第8話 料理とヒロインの話

――――――【???】


彷徨って7日目。


身体中が打撲が治っておらず、痛む。

空っぽになった胃袋が何でもいいから、入れてほしいと叫ぶ。

その度に涎が止まらず、お腹がロープに締め付けられるような感覚に苦しめられる。


「う・・・あ・・・」


視界が掠れて、地面が見えずに石に躓き転ぶ。

地面は石で出来ていて、身体にまた一つ痣が増える。

ズボンの膝布は既に破れ、血が固まらずに流し続けた。


「くっ・・・うぐふ・・・」


涙ぐむ気持ちを抑えために下唇を血が出るまで噛む。

細くなった腕で黒杉は立ち上がる。

身体は既に限界を迎えているのに、生きたいとすがるその意思だけで体を動かしていた。


先の見えない出口を探し続けて、7日目。

幸いにも、魔物に気づかれる前に見つけ、隠れてやり過ごした。

能力も何もない村人は、例え1対1でも自殺行為でしかないのは黒杉も知っていたからだ。


「(何故・・・僕が・・・)」


岩壁に寄りかかり、上を見上げると変わらず闇が広がっていた。

目を閉じて、あの時の光景を思い出す。

クラスメイトの中に混ざり、板野のあの不気味な笑顔で美空の後ろから見ていたこと。

あの時点で、板野の不気味な笑み見る限り、最初から黒杉を陥れようとしていたことが分かる。


そして、僕の胸に目掛けて後ろから、剣を突き刺した。もう一人の板野。

影のような漆黒の兜で顔が見えなかったが、あの声は間違いなく"板野"だ。

皮肉にも、普段からイジメられていたせいか、頭の中に声が染みついていた。


どんな手を使って、分身したのかが分からない。

しかし、"アイツ"は忍者じゃなくて剣士だった筈。

仕掛けが分からない。


だけど、もし、同じ事を繰り返すなら?


「(美空が・・・危ない・・・一樹も・・・)」


あの目の狂気はきっと、周りを巻き込む。

板野が何故、あそこまで狂気的になったのかは分からない。

しかし、野放しにすれば、美空の周りにい奴ら、関わった奴が殺されてしまう。

きっと、僕みたいに・・・。


「(許せねえ・・・僕の友達を・・・親友を・・・!)」


頭の中にビジョン(最悪な結末)が見える、それは黒杉と同じように殺される一樹の姿、好きなようにされてしまう美空、一緒に元の世界に戻る筈だった、クラスメイトが死体の山になる姿が鮮明に見える。


助けないと・・・。

でも、村人の僕が何ができる?

いや、やるんだ。変わるんだ、生きて変わるんだ。強くなるんだ。

弱い自分を切り捨てるんだ。

村人なんて関係ない、ただの職業の差でこじつけられた、言い訳だ。

いつも通りに僕は・・・いや・・・。


「(諦めねえ・・・"俺"は諦めねえぞ・・・!)」


その激しい怒りが身体が黒い何かが蝕むと同時に、消えかけた心の灯が一気に燃え盛る。

死んでいた目が光を取り戻し、乱れていた呼吸が整えられる。


そして、強く握りしめた黒杉の手は傷ができ血が滴っていた。

壁を思いっきり殴り、この怒りを何処にぶつけたらよいのか。

何度も壁を殴った、その壁は徐々に黒杉の血が染まっていく。


黒杉は再び、板野の不気味に笑顔を思い出す。


「クッソ!!腹立つ!!」


ふざけるな・・・ふざけんなよ・・・クソッ!クソッ!!!

自分の個人的な欲のために、美空と一樹を傷つけようしているのか?

アイツの思惑通りにさせてたまるものか・・・。


アイツだけは殺す。

絶対に殺す、コロスコロスコロス・・・コロスッ・・・!!

誰よりも、惨たらしく殺す、お前が俺にやったみたいに殺す。


生き残ってやる、絶対生きて帰ってやる・・・アイツに復讐するために。

俺は諦めねえ!どんな事したって帰ってやる・・・!

元の世界に絶対帰ってやる!

何が勇者だ!何が救ってくれだ!!そんな事・・・知ったことか!!

勝手に呼び出しておいて、俺一人だけ死んだことになってると思うと、スッゲェ腹立つ。

そっちがその気なら、俺は自分の世界に帰ってやるさ!


「俺はアイツを許さない、絶対に許さない」


身体の中のドス黒いものが更に蝕む。

この気持ちはなんだろうか?

今までにない気持ちだ。


周りを見ると、いくつか武器が落ちていた。

この谷で落ちて死んだ人であろうと思われる骨があちらこちらにあった。


「俺に・・・力を貸してくれ」


地面に落ちていた剣を手に取る

いつか、この剣をアイツに"返す為"に腰に装着した。


ふらつきながら歩き続けると、ある場所にたどり着く


「何だここは・・・」


こんな谷なのに、木や草が茂っていた。

普通じゃありえない場所に自然があった。

これは魔素で育った自然であろうか?

木を見てみると、何か丸い物や歪の形をしたものなど、色々あった。


「・・・ッ!まさかこれは!果物!?」


その瞬間か、甘い匂いが胃を刺激させ、速く食わせろと言わんばかりに暴れまわる。

勢いよく、その果物に飛び掛かるように齧りついた。


幸いにも、果物があった。ひとまず、空腹で死ぬことはない。

食べるのに夢中で気づかなったが、何かが流れる音がした。

まさかだと思い、音の方に向かうと、そこには・・・。


「水・・・水もある!!!」


森を抜けると、何処まで続いている長い滝と湖が広がっていた。

黒杉は三日間飲まず食わずの生活が続いたのだ。

すぐさまに手で掬い飲み始める。

乾いた身体に冷たい水が染み渡る、改めて生きてる実感が沸いた。

ふと周りをみると、見たことのある物が地面に生えていた。


「薬草だ・・・」


黒杉はこの世界で知識を身に着けようと図書室で勉強をしていた。

地面に生えて言いたのは本で見た事ある薬草だった。

薬草を摘み口にいれと、すると、みるみると体の傷が治っていく。

折れていたであろうの骨も、痛みが無くなっていた。


「な・・・!?」


それもそうだ、普通の薬草ならここまで回復するわけがないのだ。

かすり傷ならまだしも、明らかに致命傷と思われる傷が回復してく。


「すごい!すごいぞ!これならしばらく暮らしていける!」


そう言って、黒杉は果物を取ろうとするとガサガサと音がする。

音の方を振り向くと魔物が涎を垂らしながら黒杉を見つめていた。


「グルルルルッ・・・」

「ッ!?」


気配ものなくいつの間にか魔物に囲まれていた。

ここは俺たちの縄張りと言わんばかりと威嚇してくる。


「ック・・・!折角生きたんだ!俺はまだ死ねない!」


そう言って黒杉はそこらへんに落ちていた短刀を取り出す。


狼っぽい魔物は全部で5匹だ。

正直、この状況は詰んでると思っている。

だからって俺はここで死のうとは思わない、意地でも生きて見せる。


固い決意をした時だった、狼の一匹が突進して噛みつこうとした。。

黒杉は片腕を差し出し、そのまま喉元を短刀を突き刺し一匹を絶命させる。


「クッソいてぇなぁ・・・!」


そう言って、さっき拾った薬草を噛みちぎる、腕の傷を回復させていく。


「来いよ!わんころ!!お前たち全員ぶっ殺してやる!!」


そういうと、狼は威嚇して、2体同時に攻撃してくる。

突進してくる一匹は避けたが、もう一匹は脇腹に噛みついた。

グルルと音をならし、さらに強く噛みき、牙が食い込むと血が吹き出した。

抉られるそうな脇腹の痛みを耐えながらナイフを構える


「グァアアアアアアアア!?ふ・・・ざけるなぁ!!!!ふざけるなぁ!!」


黒杉は短刀で脇腹ごと狼の脳天に目掛けて突き刺す、何度も何度も狼の頭に短刀で突き刺した。

既に絶命はしているが、突き刺し続ける。

それを見た狼はの一匹は、短刀の持った腕に噛みつく。

持った短刀は、落としてしまう。


「邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ!!ジャマダアアア!!!」


噛みつかれた腕をゴツゴツした岩壁に走って叩きつける、それを何度も何度も

そして、10回ほど叩きつけて、狼は白目を向いて死んだことを確認する。


そして、残りに二匹は向って、睨みつける。

狼は明らかに狼狽えていた、たった弱そうな人間が自分の同胞が3匹も死んだんだ。

狼は自分の命の危険を察したのか2匹は逃げ出す。


「ハァ・・・ハァ・・・クソッ!」


壁を殴ったあと、薬草を飲み込んだ。

傷はみるみる、治っていき傷後がなくなる。


しかし、出血したことによって血が足りなく少し気分が悪くなる。

流石に血までは再生されないようだ。

落ち着いた所で黒杉は水辺の近くで安全になったことを確認して横になる

そのまま、目を瞑り眠りに落ちた。


―――――


久しぶりに見るな。

夢の中だ。

周りを見るといつもの少女がいた。


―――――――待ってる


いつものだ

なぁ、あんたはなんなんだ?


―――――私は、私は・・・ごめんなさい・・・


そういうと、悲しそうに俯く。


なんで悲しそうなんだろう、なんで謝るんだ?

別に悪いことしていないんだろ?

なぁ、せめて名前は教えてくれないか?


―――――私は、私の名前は■■■■■


聞き取れなかった、そう言って少女は光か闇かわからないものに吸い込まれ

消えていく。黒杉が手を伸ばそうとしたろころで目覚めた。


「また、あの夢か。」


そう言って、起き上がる

どれぐらい、経ったのであろうか?

少なくとも体は軽くなっているから、大分回復した感じがする。


「狼の死体が残ってるな・・・」


黒杉は、狼の死体を担ぎ安全な場所で皮を剥ぐ。

意外と、なれた手つき捌いた。家でよく家事とか料理はしているが

剥ぐのは初めてだ、これも器用に影響されたのだからであろうか?

この世界でこの状況なのに初めて楽しいと思った瞬間である。


「ふふーん」


鼻歌しながら、皮を剥ぎ、内臓を取り出して、肉の血を抜く

血を抜かないと肉は腐りやすくなるからしっかりと抜かないといけない。

血を抜いた後は、水でしっかり洗って、完成だ。

肉を焼くのはいいが、調味料がほしいな。

幸いにも、果物があるからそれを使った料理でもいいな。

色々探していると、良い感じの石がいくつかあった。

石をうまく崩れないように、ドーム状に組み立て自作釜土をつくる。

そして、枝を拾って火をつける。


「さて、肉を洗いますかね」


捌いた肉を、水であらいながす。

血の汚れがどんどん取れていくのが分かる。


洗い終わった後に、木の実を細かく切る

そろそろ釜土が温まったところだろう

そして、釜土の上で肉を焼く

調味料は木の実と炒めて、完成だ。


「さて、お味はどうかな…」


僕は肉を口に入れた。

うん、最初にしては上出来なのでは?

てか、普通に食えるな。

久しぶりの食事だったのか、とてもおいしく感じた。


「はあ、なんというか自分の環境適応が恐ろしく感じるよ」


そう言ってブツブツ言いながら食べるのであった。

そうして、食事は終わりここから抜け出すためにまた、道を探すのだった。


「そういや、あっちの方は探索してなかったな」


そういって、まだ探索していない場所を探し始める。

しばらく、1時間ほど歩いていくと

道がどんどん狭くなってきた所で、少し開けた場所に着いた。


「なんだこれ?」


開けた場所の真ん中にとてもでかい扉があったのだ。

それに続くように柱が道になるように立って並んでいた。

柱に所々に文字が書いているが、やはり読めない。


そのまま道を通って扉に触れる。柱とは別の違う世界の文字だと思われるものが書かれていた。

しかし、この世界に来たばかりの黒杉には読めないのも同然だった。


「なぜこんな所に扉があるんだ?」


黒杉は扉を触る、どうやら見かけによらず重くはなく開けられるそうだ。

唾を飲み込み、ズズズと音を鳴らしながら、ゆっくり開け中を覗くとそこには・・・。


少女がいた。


どこか、見たことある。

綺麗な銀の髪、ルビーのような紅い瞳、透き通った白い肌、顔は少し幼く見えるが何故だが大人っぽく見える。

音の気づいたのか、少女はゆっくり顔を上げこちらを見る。

目が合うと、時が止まった気がした。

それと同時に、時計の歯車のパーツがカチりと見事にハマった音が聞こえる。

歯車は軋むような音を鳴らし、次第に元通りに動き出す。

それは夢の中で出てきた少女だ。

すると、少女は弱々しい声で黒杉に話しかける。


「貴方は・・・誰?」


掠れた声で問いながら、彼女は不思議そうに、黒杉を見つめる。

その目を見ているとなんだか穏やか気分になった。

初対面の相手なのにいつの間にか、黒杉は警戒していない事に気づく。


「君こそ、そこで何をしていんだ?」

「私は・・・」


そう何かを言おうとすると俯く


「どうした、何処か悪いのか?」

「ううん、違うの」

「じゃあ、なんだ」


黒杉はもどかしく感じる、ハッキリ言ってほしい。

彼女は何もしていないに、何故か苛立ってくる。

お腹が空いたわけでもない、怪我をしたわけでものに。


「わからないの」

「わからない?」

「うん、なんでこんな所にいるのも、なぜ私は生きているのかも、ここにいるかも・・・わからない」


少女は無表情だが、どこか悲しそうだった。

どうしたら、いいものか分からず、その場にぼーっと立っていた。


「そうか・・・」

「うん、だけど・・・なんだか、寂しい・・・何も覚えてないのに、何もしてないのに・・・おかしいよね」


少女は静かに語る。


「だけど、寂しくても・・・良いような気がする、それで皆が救われる・・・殆ど記憶にないけど、誰かが言ってた気がする」

「・・・」

「ご、ごめんね・・・?急に変な話をしちゃって・・・困ったよね?」


少女は黒杉の顔色をうかがうように見ていた、目が合えばその度に儚げな笑みを浮かべる。

だけど身体は小さく震えている。

寂しい、孤独、それでも良い。

そんな諦めかけた言葉が黒杉に胸に突き刺さる。


黒杉はしばらく考える。

少女をよく見ると足に枷で鎖に繋がれていた。

動けないようにしっかり固定してある。

今更だが、服は殆ど破れて着用はしていないのと同じぐらいに薄かった。


「ったく、風邪ひくぞ」


そう言って、黒杉はボロボロのローブを脱ぎ少女にかぶせる。

少女は不思議そうに聞く


「なにしているの?」

「何って、そんな状態だと風邪ひくだろ?」

「風邪・・・心配してくれるの?」

「まぁ、そうだな」


少女はクスリと笑い言った。

その少女の笑顔は先ほどまで、悲しそうな顔を違って、至って普通の少女笑顔だった。

その笑みを見て、思わず安心して、自分も笑ってしまう。


「ありがと、そういえば、貴方の名前を聞いてなかった」

「俺か?俺は黒杉 楊一だ、楊一が名前だ」

「ヨウイチ?」

「そうだ。」


少しなまっているが、直ぐに名前を憶えてくれた。

少女は黒杉の名前を何度も復唱する。


「ヨウイチ・・・ヨウイチ・・・フフッ」

「なんで笑うんだ?」

「いえ、人の名前を呼ぶなんて久しぶりな気がするの、それがちょっと嬉しくて」

「そっか・・・ずっとここに閉じ込められてたのか?」

「気づいたらここにいた・・・そうしたら・・・何年も過ぎていった、それは何年経ったのかも分からないぐらいに・・・」

「記憶はないのか?」

「ん・・・何も覚えてない・・・」


この子はずっと孤独でここにいたのか。

こんなにも暗い部屋で記憶もなくずっと閉じ込められていた。

それも一人でずっと待ち続けたのだろう。


「そういや、あんたの名前聞いてなかったな」

「私は、私は・・・」


少女は顔が少し悲しそうに俯く


「ごめんなさい、わからないの・・・」

「そっか、んー、名前がないのも不便だな」

「・・・」


黒杉は頭を捻りながら考える。

ふと、元の世界にいた母さんの事を思い出す。


そういや、母さんの好き花は・・・


「アイリス」

「アイリス・・・?」

「そうだ、今日からアイリスだ、俺がいた世界では、花の名前だ」

「アイリス・・・」

「花言葉は幸せは必ず来る」


黒杉のその花言葉を聞いて、アイリスは目を丸くさせた。

その花言葉を受け止めるかのように自分の手で胸を抑える。


「・・・良い花言葉だね」

「まぁ元々はカツキバタと言う花の名前だけど、女の子にその名前はちょっとあれだろ?他の国ではアイリスって名前で呼ばれてるんだ、因みに由来は虹なんだ」

「虹・・・?」

「ああ、そらに七色の橋が広がってるんだ」

「それは素敵・・・」


アイリスはちょっとふにゃっとした顔になる、嬉しかったのだろうか?


「気に入った、アイリス・・・フフッ」

「気に入ってくれて、良かった」

「・・・」

「どうした?」

「いや・・・」


身体をモジモジさせながら、黒杉の顔を見る。

アイリスは何か言いたそうだ。


「聞きたいことでもあるのか?」

「ヨウイチは何故ここにいるのって聞きたかった」

「あぁ、なるほどね」


アイリスの隣に座り全てを話す。

ここに別世界からやってきた、ここで修業をしたのと、そして同じ仲間に自分の欲の為に裏切られたという話。

涙ぐみながら、アイリスは真剣に聞いてくれた。

どうやら、思ってたより、コロコロと表情が変わって、面白い子だった。


「ヨウイチ、悪くない・・・頑張った」

「あぁ、そうだな、でも俺は弱いし仕方ない」

「ヨウイチ・・・悲しい顔してる・・・」


そういうと、小さな腕で黒杉の頭を抱き寄せた。

そのまま、アイリスは優しく撫でた。


「大丈夫・・・弱くなんてないよ。ヨウイチは諦めずに、皆の為に頑張ってたんだから・・・」


アイリスの手はひんやりしていたが心地よかった、久しぶりに人の温もりを感じた。

しばらくして、離れる


「ありがとう、アイリス」

「うん、私も誰かと話せてよかった」


しばらく、沈黙が続くがアイリスが話しかける。


「私、ヨウイチと一緒にいたい」

「俺とか?力もないし何もできないぞ?」

「それでも・・・良い、ヨウイチと一緒に行きたい」


何故、少女はここにいるのか、もしこれを外してしまえば、きっと何かが起こる。

見た事のない文字に、不自然に立ってい柱。少女に繋がれている枷。

この少女を封印していたんだろうと分かる。


外せば、きっとめんどくさい事になる。

それは目に見えて分かっていた。


だけど、本当に良いのか?

この場所にずっと一人で寂しいと孤独だと、それでも良いと諦めること自体が。


「ご、ごめんね・・・今のやっぱり無しで・・・」


冗談じゃない、こんな寂しい表情をして、何もかもを諦めたような感じの顔をして。

封印?厄災?んなの、どうでもいい。

神がいない、仏陀が助けないなら、俺が何とかしてやる。


なら、答えは決まったな?覚悟の用意はできた。ここまで来たならなるようになるさ。

普通の人なら、感覚が狂ってる思われるだろう、今更のことだ。だけど、それでも良い。


「・・・じゃあなんとかしないとな」


そう言って、楊一は短刀を取り出す。


「何をするの?」

「何をするって、一緒に旅をするんだろ?じゃあこれが邪魔だろ?」

「・・・!!」


楊一は鎖に触るとバチッと音が鳴り、拒絶するように紅いスパークが襲う。

アイリスは目を丸くして楊一を見つめて言う。


「ヨウイチ・・・!」

「っく・・・」


それでも、黒杉は拒絶する鎖に触れ続ける。

身体中に電撃が走り、焼けるような痛みが襲う。

その痛みは、あの時、板野に肺を刺された痛みに似ていた。


何処までも、アイツが邪魔してくるようだ。


「上等だ・・・この野郎!!!」

「ヨウイチ・・・!やめて!死んじゃうよ!」


ナイフを構え、そのまま鎖を叩く。

少女は止めようとするが、無視をする。

幸いにも、鎖は錆びていて、所何処にヒビが出来ていてなんとか壊せそうだ。


「良いの・・・?こんな所に訳も分からない場所にいるのに・・・何かが起こるかも知れないんだよ・・・?」

「ああ、アイリスはついて行きたいんだろ?だから、何もかも諦めた顔をすんな」

「ヨウイチ・・・」

「それにな、俺は元の世界に戻らなきゃいけないんだ。」


片腕が焦げる一方で、渾身の一撃を込めるように強く握る。

"アイツ"を連想させるような鎖に向けて、全身全霊の憎しみを込めて、鎖を叩く。


「なら、こんな腐った世界よりも、元の世界でお前に本物のアイリスの花を見せてやりたいと思ったんだよ!!」

「本当に・・・本当なの・・・?」


叩くたびに紅いスパークが強くなり、痛みも強くなる。

だが、そんなこと知ったことか、こんな所で一生一人で寂しいの思いで過ごすなら、広い世界を見せてやりたい。


「だから、悲しそうな顔すんな、自分で言うのもあれだけどさ!せっかく気に入った名前貰ったなら、花の名前通りにちゃんと幸せになりやがれ!」


その一声に乗せ、ナイフを振る。

パキンと甲高い音が鳴り響く。

鎖が壊れ、同時に愛用していた短刀が壊れる。


「これで良し、あーあ、愛用してたんだけどなぁ。」


焦げた臭いが充満するならか、力尽きるように地面に倒れる。

痛みとか、そういうのはどうでも良かった。

地面に大の字で倒れると、何かが飛び込んでくる、影が見えた。


「ヨウイチ・・・!」


アイリスだった。

涙を流しながら、抱き着く。

急な事にびっくりし、ナイフを持っていたため注意をする。


「うおっと!急に抱き着くな!ナイフ持ってるだろ、危ないだろうが!」

「ご、ごめんなさい・・・」


しかし、怒られてしまってシュンとしてしまう。


「ったく、いくぞ、アイリス」

「わ、わかった!」


黒杉はアイリスが流した涙を拭き、頭を撫でる。

そのまま、しばらくして、立ち上がる。

アイリスの手を引いて立ち上がらせると、久しぶりに地面に立ったのか、身体が少しよろめく。

そのよろめく身体をしっかり黒杉が抱き抑えた。


「ありがとう・・・」

「さぁ、生きてここから出るぞ」

「うん・・・!」


そして、黒杉に新たな仲間ができ、二人の旅が始まったのだった。

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