第7話 VSボス戦【下】の話
「よぉ!鬼ごっこは好きか?」
そう言うと、ケロベロスは憎々し気に黒杉を見つめる。
右頭の目から、ナイフが突き刺さったまま血が滴る。
未だに、右頭はうねるように暴れるが、残りの首は黒杉を捉え、鋭く尖った爪で素早く攻撃する。
「う、うおお!?」
右脇腹を抑え、大きく横に飛び込むように避けた。
飛び込んだ際に、御剣を庇った時の受けた攻撃が、全身に響いた。
そのまま、うまく受け身を取る事が出来ずに、地面に激突する。
「かはっ・・・っぐ」
立ち上がろうとした時、地面を見た。
何処から、ポタポタと赤い液体が落ちる。
落ちた場所を探すように、顔を触る。
口だ。口から、血を流していた。
呼吸が苦しい。何かが突き刺さってる痛みがする。
次第に、目もぼんやりしている。
「ハハ・・・任せろって、言ったけど・・・結構キツイな、でも・・・」
そう言って、太ももにある、小ポケットに手を突っ込む。
そこから、緑の液体が入った小瓶を取り出し、一気に飲み干した。
そのまま、空になった瓶を投げ捨てる。先ほどまで激痛が、引いて行くのが分かるが、完全に痛みを収まることはなかった。
黒杉は走ってくるケロベロスに向けて言う。
「だけど、僕は諦めねえぞ」
身体が軽くなった所で、再び襲い掛かるケロベロスに向って走り出す。
噛みついてくるところで、姿勢を低くして、股を潜るようにスライディングをする。
「こっちだよ!ばーか!!」
「ガルウウウウウウ!!!」
後ろを振り向き、さらに小学生を馬鹿にするように挑発をする。
言葉が伝わってるかとかどうでも良かった。だけど、このケロベロスは賢いようだ。
なんせ、小馬鹿にした途端に、威嚇するように唸っているのだから。
股を潜ったところで、気づく。
恐ろしいスピードで何かが迫ってる来る。
そのまま、迫ってきた物体は黒杉に目掛けて、身体中に直撃する。
先ほど、回復したばかりなのに、再び激痛が走る。
その正体は固い鱗で覆われた、尻尾だった。
しかし、黒杉はその尻尾にしがみ付き、ポケットに入っているナイフを取り出す。
「このクソオオオオオ!!!」
黒杉は鱗の間にナイフを突き刺し、吹き飛ばされないように固定する。
無論、ケロベロスはひっぺ返そうと暴れまわる。
暴れる度に、ナイフで突き刺してた所から血が飛び、黒杉の顔に付く。
腐臭が襲って来る、それでも、耐えしがみ付く。
「ガアアアアアアアアア!!」
「うおお!?」
ガキンッ
ケロベロスは尻尾を思いっきり振った途端だった。
嫌な音が聞こえる。
しかし、音が聞こえた時には既に、空中に飛んでいた。
手に持ったナイフを見ると、綺麗に真ん中で折れていた。
どうやら、遠心力に耐えきれなかったようだ。
「くそ・・・!」
空中にいる為、身動きも何もできない。
まして、素人が空中での受け身が出来るはずもない。
後ろ見てみたら、暗闇が見えている。
思考が停止する。目を閉じ、落ちてしまうと思った時だった。
急に、ピタリと動きが止まり、何かにぶつかる。
壁?違う、壁にしては柔らかく、温かい。
ゆっくりを目を開けると、そこには見知った人物が立っていた。
「おいおい!諦めんなよ!!」
「一樹!!」
「ったく!無茶するなって言った矢先に!」
「はは、ごめんな」
その正体は一樹だった。
落ちる寸前の黒杉をギリギリの所で受け止めた。
一樹は困ったような顔をすると同時に、安心したような顔で見つめる。
そのまま、地面にゆっくりと降りると、休む間もなく、ケロベロスは襲い掛かる。
「「うおお!?」」
やはり村人と比べて、能力持ちの一樹は足が速かった。
しかし、お姫様抱っこされながら、だと何だか恥ずかしい。
というか、そもそも男なんですけどね!
一樹が前を向いて、黒杉を後ろを見る。
ケロベロスはピタリ動きを止める。
そのまま、三つの首を仰け反るように、何かをため込む。
嫌な予感がする。何かが、強力な攻撃をして来る。
そう直感が言っているのだ。
「一樹!気を付けろ!何か仕掛けてくるぞ!」
「オーケー!」
ケロベロスの口から、炎が漏れ出てるのが見えた。
そのまま、勢いよく地面に向けて、蒼い炎を噴き出す。
炎は扇のように広がり、灼熱の温度が襲い掛かる。
思っていた以上に、炎の動きは早く、何とかしなければ巻き込まれてしまうだろう。
「一樹!避けて避けて!じゃないと焼かれるぞ!」
「どうやってだよ!!」
「ジャンプ!ジャンプだ!!
そう言って、一樹は跳躍して、逃げようとする。
しかし、ケロベロスの一つの首が一樹と黒杉に目掛けて、炎を吐く。
「おおおい!!」
「流石に、空中からは動けないぞ!!」
再び、ピンチが襲い掛かる。
このままでは、無防備な二人に炎に巻き込まれて、焼け死んでしまう。
どうにかしようと考えたとき、黄金にか輝く壁が目の前に現れて、炎を防ぐ。
この大きな盾を出せるのは一人かいなかった。
「ちょっと!!やっぱり無理してるんじゃないの!」
「「美空!!」」
美空のおかげで、ピンチを逃れる事ができた。
今の炎を他の皆が巻き込まれていないか、見渡した。
見渡せば、クラスメイトたちの周りに複数の黄金の盾で囲って守って無事なようだ。
クラスメイトに攻撃が通用しないと、諦めたのか、ケロベロスは目標を黒杉たちに集中し、残りの二つの首がこちらに一直線に蒼い炎を吐く。
「っく!」
「美空!がんばれ!」
「そうだ!そうだ!じゃないと俺たち丸焦げだぞ!」
「うっさいわね!分かってるわよ!」
美空は変わらず、強気だが額には汗を掻いていた。
それは熱さからなのか、それとも恐怖からか、あるいはどちらもか。
張られた模倣の黄金の盾は次第にミシミシと音が鳴り、ひび割れていく。
「ダメ!もう少しで割れる!」
「っく!どうしたら!」
その時に、後ろからアルバートの声が聞こえる。
振り返ると、両斧を片手に持ち、片腕が肥大化して、筋肉がパンパンになり、小手がパリンと音が鳴り壊れる。。
そのまま、短い片足を綺麗に天に向けるように上げて、そのまま地面を踏み、そのまま・・・。
「お主ら!しゃがめえ!!"十魔砲琥"!!」
そのまま、両斧をぶん投げた。
豪速に投げ、風を巻き起こし、炎を切り裂いていく。
次第に斧は十個に分身し、ケロベロスに襲い掛かる。
そのまま、首、頭、胴体と突き刺さり、そのまま抉る。
アルバートは腐っても精鋭部隊を纏める、精鋭中の精鋭の兵士。
戦場に活躍した時には、その斧で何人のもの敵を屠り、嵐を巻き起こした。
その時についた、二つ名は"嵐戮のアルバート"
彼を見た者は恐れて逃げ出す人が殆どだったのだ。
ケロベロスは吐き出した炎を止めて、苦しむような声で鳴く。
「さあ!御剣殿!今ですぞ!」
アルバートが御剣に合図すると、御剣はの身体がから、白いモヤが出てくる。
何時の青い瞳が、金色に輝く。一言で言えば『神聖』そのものだった。
しかし、神聖さの裏腹に、瞳の奥底から猛き炎が感じる。
そして、剣を静かに構える。
「・・・・『オーバー・クロック』」
その場から、御剣の姿が居なくなる。
それは目では追えない位の速さで、ケロベロスに走り出す。
「これで・・・トドメだ!『リミテッド・ソード』!!」
御剣の持つ、光剣レイアードが煌めく。
先ほどの、攻撃とは比べ物にならない位の光が凝縮されいるのが、誰もが分かる。
その凝縮された、光そのものをケロベロスに向けて振る。
ドオオオオオオオオン!
凄まじ轟音と同時に、光の柱がそびえるように立ち、ケロベロスを浄化させていく。
そして、ケロベロスの本体がなくなり、赤く光る三つ玉が見えた。
それを見たアルバートが叫ぶ。
「それだ!その魔核を壊すんだ!!」
御剣は頷き、剣を横に一閃。
三つの玉がピシピシッと音が鳴り、そして、弾けるように砕けた。
一同、沈黙。
「勝ったのか・・・?」
一人の生徒がいらないフラグをまた言う。
しかし、呟いても、ケロベロスが復活する様子は無かった。
その光景に理解した、皆は。
「「「やったああああああああああああああ!!!」」」
一斉に歓声を上げる。
隣にいた者同士に、抱き合い、喜び合った。
「終わったな」
「でも、最初でこれだとキツイわね」
「いいじゃねえか!今は喜んでおこうぜ!」
そう言って、一樹は親指を立てる。
そんな、黒杉は疲れたのか、座り込む。
「ごめん、先に行ってくれ、すぐに行くから」
「おう、じゃあ、待ってるぞ」
「早く来なさいよね」
先に二人は仲間の元へと向かう。
そう言って、数秒後に立ち上がって、皆の所に向かおうとした時だった。
背中から悪寒を感じた。
寒くもないのに、確かに血は吐き出して気分が少し悪くなったかもしれない。
だけど、それとは別で本能的に何故か、動けないかった。
僕は振り向こうとしたした瞬間、御剣君の声が聞こえた。
「黒杉君!!!避けて、危ない!!」
「えっ」
ザクッ
御剣の叫び声と同時に、クラスメイトと兵士は一斉に黒杉の方を見る。
そこに目に映った光景は。
胸に剣が突き刺さった、黒杉の姿とその後ろに漆黒の鎧を着た騎士だった。
あまりにも衝撃的な光景が、一瞬時が止まった。
「カハッ・・・」
肺を刺され、全身に激痛、呼吸ができない、戦慄が走る。
刺された箇所は限って火に炙られたように熱く。
次第に、黒杉の足元に血の池が溜まる。
顔を見ようとしても兜で覆われていて見えなかった。
黒騎士らしい見た目の奴は耳元で囁く。
「くろすぎぃく~ん、やっと君を・・・殺せるよ・・」
その声は、普段の日常から、黒杉を付け狙うように嫌な奴を連想させるような声。
この声を間違えるはずがない、聞き間違えるはずがなかった。
掠れた声で必死に言う。
「い・・・た・・の!!」
声の主は板野だった。
先ほどまで、クラスメイトと一緒にいた筈なのに、何時の間に黒い鎧なんて、そもそも来ていなかった筈。
クラスメイトの方を見ると、そこには不気味に口角を上げて笑う"板野"の姿だった。
「てめええええええ!!!」
「よういちいいいい!!」
叫び声の主は一樹と美空だった。
二人は剣を抜き、拳を構え、我を忘れ、怒りにまかせて突進してくる。
黒騎士は黒杉を胸に刺した剣を抜き。
"剣圧"で吹き飛ばす。
「うああああ!?」
「きゃああ!?」
吹き飛ばされた、二人は立ち上がろうとし、アルバートは皆に号令を掛ける。
そして、御剣は残り少ない魔力でオーバー・クロックを発動する。
その様子を見た、黒騎士は何か呟く、呟いた言葉は聞き取る事ができなかった。
その瞬間、皆の動きが止まる。
「う、動かねえ!?」
「な、なんで!?」
そのまま、黒騎士は黒杉の首の襟を掴むように、引きずる。
引きずられた先は・・・先の見えない穴だった。
力もなく、動けない身体は抵抗すら出来なかった。
「っく・・・何故・・こんな事を」
「・・・ククク・・・美空ちゃん・・・オレの物だ・・・クククク・・・・」
そう、同じことを何度も呟く。
美空・・・こいつは自分のモノにしたくて、そこまでしたというのか。
黒杉の心が沸々と何か沸き上がってくる。
それは、今までにない感情が襲う。
友人を守る為に、クラスメイトを守る為に、今までやってきたことを、その一言で潰された。
「じゃあな、後は任せておきな」
「てめぇ・・・えええええ・・!」
黒騎士はそのまま、あの中にゴミを捨てるような感覚で、いつまでも続く闇に投げ捨てた。
投げ捨てられた途端、黒騎士はその場から霧になって消える。
「楊一!!いやあああああああああああああああ!!」
「楊一いいいいい!!」
その奥から、二人の叫び声が聞こえる。
それに答える、気力も無く、光が遠のいていく。
僕は暗い奈落の底に落ちて行った。
――――――【一方その頃】
黒騎士は霧となって消えた途端に、生徒達の金縛りが解かれた。
その瞬間、黒杉は落ちて行った方に、美空は走り出す。
そんな興奮した表情を見て、察した一樹は御剣を呼ぶ。
「御剣!!美空を止めるぞ!あのままだと、飛び込むぞ!」
「分かった!」
一樹と御剣は穴に向って、走って行く美空を止めに行く。
幸いにも、二人の方が足が速かったため、飛び込みそうになった所を止める事ができた。
「放して!!!楊一!!楊一!!!」
「晴渡さん!!落ち着いて!!」
「美空、落ち着け!!!」
一樹は美空をの肩を掴み、揺さぶる。
それでも、美空は叫ぶのをやめなかった。
いくら叫んでも、楊一の声は帰ってこなかった。
「私が守るって言ったのに・・・!どうして!いなくなっちゃうのよ!」
「「・・・」」
御剣と一樹は、ダンマリした。
「一樹!貴方までなんで止めるのさ!!親友じゃないの!?」
「俺だって探しに行きてえよ!!!何なら、あの黒騎士を探しに殺しに行きてえよ!でもお前まで飛びこめば、それすらできなくなるんだぞ!取り合えず落ち着けよ」
美空は一樹の言葉を聞いて、我に返る、そしてその場に崩れ再び泣いた。
「どうしてよ、楊一、なんで一人で行っちゃうのよぉ、うぇぇぇ...」
生徒達の雰囲気は最悪だった、急に自分のクラスメイトの一人がいなくなったわけだ。
いつも笑いあっていた、何気ない人が突如いなくなった。
いや、赤く広がった血の池が黒杉が殺されたという事実を突きつけられる。
だけど、一樹の目は真っすぐ美空の目を見て言う。
「美空!いい加減泣くのをやめろ!そしてあいつを勝手に殺すな!!」
「一樹・・・?」
一樹の目は潤んでいるが決して涙は流さなかった、ふと美空は一樹の手を見る。
手は涙を流さないように抑えているのか拳を作るように強く握っていて血がポタポタと落ちていた。
「あいつは絶対に生きている、俺は信じてる、だから強くなってまた探しに行こう」
「・・・」
その目は純粋な物だった、楊一は生きていると強い信念が感じられる。
「そうだね、勝手に彼が死んだとは決めつけはいけないね」
「御剣くん・・・そうだね、陽一なら絶対に生きてるよね・・・。」
一樹と御剣のおかげでなんとか美空をなだめる事ができた。
そうして、生徒たちは一度近くの村まで戻ることになった。
一人の犠牲のおかげで生徒は守られたのだった。
――――――【???】
ポツ・・・ポツ・・・
額に何かが落ち目が覚める。
「夢なのか・・・いや僕は死んだのか?でもこの感覚は・・・」
身体が冷たく、浮遊を感じさせる。
次第に視界が戻り、顔だけで動かして、周りを見渡した。
すると、隣に少女の姿をした、白い靄(もや)が見えたが、それは一瞬だった。
黒杉はは起き上がると地面に足が付かず、慌てて耐性を立て直す。
「うわわ!?」
起き上がるとそこには、水面が広がっていた。
どうやら、この水のおかげで命拾いしたようだ。
「体が痛い・・・そうか僕はあの戦いで・・・」
あの時は事を、黒騎士に胸を刺され、その黒騎士の正体は板野。
そして、そのまま谷底に落とされた。
胸の傷を触ると、不思議な事に傷が跡形もなく、消えていた。
「確かに、僕は刺された・・・」
何故、治ったのかが分からなかった。
しかし、何時までも水の中にいるわけも行かず、残り少ない体力を振り絞って、岸の方へ泳ぐ。
10分掛けて付くと、その場で倒れる。
「何故、僕がこんな目に・・・」
黒杉は壁を使って起き上がる。
痛い、でもあの深さでよく生きてたもんだと自分に良い聞かせる。
そして、立ち上がると少女のモヤが見えた方向へと洞窟の奥へ進んだ。
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