第10話 VSオロチ戦と謎の少女と男の話


「SYAAAAAAAAAA!!」


オロチは黒杉を見つけると、長い舌を巻き、シュルルと音を鳴らし威嚇する。

ある一本の頭は口を開き、涎を垂らしながら、頭で突進してくる。


「クソッ!!大きすぎるだろ!」


黒杉は【跳躍】をして、大きく飛ぶ。

オロチはそれを追いかけるように、もう二本の頭が素早く追撃する。


「そんぐらい!来るの分かってんだよぉ!!」


両手に持ってる剣と短刀に初級呪術【呪縛】を付与させて、武器が黒い煙を纏う。

そのまま初級風魔法の【風圧(ディ・ヴィン・プレサ)】を使って、身体を風の力で軌道を右のずらし、右頭の方に攻撃しに行く。

そして、呪いを纏った二つの武器をそのまま脳天に目掛けて、ぶっ刺した。


ザシュッ!!


上手く突き刺す事ができた。

しかし、オロチの大きさ過ぎるのか、攻撃は通ることは無かった。


「やはり、呪いで動きを止めるのは無理そうだな・・・ならこれならどうだよッ!!【土堅】!」


そう言って、オロチの頭の上で土魔法の【土堅(ディ・ソ・ドゥル)】を魔術執印で発動させ、片足に泥を纏わせ固定する。

そのまま、【アタック・アップ】【 密迹】【加速】を発動させる。

身体中に力と赤いオーラがに湧き出る、そして加速の効果で頭に突き刺さっている剣を思いっきり踏みつける。

踏みつけられた、剣は更に深く突き刺さり、勢い良く血が噴き出し、服に付着する。


「SYAAAAAAAAA!?]

「おいおい!デカいのは図体だけか・・・うお!?」


突き刺された頭は、悲鳴らしき鳴き声を発し暴れまわる。

固定されてない足が遠心力に耐えきれずに宙ぶらりんになる。

そのまま、魔法を解除して吹き飛ばされる。


「っぐ・・・!」

「ヨウイチ・・・!」


勢い良く、吹き飛ばされる。

そのまま、何かに抱えられるかのようにぶつかる。

ぶつかった方向を見ると、そこにはお姫様抱っこしている、アイリスの姿があった。


「あの、アイリスさん・・・?」

「ヨウイチ・・・大丈夫?」


本来は逆のシチュエーションの筈なんだけどなと思いながら、黒杉の顔を見るなりして微笑む。

その微笑み方は物語に出てくるような王子みたいな優しい笑みでイケメンな姿を連想させる。

しかし、何時まで経ってもこの状態をが続くのが恥ずかしい為、降ろしてもらう事を言う。


「あのー、アイリスさん・・・?ちょっとこの状態だと恥ずかしいですけど降ろしてもらっても良いですかね」

「わかった・・・無茶しないでね?」


少し不服な顔するが、物分かりが良くて良かった。

しかし、降ろされる前にオロチの攻撃がやってくる。

危ないと判断したアイリスは、黒杉を抱えたまま(勿論、お姫様抱っこ)、素早く空中へと逃げる。

もうどうにでもなれと思い、アイリスに負担にならないように首に手をまわす。

すると、彼女の顔が嬉しそうにしていた。


「へへへ・・・」

「ヘヘヘじゃないぞ、ほら、ちゃんと前を見な」

「うん・・・分かった・・・気合入った」


依然として、オロチは八本の頭がアイリスたちを追いかける。

それに負けず、アイリスは巧みな飛行技術で攻撃を次々と避ける。

そして、アイリスは飛行中に呪文を唱える。


「大いなる風の精霊シルフィードよ、審判の時。大気は一つの風になり、風は一閃の刃となれ、そして罪を裁け!・・・【風の処断刑(プロ・ヴェクトル・ヴィン・ドゥ・ポエン・クストディア)】!」


アイリスが唱え終わると、オロチの頭上に風が集まる。

次第にその形は三日月の刃に変わり、そのままオロチの首に目掛けて落ちていく。

そのまま、風の刃は首を突き抜ける。

その一本の首がずるりとズレ落ちる。


「(ハハ・・・敵じゃなくて良かった・・・)」


そのアイリスの魔法を間近で見て、驚いたが本当に敵じゃなくて良かったと思う黒杉であった。

きっと、敵だったら会って数秒で首を吹き飛ばされただろう。


「先ずは一本だな」

「ヨウイチ・・・アレ!」


すると、首があの時の"ケロベロス"と同じように、徐々に頭は黒く粘りついた物が増えていき、やがて頭が再生していく。


「クソッ!コイツも再生持ちかよ!」

「どうする・・・ヨウイチ?」


どうにかしようと、何とかしよう考えるとオロチの身体が静かに光り出し周りの魔素がオロチの身体に集まっていく。

何か嫌な予感がする。すくなくとも何かをしでかすのは間違いはないようだ。


「アイリス!気を付けろ、何か来るぞ!」

「了解・・・!」

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


オロチは咆哮を放つと、空中の四方八方に白い魔法陣が浮かび上がる。

その白い魔法陣は黒杉たちを狙うかのように角度を変える。


「SYAA!」


オロチはもう一声を鳴くと同時に、白い光の弾幕が雨のように降り注ぐ。

アイリスが何とか避けようとする。

しかし、圧倒的な密度と量が襲い掛かってくるため、避けきれずに、肩に被弾する。

当たった光はアイリスの身体を抉り、片腕がダラーンと垂れ下がる。

その状態帯で片手でなんとか、黒杉を抱える。


「アイリス!腕が!」

「大丈夫・・・すぐ直る」


そう言うと、骨まで見えていた、肩の部位が筋肉、皮膚、骨までみるみると再生していく。

アイリスの【超再生EX】【自然回復EX】の効果だ。

おいおい、アイリスさんは万能過ぎないか?


「魔力がある限りは再生する・・・だから大丈夫」

「頼もしすぎるなあ・・・っと、アイリス!左から来てる、上に飛べ!」


アイリスは静かに頷いて、左からオロチの頭に避けつつ、急上昇する。

激しい弾幕を避けている時、アイリスの目が赤く光り出す。

その際、今回は被弾せずに避ける事ができる。


「今のよく避けれたな」

「余裕・・・二度は失敗しない」


オロチの頭上にたどり着いた所で、アイリスに止まるように合図する。

そのまま、黒杉はアイリスから離れ、そのままオロチに飛び込む。


「アイリス、大丈夫だ!後は援護を頼む!」

「了解・・・気を付けて、相手は厄介・・・」


黒杉はアイリスの言葉に頷き、【収納】から二本の大剣を取り出す。

そして、今度は大剣に魔術執印を書き、【過炎】を発動させて、事前に油を塗っておいた大剣に魔力を帯だ炎を纏わせる。


「オラアア!食らいやがれ!」

「KISYAAAA!」


【石投げ】【スローイングダガー】を発動させて、【風圧】を使って身体を捻らせ回転させる。

そして、その回転力を利用して流れるように投げつける。

勢いよく投げつけられた、大剣は曲線状を描きながらオロチの方に向かって行く。

再び、身体が回転した状態で【収納】から剣を取り出し、炎を付ける。


そのまま、【加速】発動させ、【風圧】で身体ごと吹き飛ばし、白い魔法陣の追撃が追い付けないの速さで急降下する。


───加速・・・加速加速加速!!加速ッ!!!



放たれた大剣は、首の真ん中辺りに目掛けて焼き付けるようにオロチの首を抉った。

しかし、血は噴き出さず大剣の灼熱の温度によって傷口が溶けて再生はせず、そのまま、抉られた傷口に目掛けて、高速回転で【スラッシュ】で攻撃する。


「【スラッシュ】!!!スラッシュッスラッシュッスラアアアアアアッシュ!!!」

「KISYAAAA!!?」



ズバダァン!!!


オロチの首はッジュと一瞬だけ音が鳴り、そのまま勢いよく切断される。

しかし、完全に溶けきれずに少しずつ再生していく。

このままだと、また再生してしまう。

黒杉はすかさず、見上げてアイリスに炎魔法で傷口を塞いでもらおうと伝える。


「アイリス!!炎魔法で切断した首の断面を溶かすんだ!!」


アイリスはコクリと頷く。

そのまま、左腕を真っすぐ伸ばし、手を広げ赤く光る、右手の人差し指は紫に光り、左手の上に呪文をなぞり魔術執印を発動する。


「炎は雷針と成りて・・・焦がせ!燃やし尽くせ!!【緋雷(シーン・メディアーテ・ティジス・クチーノ・ヴィ・トニィトゥラ】」


魔術執印で発動後、手から緋色の雷がオロチの首の断面に向って雷鳴と共に放つ。

断面は黒く焦げ、腐った臭い、硫黄の臭いが充満し鼻につく。

だが、再生は何とか止める事ができ、オロチが悲鳴をあげる。


「よし、まず一本だ・・・っぐ!」


今の攻撃で、かなり魔力が消耗した。

結局、転職してもステータスは村人には変わらなかった。

枯渇寸前で、【収納】から薬草を噛みちぎる。

しかし、あくまでも体力が回復するだけで、魔力はあまり回復しなかった。


「やっぱり、村人は不便だな・・・!」


身体が少し軽くなったところで、再び立ち上がる。

改めて、見上げるとデカい。

魔力が少ない中で、こんな強大な敵に勝てるだろうかと不安になる。

先が見えない、そもそも相手は神話の生物、足が竦む・・・。


一瞬、思考が止まる。

アイリスの叫び声が聞こえる、その声に我に返った時だった。


「ヨウイチ!危ない!!!」

「・・・・ッ!!【金剛】ッ!!」



横から、何かが飛び込んでくる。

それはとてつもなく大きく、避ける事が出来ずに食らってしまう。

防御スキル【金剛】を発動させ身体を硬化させるが、しかし、ぶつかったときには簡単に硬化した身体を割られる感覚がした。

そのまま、脇腹に何かが深く突き刺さり、左半身にメキメキと音が響き聞こえる。


ぶつかった衝撃で壁に勢いよく叩きつけられ、今度は体全身がバキバキと音がなり、そのまま地面に真っ逆さまに落ちる。

壁には綺麗な人型の跡が残る。


「ヨウイチ!しっかりして・・・!!ヨウイチ!【ヒール】ッ!」

「ア・・・アイリスか・・・」


アイリスが近づき、黒杉を上半身を起き上がらせて、

息がし辛い、呼吸するだけで全身に痛みが響く。

口からは大量の血を吐き、鱗で刺さった脇腹は穴が開いてた。


結局、ここで野垂れ死ぬ運命だったのか。

なら、アイリスだけでもと黒杉は言う。


「アイ・・・リス・・・逃げろ!」

「・・・ダメッ!ヨウイチと・・・一緒に旅するって約束した!」


アイリスは現実を受け入れずに、ヒールを掛け続ける。

明らかに致命傷、助からない傷、だけど治療をやめなかった。


「いいから・・・ッ!逃げろ!」

「嫌だ・・・ッ!嫌だ嫌だッ!私が守る・・・って!私が守るって言ったんだ!!」


静かだった声が、徐々に荒げる。

アイリスの目元に雫が溜まっていき、やがてその雫は零れ、黒杉の頬に落ちていく。


「もう一人じゃないって・・・思ってた・・・その矢先に失うなんて・・・"もう"嫌だ!」

「アイリス・・・お前・・・」


長く閉じ込められていたアイリスは恐れていた。

自分を縛っていた鎖を断ち切り、美味しいご飯を一緒に食べて、世界を一緒に周ろうと約束した。

何もかもが初めての彼女は、その経験自体が宝物になっていた。

その思いはわずか数週間だが、思いが膨れ上がる。


「だから・・・ヨウイチが言ってたみたいに・・・私も諦めない・・・絶対にあきらめないッ!!」

「ハハッ・・・バカだなあ・・・」

「バカで良い・・・」


危機的状況だというのに、お互いに笑いあう。

その時、だったオロチの頬が膨れ上がる。

膨大の魔力が感じる。


「アイリス・・・ッ!」

「大丈夫・・・休んで・・・」


そう言って、立ち上がって、目に溜まっていた涙を拭き、両腕を伸ばして呪文を唱える。


「古より伝われ光神の加護、全てを遮断し、全てを守れ、我が願いは・・・誰かを守る為に!!【多重魔法障壁・天光の古壁(アンティ・クロアム・ムルタ・ルクス・シェリー・ヴィ・ヴィトス・ムルム)】!」


呪文を唱えると、ドーム状の光の壁が6重に展開させ、壁の周りには白い魔法陣が浮かび上がり周回している。

誰もが見て分かる、とんでもない規模の魔法だという事が。

アイリスの顔に冷や汗を掻く。


展開したところで、オロチの七つの頭が口を大きく上げて、同時に炎を吹く。


「ぐう・・・!!」

「アイリス・・・!」


次に八本の尾で障壁に向って、叩きつける。

ここで障壁にヒビが入り・・・割れる。

一枚、また一枚と徐々に壊れていく。


「っく・・・うあああ!!」

「もう、良い・・・もう大丈夫だ!!」


それでもアイリスは自分から出せる魔力を全力で出し続け、魔法障壁を張り続ける。

しかし、それを追い打ちを掛けるようにオロチが仕掛けた、白い魔法陣が無数の光の弾幕を放つ。

そして、また一枚が壊れる。


「アイリス・・・!!」

「ヨウイチ・・・ッ!」


アイリスは黒杉の名前を呼ぶ。

抑えたまま、顔だけ黒杉の方へと向ける。


「ヨウイチ・・・安心して・・・守るから・・・」

「・・・もう・・・良いんだッ・・・逃げてくれ」


その顔は笑顔だった、それは安心させるために向けているのであろうか。

彼女は短い期間で芽生えた感情と思いを伝える。


「・・・大好きだよッ」

「・・・・ッ!」


それは唐突な告白だった。

アイリスは顔を少し赤くして、再び真剣な表情に変わりオロチを見つめて前を向く。

繰り出される攻撃を耐える続けるが、また一枚破れる。

残り2枚、これを突破されれば二人は消し炭になる。


「う・・・うああああああああああああああ!!!」


アイリスの腕に負荷がかかり始める。

身を焦がそうとも耐えながら叫ぶ。

それは愛すべき一人の人間の為に。

魔法障壁は更に硬化するが、虚しくも破られる。

残り1枚


「(動けよ・・・俺の身体!!このクソ!動けよ!!ここで諦めるわけには、いかねえんだよ!!)」


だけど、身体は動かそうとしても、動かせずに倒れたままに、自分の無力さに嘆く。


「(ふざけんなよ・・・!そうだ、俺はアイリスと旅をするって大口叩いたじゃねえか!アイリスが諦めていないのに、俺が諦めてどうすんだよ!!)


動かない身体を、戦慄が走る痛みを耐え、少しずつ腕を動かす。


「(自分が招いた事なのに、人に尻ぬぐいさせてんじゃねえ・・・動けよ!動いてくれよ!!俺の身体!!!)」


そして、最後の一枚にヒビが入る。

それを見た、黒杉は思う。

このままだと、アイリスが・・・死ぬ。

そんな最悪なビジョンが見えた時には叫んでいた。


「誰でも良いから!!!アイリスを救ってくれええ!!!」


そして、最後の一枚が割れ、目を瞑る。

ここで、お終いか、炎に巻き込まれて光に抉られ、尾で潰される。目を瞑った、



だが、数秒経っても、黒杉たちは"生きていた"



熱さも感じない、抉られない、潰されない。

恐る恐る、目を開けた。

目の前には驚くべき光景が広がっていた。


そこは、八本の頭と尾が無く。

地面にゴロゴロと転がっていた。

そして、オロチの前に一人の男が立っていた。


黒いコートに身に纏い、短い白い髪の毛が風になびく、こちらを見つめる碧い瞳は不思議と安心できた。

腰には刀が差してある。

男はこちらに近づき、言う。


「ふう・・・間一髪だったな、大丈夫か?」

「・・・大丈夫に見えますかね?」


男は静かに笑いながら言う。


「違いないな、話は後だ・・・シルル!今だ!」


上に向って、合図する謎の男

黒杉達も上を見た、そこには大剣を持った少女が勢いよく降りてきた。


「まかせて、うーさん!!うりゃああああ!!」


シルルと呼ばれる大剣の少女は勢いよくオロチの身体の中心に向けて大剣を振った。

ただでは済まないであろう、振った大剣は地面が割れて揺れし

凄まじい轟音を鳴らしながら地面にめり込む。

それでも完全には両断されてはいなかった、ただ分かるのはオロチの再生が追いついていなかった。


「あちゃー、うーさん!すみません!思ってた以上に硬くて斬れませんでした!」

「大丈夫、良くやってくれたよ」


そう言って、少女の頭を撫でると「ウヒャアアア」と叫びながら喜ぶ。しかし、オロチは徐々に再生していき形を戻していく。


「あ、あの・・・」

「取り合えず、終わらせるから待っててくれ・・・ったく、これだから再生持ちはめんどくさい」


そう言って男は、刀を抜きオロチを向ける。

少女も男の動きを合わせるように大剣を構える。


「だから、殺しがいがあるんだけどな」


そう言って、男は優しそうな表情が一変して凶悪に笑う。

しかし、その笑い顔は安心と安全を約束した合図だと分かった。


「SYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


斬り落とされた、7本の頭が復元する。

相変わらず、とてつもない速度で再生する化け物を、黒杉とアイリスは眺める。

しかし、それよりも存在感があったのは、白髪男と眼帯少女。


あの二人を見ていると、何故か背筋が凍る。

単に、血を流し過ぎただけかもしれない。

本当にそうだろうか?それとは別の悪寒を感じる。

まるで、死神に見られているようだ。敵対だけはしてはいけない。

危険信号が鳴る。

幸いにも、鎌を突きつけられてないだけマシだった。


「よし、シルル行くぞ」

「あいあいさ!!」


合図と同時に、男と少女はその場から一瞬でいなくなる。

次の瞬間、二人の身体は宙を舞っていた。


「速い・・・ッ!?」

「目で追うだけで精いっぱい・・・」


黒杉には瞬間移動にしか見えず、アイリスは何とか目で追えるくらいだが、二人は空へ跳んだけだ。

これだけで、自分たちの力に、天と地の差があると分かる。いや・・・分からされた。

黒杉は自分の弱さを悔い、拳を強く握りしめる。


「さあ、次は再起不能にしてやるさ」


男は空中で刀を構える。

左の二本の頭が涎をたらし、興奮したかのように大きく口を開き、噛みつこうとする。

しかし、その頭は、男の目の前、わずか30cmあたりでピタリと止まった。

蛇の頭はゆっくり目を上を向き、やがて白目になる。

男は"何もしていない"ように見えた。

黒杉たちは、静止したオロチを初めて見て、動揺する。


「な、何があったんだ・・・あの化け物が動かない?」

「よ、ヨウイチ・・・あれ見て・・・ズレてる・・・」


二つの蛇の頭が徐々にズレていく。

そのズレは次第に不自然になり、首が落ちた。


──そう、彼は"刀を抜いていた"。

いつの間にか抜いていたのだ。

その抜刀の速さはアイリスの目すら、捉えることが出来なかった。

オロチが、自らの死に気が付かない程に。


落ちたオロチの首を見ると、その血が、赤い煙・・・いや、赤い"霧"となっていた。

首の断面から噴き出るはずの血が、霧となって分散していた。

その状態のオロチは再生せずに、ただただ蒸発していた。


「うっそーん・・・」


超再生によって、苦戦したオロチがいとも簡単に倒される。

まさに"規格外"その物だった。


オロチの身体の反対側から、ドサァと大きな音が聞こえた。

その音に釣られてみると、少女が荒々しく攻撃してるように見えるが、繊細にオロチを解体していた。


「うりゃりゃりゃりゃ!!!」


先刻まで、大剣の形をしていた武器が、チェインソーのように変形していた。

チェインソーの刃はマグマのように赫く、その周りは揺らめき、灼熱を帯びているのが分かる。

そして、凶悪そうに高速回転している。


「SYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

瀕死のオロチは、もがくように尻尾で猛攻を加える。


「うわわわ!?大人しくしてないと駄目ですよー!」

少女は身軽に避ける。


猫のように軽やかだった。

そのまま、一直線に攻撃してくる尻尾を避けて切り落とし、断面を焼き上げ、再生を食い止めた。


しかし、左右から炎のブレスが襲い、少女は炎に巻き込まれる。

その瞬間、炎から天に向かって光の柱が立つ。


そして、炎を片手で吹き飛ばすように出てきたのが、頭には猫のような鉄耳、お尻には細いしっぽ、全身がシルバーカラーが目立つ、バッタのような目は大きく黄色い眼が光り出す。


あれは完全に・・・〇面ライダーだった。


足を肩よりも少し広げて、左腕を斜めに突き出し、右腕は脇を閉めるように横に腕を曲げて左に胸に拳を持っていき、少女は決めポーズをする。


「変身!!キャットうーにゃん!!呼んだな、銀貨2枚だ!!」


ダサい名前と意味不明な台詞はともかく、決めポーズがカッコいい思ってしまう。

黒杉は何故か、敗北感を感じてしまった。

というか何処か見たことあるポーズだなと思いながら、突っ込まないようにした。


そのまま、腰から一本の筒を取り出し、ボタンを押す。

筒の先端から、淡いピンクの光線が細長く伸びる。

それは、この世界に似つかわしくない、"レーザーソード"だった。


「さあ!貴様の悪行三昧はここで断ち切る!!くらえ!うーにゃんソード!!」


黒杉はツッコミたい気持ちを抑え(吐血しながら)、平静を保つために静かに薬草を飲む。

少女はレーザーソードを構え、襲って来る頭を、残像を残しながら避ける。

そのまま、一本、また一本と頭を斬り落としていく。


「うひゃあ・・・臭いです・・・」


そう言って、光線で断面を焦がし、再生を防いだ。

頭は残り二本。そして、僅か開始10分でオロチは死にかけていた。


「SYAAAAAAAAA!!」

「お、元気なやつは嫌いじゃないぜ、だけどお別れだ」


そう言って再び、抜刀の構えになる。

先ほどよりも、腰を低くし、目を閉じ集中する。


「熾炎流抜刀術・壱ノ型『百々時雨』」


一回の抜刀が、幾百の剣閃を放ちながらオロチを刻む。

音速で断ち切られていく身体の端々から、赤く光る玉がのぞく。

その攻撃に思わず、黒杉は見惚れてしまった。


「シルルやれ!!」

「あい、わかった!!」


少女はチェインソー型の大剣で赤く光る玉を砕き、オロチは動かなくなった。


「うーさん!終わりました!」

「よくやったな」


少女はスーツの状態を解除して、元の姿に戻る。

男に近づき、ハイタッチするかのように構え、それに応えるように男はハイタッチをする。

苦戦したオロチを、一瞬で絶命させたあの二人はいったい何者だろうか、そう考えてると、男は近づいてくる。


「大丈夫か?」


男は手を差し出し、倒れていた黒杉を引っ張りそのまま立ち上がらせる。


「あぁ、大じょ・・・グフゥ!」


無理して、平然を装おうとしたが、失敗した黒杉は吐血する。

それに驚いた、アイリスは薬草を食べさせてくる。


「あ、ありがとう」

「うぇええええええん・・・よかったよぉお」


アイリスは顔をくしゃくしゃにして、抱き着いてくる

身体中に痛みと鼻水がべっとりついて、苦笑いをしたいところだが、色々心配させたことを反省しつつ、頭を撫でる。

そして黒杉は改めて二人にお礼をする。


「ありがとうございます」

「気にするな」


男は静かに笑う。

しかし、それとは正反対に、明るく騒がしい少女は男の周りをぐるぐると回っている。

そして、黒杉は尋ねる。


「ところで貴方たちはいったい・・・?」


謎の男はしばらく目を瞑り、やがて口を開く


「俺は月ノ城 羽咲(つきのぎ うさ)、そして組織「フヴェズルング」のリーダーをやっている」


黒杉たちの命を救った、その男の名前は月ノ城 羽咲と名乗る。


日本人?もしかしこの人も転移者なのか?でも明らかにそんな感じの見た目じゃなかった。

この男はいったい何者なのか、謎の組織フヴェズルングとは何の目的で来たのか?

未だに悪寒は止まらず、黒杉は少し警戒する。


その横から少女が割り込むように出てくる。


改めて、容姿を見る。

左目に眼帯して、肌は色白、黒い猫耳帽子をかぶっていてピクピクと動く。

男と同じ、白い髪の毛だが、こっちは綺麗に整えられている。

首には赤いマフラーがどういう原理なのか、ユラユラと風になびくように浮かんでいる。

服装は男と同じ、黒コートだった。


「初めまして!私はシルクと言います!」


シルクは無邪気な笑顔で挨拶をすると、黒杉の手を握り、大きく振った。

そのおかげか、先ほどまでも悪寒はなく、自分が何故、警戒していたのかが可笑しく思えてしまう。

そのまま、シルクは月ノ城に振り向き言った。


「とりあえず生きてて良かったですね!ねっ、うーさん!」

「そうだな」


二人はフヴェズルングという同じ組織で活動しているらしい。

聞いたことのない組織だ。

何故、普通の人が立ち寄らない場所にいるのかが気になった。


「月ノ城さんたちは、何故、こんな谷底にいるんですか?」

「ふむ・・・」


顎に手を当て、考えるそぶりを見せる。

その時、一瞬だけ、月ノ城がアイリスの方を見る。


アイリスは見られたことにびっくりしたのか、黒杉の後ろに隠れてしまう。

何か、気になる事でもあるのだろうか?

そのまま、俺たちを上から下へ観察するように眺める。


「まあ、少なくとも敵ではなさそうだな・・・本来は見られたのなら、斬り捨てるのだが・・・」

「き、斬り捨て・・・!?」

「ハハ、冗談だよ。まあ、記憶は消させるつもりだけどね」


月ノ城は笑う、彼は冗談だと言っているが、恐怖でしかなかった。

そう言って、咳ばらいをして、話しはじめる。


「俺達は膨大な魔力を観測したんだ。その発生源となったこの場所を調べに来てみたら・・・古代魔法並みの魔力を感知したり、シルルに激しい戦闘音が聞こえると言われ、向かってみたらお前たちがいたんだ」


どうやら、アイリスの魔法のお陰で自分たちの場所を感知できたらしい、というか、本当に古代魔法を使えたのか・・・。

次は月ノ城が静かに質問してくる。


「・・・ところで君たちは、なぜこんな場所にいるんだ?この道通りならスノーガーデンに向かうと予想したんだが、それなら嘆きの洞窟をまっすぐ行けば良い筈だ、何があったんだ?」

「実は・・・・・・」


相手が話してくれた以上は、自分たちもきちんと説明する。

別世界から来たと言うこと、その仲間に裏切られたということ、そして、アイリスのことを・・・。

彼らなら信用しても良いと思えた。

助けてくれたということもあるが、月ノ城の真っすぐ見つめる瞳にはどこか安心させてくれた。


「うーさん・・・どうしましょうか?」

「ふむ、なるほどなぁ・・・・・・まさか膨大の魔力はこの子が?」


シルクという少女は心配した顔で月ノ城を見ながら、袖を引っ張る。

月ノ城はぶつぶつ独り言を言いながらしばらく考えた。

そして、しょうがないという顔で黒杉の目の前に立ち話す。


「なら、俺の組織に来るか?」

「へ・・・?」


急な提案でびっくりする。本当についてきても良いものだろうか?

ましては、初対面の相手だ。

黒杉を見て察したのか、月ノ城は近づいて話す。


「黒杉だっけ?あのフィルネル王国から来たんだろ?」

「あぁ、そうだけど」


一瞬だけ、迷うそぶりを見せるが、月ノ城はハッキリ言う。


「なら、お前はもう死人の扱いになっているだろうな」

「そ、そんな!何故なんだ・・・・・・!」

「あの国は・・・そういう国だからだよ」


フィルネル王国の事を話すと、何故か彼の目が鋭くなったが、それは一瞬の事だった。

すぐに先程と同じように真っすぐな瞳に戻る。

どうやら、これ以上、王国の話はしない方が良いようだ。


「じゃあ・・・これから、どうすれば・・・」


正直、信じられなかった。

でも、あの状況から考えてみると、俺が死んだ扱いになっててもおかしくなかった。

なんせ、胸に剣を刺され、そのままアイツに引きずられて奈落の底に落とされたんだ。

死人扱いされても、おかしくない。

下手したら王国に、何をされるか分からない。


自分は最弱の村人、自分は弱い。

きっと、大丈夫だろうと、オロチの戦いで自分の力を過信してしまった。

その結果、アイリスを危険な目に遭わせてしまった。

あのまま王国に戻って、復讐を実行すれば、きっと返り討ちにされ、また殺されるのは目に見えているし、自分がいる事によって、一樹と美空に危険が及ぶ可能性もある。


どうしらいいか、分からないまま、俯きながら考えていると、月ノ城が肩に触れて言う。


「だから、その為のフヴェズルングなんだ。俺達は、いわゆる、この世にいない存在、生きる『亡霊』的な存在だ」

「・・・どういうことだ?」


月ノ城はそこら辺にある瓦礫を椅子にして座る。その状態で手を組み、そこに顎を乗せ、目を細めながら、周りを見渡す。

そのまま、ゆっくりと口を開き、語り始める。


「・・・・・・過去に魔物のによって村が壊滅したから死亡した扱いになっている者、ある時は人の手によって村を壊滅された者、戦死扱いになった者、無実の人が処刑になる筈だった者、そして、友に裏切られた者・・・俺達はそういう集まりだ。」

「・・・」


先程まで、シルクは騒いでいたが、いつの間にか静かに大人しく、月ノ城の話を聞いていた。

猫耳帽子はぺたりとへこむように前に折曲がっていた。


フヴェズルングは、この世の招かざる来客。

存在しない者としての扱いを、受けた者達が集まる『生者たちの霊園』。

そして・・・月ノ城もその一人だった。


「もう一つ聞かせてくれ」

「なんだ?」

「あんた達は、一体に何が目的で、活動しているんだ?」


死亡した扱いをされた人達が集まっている組織なのはわかった。

しかし、肝心の目的が分からない。

何が目的で、何故、そのような組織を立ち上げたのか、何をしている者なのかが分からない。


月ノ城はやっぱり、その質問かと言わんばかりに軽くため息をする。


「俺達は・・・4大魔獣の討伐の阻止と魔獣王を開放するのが目的だ」

「っな・・・!?」


そんな事をすれば、世界を滅びる筈じゃ、それなら国王と言っていることが矛盾していることになる。

魔獣討伐しに向かっている。一樹や美空、佐野、クラスメイトたちはどうなる?

今まで、やってきた事を覆すような、衝撃的な内容だった。


黒杉は一気に冷や汗を掻き、焦りが出てしまい、月ノ城に問い詰めるように聞く。


「まてまて!?そんなことすれば滅びるじゃないのか!?」

「逆だ、放置すれば滅びるし、開放しなければ滅びる」

「ッハ?ッハア・・・?結局どっちもだめじゃんか!?」

「まあ、落ち着け、ちゃんと話す」


そういって、体勢を変えて、次に足を組んだ。

変わらず、涼しい表情で話はじめる。


「さて、黒杉は、国王に、この世界で今起きていること、魔王のことや4大魔獣のことを、なんて説明されたか、覚えているか?」

「たしか・・・魔王が魔物を放って世界で暴れまわっている。魔王は力を使って、魔獣王を使役している・・・とは聞いたけど・・・」


そう言うと、月ノ城は肩を落として、「やっぱりか」と言う。


「逆だよ・・・全部、奴の嘘だ」

「う、嘘?」

「ああ、4大魔獣はこの世界を守る、いわば、守護神みたいなものだ」


次に立ち上がって、そこら辺に落ちていた、折れた剣を拾い、地面に絵を描き始める。


「いいか?元々、4大魔獣ってのは、この世界を均衡を保つために存在している。だがな、この世界を創造した、クソッたれ十二神が、今の世界がつまらないという理由で、世界を壊して、再構築すると言ってやがる。それも、4大魔獣を殺す事で、世界の秩序と理を崩すことで、クズ十二神どもが召喚され、世界を壊すことになる」

「じゃ、じゃあ・・・俺たちがやっていることって・・・!?」


月ノ城は頷き、言う。


「ただの世界を壊す為の、手助けだ・・・」

「そ、そんな・・・」

「ああ、だから、魔王がこの世界の4大魔獣を殺さないように、守っている。だけど、その事がきっかけで、4大魔獣を使役していると、勘違いしてる奴が多い」


話の規模が大きくなる、一方で、黒杉の思考が追い付かずに、パンク寸前になる。

同時に、自分たちは世界を壊すために召喚されていると、思うと、身体が震えあがる。

アイリスは震える手を握り、安心させる。


「アイリス・・・」

「大丈夫・・・知らないのは罪じゃない・・・ヨウイチのこと、責めないよ?」

「ああ、甘い雰囲気を出すのはいいが・・・続き、いいか?」

「あ、ああ・・・すまん」


なんとも、気まずい空気になってしまったが

そう言って、月ノ城は咳ばらいをして、続きを話し始める。


「しかし、守ったら守ったで、厄介なんだ」

「厄介とは?」

「4大魔獣は、魔王に操られているわけでもなく、バカ十二神によって操られている。そのせいで、膨大な魔力と魔素の毒を発して、魔物が活発になり、狂暴化している。その為、4大魔獣を正気取り戻し、開放させる旅をしている」

「なるほど・・・」

「その事情を知っている上で、活動してるのが、俺たち『フヴェズルング』と言う組織だ」


そして、月ノ城は言う。


「そして、最終目的はこの世界の12人の神を殺す」


───神を殺す。


月ノ城はそう言った。

日本なら、罰当たりでしかない、その行為は、この世界ではしなければならない。

しかし、本当にしても良い事なのだろうか?


不確定な情報の中で、黒杉は頭を悩ませる。


「話は以上だ」

「なるほどな・・・」

「信じてくれるか?」

「うーん・・・・」


正直、急展開過ぎて受け入れられないって感じだった。

国王との話が、対象過ぎて、何が何だか分からなくなってしまう。

どちらを信じたらいいのか?


「ヨウイチ・・・」

「ん?どうした?」


アイリスが服を引っ張る。


「ヨウイチ・・・この人達は大丈夫だと思う」


アイリスは信用しても良いと言う。

その顔は、迷いはなく、紅い瞳が黒杉を見つめる。


「どうしてだ?」

「分からない・・・でも、この人たちなら、信じても良いと思う」


黒杉は、しばらく考える。


「(アイリスの直感だろうか?もし、選択を間違った時は・・・)」


再び、アイリスと目が合う。

あの時、守ってくれた。

あの背中と笑顔を思い出し、黒杉にもう一つの気持ちが芽生える。


月ノ城と同じぐらいに、いやそれ以上に強くなりたい、今度はアイリスを守る為に・・・。

フヴェズルングに入れば、強くなれるだろうか?

もし、なれなくても、何かあった時は、どんな手を使ってもでもアイリスと一緒に逃げ出す。

考えがまとまったところで、覚悟を決めて、アイリスのその「大丈夫」という言葉を信じることにした。


「分かった、俺はアイリスを信じるよ」

「・・・!ヨウイチ・・・ありがとう!」

「そうか、来てくれる事でいいのか?」


その言葉を言われて黒杉達は頷いた。

月ノ城は安心したようで、悪かった目つきが、優しくなる。


「わあい!うーさん!新しい仲間ですね!!」

「そうだな」

「じゃあ、今回はお祝いしないとですね!」


シルクは子供の様に、はしゃいだ。

月ノ城ははしゃぐシルルの頭を撫で「ウヒャアアア」と叫びながら、喜ぶ。

それは、何かの癖なんだろうかと思いながら、二人の様子を見ていた。


「(そういや、この子は自分のよりも大きい大剣を振り回してたな・・・)」


シルクは見た目でも、あの戦いを見た後、相当の実力者なのが分かる。

名前やライダースーツとか、ツッコミたい所はあるが・・・。


黒杉の視線に気づいたのか、シルクが近づく。


「な、なんだ?」

「ヨーくん!よろしくね!うーさんは見た目はアレだけど、とても優しい人だから大丈夫だよ!」

「アレとはなんだ、アレとは?」

「ヘヘへ・・・」


シルクは誤魔化すように月ノ城から目を逸らして、そのまま黒杉に近づいた。

そう言って、手を差し出す。


「握手!」

「お、おう、よろしくな」


俺はそう言って、自分も手を握り返し握手をした。


「なっかまー♪なっかまー♪」


すごい、嬉しそうだ。

シルクは月ノ城の周りをスキップしながら不思議な踊りをしていた。

その奇妙な踊りはなんだか可笑しくなり、思わず声をだして、笑いそうになった。


「すまんな、シルルは久しぶりに仲間が増えて嬉しいんだ。」

「お、おう」

「ところで・・・黒杉」

「な、なんだ?」


月ノ城は黒杉をポーチに指をさして言う。

ポーチの中には薬草と水が入っていた。


「その薬草は何処で手に入れたんだ?」

「ああ、これはだな・・・」


月ノ城は興味津々にその薬草を見つめる。

どうやら、この人は、洞察力も優れているようだ。

黒杉は、薬草がある場所まで、案内する。


───【1時間後】


「ほお・・・すごいな」


感心をするように、周りを眺める。

すると、月ノ城は機械を取り出し、何かを計測しているようだ。

黒杉達は、先ほどから月ノ城たちが使っている物が、自分たちの元の世界に近い物ばかりを使っている事が気になってくる。


「それはなんだ?」

「ああ、これか?魔素度を測るものだ」


【魔素度】、魔素の濃度を計る物だと、分かるが、黒杉は魔素と魔力の違いが、いまいち分からなかった。


「思うんだけど、魔素と魔力の違いってなんだ?」

「そういや、別世界から来たんだっけか」

「ここの世界に来て、結構知らないことが多くてな、教えてくれないか?」


そう言うと、月ノ城は胸ポケットから、メモ用紙らしきものを取り出して、詳しく説明する。


「【魔力】は体内から生成される、人工的なエネルギーのことだ。人によって、魔力量は変わるが・・・まあ、魔改造すれば、増やす方法はある。魔素とは違って、基本的には体内に内包してある。知っての通り、俺たちが使ってる、スキルや魔法は魔力を消費して、外に吐き出すように、発動する。特に一番影響があるのが、身体能力強化系だな、あれは魔力量によって持続力と質が変わる」

「ふむふむ・・・」


一瞬だけ、不穏な単語が、出てきたは気にしないでおこう。

続けて、魔素の説明を始める。


「草や木、水などの、自然で生成された、エネルギーのことを【魔素】だ。生成された、自然エネルギーは湧き続けるから、内包しきれなかった、魔素は表に吐き出す。特に谷底など奥深い所は魔素が使われることはないから、魔素は濃い。・・・だけど、濃すぎると、植物は魔素に耐えきれず、育たない。だから、何故、この場所に薬草が育ったのが不思議なんだ」


説明されながら、しばらく進むと、自分が作った釜土がある。いつもの拠点にたどり着く。。


「すごい、濃度だな・・・しかし、なぜここまでの濃度に草木は耐えられるんだ?」

「うーさん、うーさん!見てください!あそこに水があります!」


シルクは興奮したように、月ノ城の裾を引っ張り、そのまま連れていく。

連れていかれた場所は、湖だった。

月ノ城は、手ですくって、水を飲む。

確認するように味わうと、何か分かったような顔をして、シルクに言う。


「よくやった、シルルありがとうな」


そう言って、シルクの頭を撫で、「ウヒャアアア」って叫びながら喜んだ。


「何かわかったか?」

「あぁ、多分この水辺のおかげで草木は育ったんだろう」

「ほうほう」

「これは霊水だ。非常に濃度の高い水のことだ、この水に浸かるだけで、致命傷でもすぐに治るだろうな。そんな、霊水で育った、この薬草は、霊月草って言う」

「詳しいんですね」

「ああ、昔、色々あってな・・・まあ、それよりも、本来はとても希少な草なんだ。まさかここでお目にかかれるとは・・・しかもこんなにも大量にあるとは、予想外だ」


その霊月草のおかげで、自動回復効果ついたことは黙っておいた。

そして、胸の傷はが治ったのは、この霊水のおかげだと気づく。


「さて、今回は良い収穫だ。さてそろそろ基地にもどるか」

「出口はわかるのか?」

「ああ、こっちだ、ついてこい。」


そう言って、月ノ城に案内され、洞窟に外に向かうことになった。


――――――――後日談


「そういや、月ノ城さん達のステータスってどうな感じなのさ?」

「気になるのか?」

「そりゃ、オロチをミンチにしたんだし気になるに決まってるじゃん。」

「ふむ、そうか・・・いいぞ見て」


見たことない、機械を取り出し、月ノ城はステータスを見せる。


【月ノ城 羽咲】

職業 殺人鬼

LV163

HP200000

MP100000

SP100000


攻撃 111400

防御 85000

魔力 77000

精神 80000

素早さ 80000

器用さ 76000

運  15


スキル

熾炎流抜刀術・壱、弐、参、肆、伍、陸、漆、零式

秘剣「夢幻浄永」

秘儀「刻楼」

熾炎流抜刀術・最終奥義「無十」


パッシブ

・殺人衝動・EX

・修羅

・覇気

・剛神

・武神

・悟りの極致


「な、なんじゃこりゃ!??」

「あぁ、ちょっと色々あってな」

「ちょっとあってなじゃないよ!?職業が殺人鬼ってなにさ!?」

「ハハ、その話はまた今度するよ。ただ今はもうそんなことしてないさ」


規格外とは思っていたが、163レベルってどういうことだよ・・・俺の8倍あるじゃないか・・・。

そして、自分が今まで、悪寒を感じたのは、きっと・・・というか、絶対に『殺人鬼』という職業せいだと思った。

他にも、アイリスもあったが、覇気というのも気になる。

一方シルルのステータスはというと・・・



【シルク・ネーラ】

職業 ヒーロー

LV101

HP140000

MP80000

SP80000


攻撃 80000

防御 80000

魔力 80000

精神 80000

素早さ 80000

器用さ 80000

運  70


スキル

武装変身「キャット・うーにゃん」

大剣使い

必殺パンチ!

必殺キック!


パッシブ

武装神姫

猫魔神

悪は滅ぶべし


この子もやっぱり、ステータスがバグってる・・・・。

そもそもスキルの名前が色々おかしいんだが、武装神姫はまだ分かる。

キャット・うーにゃんってなんだよ!?


他にも色々ツッコミたいが追いつけない黒杉であった。


「なんですか、この子のステータスは!?てかヒーローって何だ?職業なのか?」

「それはユニーク職業だ」

「ユニーク職業?」

「ユニーク職業っていうのは一定の条件を満たすか生まれながらの持つ珍しいですねぇ」


ちゃっかり説明する、シルク。


そういや、アイリスと一緒に転職の加護を、調べた時も、ユニーク職業は、転職できないとか書いてあったな・・・。


「そう!僕の理想の職業です!ウッヒャアアアア!」


そして、シルクは一人で暴走する。


「てか、ヒーローと勇者とは何がちがうんだ・・・」

「何ってるんですか!全然違いますよ!!」


そういって、猫耳帽子とピクピクしながら反応するシルク。


「勇者は使命があるんですが、ヒーローには無いんです!ただしそこに悪があれば飛び込んで成敗するんですよ!フンス!」

「仮〇ライダーみたいだな・・・」

「〇面ライダーとは?」

「そうだなぁ、シルクさん・・・みたいな職業かな?」

「ウヒャアアアアア!私以外にヒーローがいるんですね!」

「おう、いっぱいいるぞ」


嘘は言っていない。

実際、何十年も受け継いでいる、伝統的なヒーローだからな。

色々突っ込みたいことあるけど、聞かないでおこう。


黒杉たちは、夕陽に照らされ、今後のことを考えながら、基地へ向かうのだった。


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