スキル【鍛冶】【錬成】で大量に短刀を作るが、形が歪んでいる。

それも仕方ない、ナイフの構造なんて知るわけが無いんだから。

その短刀を【収納】にありったけを詰め込む


おれは収納から取り出したは投げて、取り出しては投げる!

【ショット】【ピンポイント】【スローイングダガー】【石投げEX】を常時発動させて投げる。


「うおぉおおお!オラオラオラオラオラオラッ!!」

「ま、まって!むっひゃああああ!?」


シルクは、攻撃を避けたり捌いていくが、少しずつ追い詰められていく。

更に5時間後経過し、辺りにはナイフが散らばっている。

砕けたものがあれば、地面に刺さっているのもあった。


「くっそおおお!魔力お化けぇ!!!」

「よーくん!?僕はお化けじゃないですよ!?」


俺は魔力が切れて、霊水をまた飲み始める。

すると、軌光石から、ピロリンと音が鳴る。


───霊水を極限まで飲み続けたことによって、以下の能力を習得する。


・MP自動回復


───対象となった、全てのスキルが極限に達した為、以下のスキルが統一でき、新しいスキルが習得しました。


対象スキル:石投げEX、ショットEX、スロイーングダガーEX、ピンポントEX

・極限砲撃(マキシマム・キャノン)

・極限投擲(マキシマム・ショット)


新しいスキルか!好都合だ!そりゃあ・・・使うしかないよな!



「極限砲撃(マキシマム・キャノン)!」


黒杉はそこら辺に落ちている石を拾って、シルクに向って投げる。

その石が膨大なエネルギーに変化し、一直線の極太レーザーとなってシルクを襲う。


「ちょちょyとつおtっと!?そんなの聞いてない!」

「そりゃあ!!今覚えたからな!!!」


シルクは空中へと跳ぶ、黒杉はその隙を見逃さなかった。

今度は、短刀を取り出して投げる、その短刀は光の速さでシルクに飛んでくる。


「まだだ!極限投擲(マキシマム・ショット)!!」

「ぐうう・・・!?今度は光速!?ちょっと進化しすぎじゃないですかあ!?」


無数に飛んでくる、光速の刃が、一閃の光となって、視界を邪魔をする。

視界を確保しようと、シルクは体を捻って、辛うじて避ける。

しかし、気づけば、目の前には・・・黒杉が飛んでいた。


「そこだぁああ!!!」

「しまっ・・・!」


黒杉は、シルクの視界確保の行動を見逃さなかった。

そのまま、【跳躍】【加速】で、一気に距離を詰めて、シルクに触れようとする。


───残り5cm。


あと少し!


───残り4cm。


あと少し!!


───残り3cm


あともう少しで届くんだ!!!


───残り2㎝。


届けえええええええ!!


───残り1・・・。


あと少しのところで、突如、シルクが光り出す。

それと同時に、何かの衝撃で吹き飛ばされた。まるで、ダンプカーにぶち当たったように。

吹き飛ばされた黒杉は、そのまま壁に向かって、一直線に背中から叩きつけられた。


「むっふうー!流石に危なかったです!よーくんは成長が早すぎます!」


そこには変身した、シルクさんがいた。


「僕を変身させたのは、褒める所です!」

「ぐ、ぐう・・・・!!」


う、動けない・・・今までの疲労がここに来て、一気にきたか・・・。


「あ、無理はしないでください!多分先ほどの吹き飛ばされたダメージがでかいと思いますので・・・って聞いてまふか!?もし、もしもーし!!?」


シルクの声は届いていなかった。

ダメージが大き過ぎる。

ここまで頑張ったんだけど、振出しに戻ってしまった。


「ヨウイチ!」


アイリスか・・・しばらく寝かせてくれ・・・。

そうして、俺は何かに抱かれるように暖かい闇に落ちて気を失った。

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