第6話 VSボス戦【上】の話

僕たちは、洞窟に進む。

そして、かなり奥についた所で異変が起きた。


「皆の者、止まれ」


アルバートが何かに気づいたようで、片腕を横に広げ、後ろにいたクラスメイトを静止させる。

その顔は険しく、額には冷や汗を掻いていた。

御剣は何が起きてるのかが分からなくて、アルバートに近づいた途端だった。


「アルバートさ・・・ッ!?」


とてつもないプレッシャーが襲って来る。

敵の姿も見えないのに、強大な力が身体中にヒシヒシと伝わるように襲い掛かる。

遅れて、一樹や美空、クラスメイト全員が戦闘態勢に入る。


「な、なんだよ・・・このとてつもなく嫌な予感するぜ!」

「ええ、そうね、私でも分かる、これはヤバイ!前線の盾組!前に出て皆を守って!」


美空の合図と共に、盾を持つ騎士たちが前に出る。

いつ攻撃が来てもおかしくない状況の中で、緊張が走る。


一歩、また一歩と洞窟の奥へと進む。

引き返すことも許されず、今でも潰れそうな空気で、ゆっくりと息を吸う。


徐々に敵の気配が強くなっていく、それは肌がピリピリする程に・・・。

プレッシャーはやがて、殺意に変わっていき、明確な敵意がクラスメイトに向けてくる。

体に起こる、防衛本能、危険信号、直感が示している。

この先に得体のしれない奴がいる。誰もが分かっていた。


「これ以上、近づいちゃ駄目だ・・・ッ!」


心が折れそうなのか、生徒の一人がボソッと言う。

それに釣られて生徒は不安が大きくなっていく、「本当に勝てるのか?」「逃げたい」と言う声が徐々に聞こえていく。

しかし、御剣はその不安を振り払うかのように言う。


「ここまで、来たんだ今更撤退なんてできない、大丈夫だもう少しだ」


確かにそうだ、ここまで来て相手の正体が分からないままで帰還するなんてできない。

御剣の喝で、再び皆の目が真っすぐ洞窟の方に向ける。

僕たちはさらに奥に進む、いつまで続くか分からない長い長い道を進む。



―――――【最深部】


僕たちは最深部への扉の前にたどり着いた。

ここで、アルバートは気づく。


「以前、こんなものがあったか?」


アルバートが来た時にはこういうものが無かったと言っている。

重そうな石扉には、何か文字みたいなのが刻み込まれていた。

この異世界に来てから、見た事のない文字だった。

何の文字かアルバートにも分からないようだ。


「アルバートさん、行きましょう」

「ああ、そうだな。皆の者!武器を構え、警戒態勢に入れ!」


アルバートは石の扉を押すとゴゴゴッと鈍い音立てながら、ゆっくりと開く。

扉を開くと石橋が見える。その先には薄暗いが円卓状で出来た広い空間が見える。


「なんだ、ここは・・・」

「アルバートさん?」

「こんな所は、初めてだ・・・」


やはり、アルバートはこの場所に来るのは初めてらしい。

つまり、ここから先には未知の場所となっていた。

皆、警戒しながら石橋を渡る。


ふと、石橋の下を見ると、先の見えない暗い闇が広がっていた。

ここから、落ちたら一溜りもないだろう。

手すりとか何もないので、真ん中に集まって歩く。


石橋から領域に踏み入れた途端だった。

円筒状の壁に周りに次々と蒼い炎が松明(たいまつ)に付く。

突然の事で、周りが騒めく。


「皆!落ち着いて、何かがいる!集中するんだ!」


その声で一斉に御剣とアルバートが向いてる方向を見る。

奥の方に、強大な"何か"がいる。

その"何か"が少しずつ近づき、同時に殺意も近づいてくる。

クラスメイトの皆は狼狽える、それは仕方ないことだ。

つい一か月前までは、平和の世界で過ごしてんだ。

僕たちは本気で殺意を目の当たりしたことがない。

無縁というものは恐ろしい事だ。


そして、影から部屋の主が現れる


大きさは10m程の巨大な三つ首の犬、首には蒼い首輪を付けていて。

目をギョロリとこちらを睨み、獰猛な牙と爪、口からは舌がダラーンと垂れ下がり、お腹を空かせたように涎がこぼれ落ちる。

落ちた涎は地面をシューと音を鳴らし溶かしていた。

黒い毛は一本一本が太く針の用にも見え、尻尾は蛇みたいな固い鱗に覆われている。


そこには僕たちの世界で『冥府の番犬』と呼ばれた、ケロベロスの姿をした三つ首の魔物だった。


アルバートは先ほどの険しい顔と一変して、驚いた表情で魔物を見ていた。

まるで、本来はここにはいない筈なものがいるという事に。

やがて、アルバートはその表情を言葉に吐き出すように言う。


「馬鹿な!何故!こんな所にケロベロスが!?」

「どうしたんですか!アルバートさん!」


アルバートは心を落ち着かせ、震える手を抑える。

精鋭の兵士が震える、それほど深刻な状況だと言える。

そんな、アルバートの状態を見た、クラスメイトは溜まりにたまった不安が襲って来る。


「本来はケロベロスはここに出現などしないのだ!」

「な、なんだと?」


アルバートはこの状況を予想していなかったのか、若干焦り気味になり、声を震わせながら話す。


「ケロベロスは本来、地獄にいる魔物なんだ!地上に現れることなんて本来はありえない!だって、この魔物はヨハン国王によって封印した魔物の一匹だからだ!」


封印されたって事は、完全に倒すことはできなかったということだ

それを察した、生徒たちはパニックに陥る。

死にたくない!助けて!と叫ぶ生徒もいた、もう駄目だと思った時。

そんな中で喝を入れたのが、御剣だった。


「諦めるのはまだ早い!なら、この剣で浄化させて見せる」


御剣は聖剣に魔力を込めると光り出す。

そのまま構えるて、ケロベロスに向って走り出す。


アオォオオオオオオオオオオオオオン!!


ケロベロスは遠吠えする。

御剣に迫っている事に気づき、真ん中の首で噛みつくように真っすぐ攻撃する。


「遅い!!」


御剣は攻撃して来るケロベロスに、身体を捻らせ避ける。

そのまま、捻らせた体の遠心力で首に向け剣を振る。

斬りつけられた首は、血が勢いよく噴き出し暴れる。

噴き出した血が御剣の白い服が目立つように赤く染まっていく。


「まず、その一本の首を貰う!剛力!スラッシュ!!」


赤いオーラを纏い、そのまま跳躍してケロベロスの頭に斬りかかる。

その素早い跳躍を利用して御剣の剣撃が閃光の如くケロベロスの首を断ち斬る。


真ん中の首の動きが止まり、少しずつ胴体と首がズレる。


ボトッ


何かが落ちた音がする。

皆はその音に注目すると、その視線の先には魔物の頭が落ちていた。

頭の正体はケロベロスの頭の一つで、その頭が落ちる音だったのだ。

次第にケロベロスの頭から噴水のように血が噴き出す

その血の臭いは何人のも人を殺したような血の腐臭がした、不快な臭いだった。


しかし、御剣がケロベロスの首を落としたのも事実。

それを見て、理解したクラスメイトたちは歓声のあげる。


「キャー!みつるぎさぁーん!!」

「流石、御剣さんだ!!」

「や、やったのか?」


おい!最後の奴!そのセリフを言うな!フラグが建っちまうだろ!?


そして、そのフラグが達成されように、ケロベロスの頭と胴体に異変が起きる。

斬られた頭が溶けてなくなり、首の切り口から黒くうねうねした粘りつくような物が生えて、やがて魔物の頭に変わってく。

再生だった。頭は元の形に再生されケロベロスが鋭い牙を向きだして生徒達を威嚇する。


だから言ったのに!?誰だよあのセリフ言ってたやつ!出てこい!


「な!頭が再生しただと!?」

「あいつの厄介所だ!アイツの核なる所が三つあるんだ!それを破壊しない限りはずっと再生する!」

「その核はどこにあるか分かりますか、アルバートさん!?」


アルバートは苦悩な表情で下を向きながら、御剣に言う。


「すまねぇ、それは俺にもわからねぇんだ」

「そうですか・・・」


アルバードは知識があるが、正確の位置までは分からなかった。

ケロベロスの核は特殊で常に移動しているという事を言われた。

そして、御剣は再び剣を構える


「なら!切り伏せて!ここで奴を倒す!」

「グルルルル…アオォォォォォン!!!」


ケロベロスは次は遠吠えではなく、咆哮だった。

その咆哮は地面を震わせ、生徒達はその迫力に立ち竦み耳を塞ぐ。

中にはその場に座り込む者がいれば、顔を青くする者もいた。


「キャア!?」

「う、うるせぇ!」


咆哮を放った後に、ぐつぐつ湧き出る赤いオーラを纏う。

先ほどよりも毛が逆立ち、牙と爪も更に狂暴そうな見た目になる。

背中からは炎が湧き出るように燃える。

だが、御剣は止まらなかった。


「てぇやあああ!!!剛力!!スラッシュ!!」


御剣は聖剣で攻撃しするが、傷はすぐに塞がる

先ほど比べて、傷の再生がとてつもない速度で回復していく、それどころか徐々に狂暴化していくのが分かる。


「っく・・・!こんなのどうやって倒せば・・・!」


爪と聖剣がぶつかり合い甲高い音を出しながら、激しい攻防が続く。

傍から見たら、御剣とケロベロスの戦いは互角に見えた。

だが、再生を止めない限りはいずれは御剣が押し負けてしまうのが目に見えていた。


ただ、その様子をクラスメイトたちは眺めていただけだった。

「あんなのに参加できない」「返って邪魔になってしまう」、そんな思いが優先して出てしまう。


だけど・・・このままではいけない。


黒杉は皆の目の前に立つ。

目の前に立った黒杉をなんだなんだと言わんばかりに見つめる。

大きく息を吸う。

そして、そのまま思いをぶつける。


「お前ら!!ふざけんな!!」

「よ、楊一・・・?」


その声は領域中に響き渡る。

そんな、声にびっくりして、今まで下を向いてたクラスメイトが一斉に顔を上げた。


皆の心は恐怖で染まっている、やる事は一つだった。


「お前らな!俺よりも強い職業なのに、ビビってんじゃねえよ!!!」


今まで、大人しかった奴、急に叫び出すのは変な奴だと思われるだろう。

だけど、それでもいい。

ここで諦めてしまえば、一生戦えなくなってしまう。


「見てみろよ!御剣君がお前たちを守る為に一人で戦ってるんだぞ!なのにお前たちはずっと立ち竦んで何してんだよ!」


アルバートも兵士も生徒も全員が黒杉の声を耳を傾ける

手が震える、足も震える、だけど、それでも言わないといけない。


「たしかに俺は村人で何もできない!だけどな・・・だけどな!できるお前たちが動かないんだよ!その職業は飾り物か!持ってる能力は木偶なのか!!その武器は錆びたままでいいのか!考えてみやがれ!!」


クラスメイトたちの目が徐々に光を取り戻しているような気がする。


「手があるなら剣を持て!!魔力があるなら空っぽになるまで詠唱しろ!俺は石を投げる!!それができないなら・・・」


兵士とクラスメイトは攻撃する為に剣を構えた、魔法を詠唱をする為に杖を構えた、皆のを守る為に盾を構える。

そして、僕は渾身の一撃を込めるように大声で叫ぶ


「お前たちが何も守れない!!ただの馬鹿野郎だあああああああああ!!」


僕はその言葉を放った後に力が抜けて、尻餅をつく。

慣れないことをすると、やっぱり身体の震えが止まらない。


そのとき、両肩に優しい手と逞しい手が誰かが触ってくる。

見上げると、一樹と美空、佐野が立っていた。


「おいおい!馬鹿野郎ってないぜ!」

「ええ、そうね、馬鹿は言い過ぎよ。でも・・・」

「おかげで、目が覚めたよ!」


そう言って、一樹はいつも通りにニッと笑い、美空は優しい顔で笑う。佐野も相変わらずだけど、無邪気な顔で笑った。調子が良い奴だ。


「ッハッハッハ、まさかこんな坊主に喝を入れるとはな!坊主は失礼だったな、ヨウイチ殿。まだまだ未熟だったようだ!ハッハッハ!」

「アルバートさん・・・」


アルバートは黒杉の頭をくしゃくしゃに撫でまわした。

おかげで、整えられた髪はボサボサになっていく。

だけど、それでも良かった。

一方、クラスメイトはというと。


「そうだよね、御剣くんだけじゃ無理だよね!」

「ハハ、これはやられてしまったぜ」

「ッフ、ボスなんてこの邪気眼を開放すれば、片手でひねりつぶせるさ」


変なのが途中にいたが、気にしないようにした。

本当に調子のいい奴らだ。


クラスメイトの燃え尽きそうになった炎が再び、燃え盛った。

それは、ただの村人の一声だった。

言葉には、剣や魔法で攻撃はできないけれども、立ち上がらせるのには十分だった。


僕も立ち上がり、息を整えて言う。


「さあ!剣を持ったか!魔力は満タンか!守る為の盾の準備はできたか!」

「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」」」


そして、手をあげて合図をする。


「狙うのはケロベロスの妥当!!御剣君の援護!!!皆、いけええええええええええ!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


皆は雄たけびを上げ、走り出す。

それは一人の生徒を守る為、そして皆で元の世界に帰る為に。



「・・・っく!このままじゃ」


ケロベロスとの激しい攻防ので、何時までもつづく再生に追いつけず。

魔力が尽きようしていた。

御剣は少しずつ追い込まれていき、領域の端まで来てしまった。

下をみれば、底なしの暗闇が広がっていた。


「グルウウウウウ!!ガウ!!」

「っく、間に合わない!」


攻撃を受ける、一歩手前だった。

誰かが横からライダーキックをする影見える、その正体は。


「閃光脚!!!」

「山崎君!?」


一樹はケロベロスの脳天に向けて、凄まじいキックが炸裂した。

ケロベロスはその衝撃で後退する。


僕は好機だと思い、魔法の詠唱を皆に指示をする。


「皆!相手はおそらく炎が効かない!氷だと解けてしまう!だけど水魔法だと皆を流して穴に落ちてしまう可能性があるから!中級魔法・雷系統を詠唱して!」

「「「「了解!!」」」」


生徒達が詠唱をはじめると、ケロベロスは気づいたのか、止めようと生徒達に向って突進をする。

すかさず指示をする。


「美空!!」

「させないわよ、盾部隊いくよ!聖王の盾『キングシールド』!!!」

「「「「聖王の盾『キングシールド』!!!」」」


盾を持っている、クラスメイトと兵士はV字になる。

発動したキングシールドは大きな模倣の盾を召喚して防御をする。

ケロベロスの突進は盾に激突した、どうやらうまく防御がいったようだ。

そのまま、盾で跳ね返し、後ろに回転するよう吹き飛ぶ。

魔法隊の一人が黒杉に言う。


「え、詠唱が完了いたしました!!」

「攻撃部隊さがれえええええ!!!」


攻撃をしてた部隊は頷く。

魔法に巻き込まれないように一気に撤退した。


「よし、撃てええええええ!!!」


黒杉はケロベロスに向けて勢いよく、腕を下げる。

魔法隊は同時に発動する


「「「「「荒くれろ暗雲の秘めし雷を降らせ!”暴雷の嵐(トリニティ・テンペスト)”!!!」」」」」


その瞬間、ケロベロスの頭上に黒い雲が渦巻き、中級魔法・雷が炸裂する。

雷がいくつの束になって襲い掛かる、まるで嵐の様に、激しい攻撃は黒焦げにさせる。


その状態でも、ケロベロスは立ち上がる。

黒杉は見逃さなかった。大分弱っていて、このまま押せば倒せると。


「御剣君!今だ!君の最大火力をぶつけてやれ!」

「わかった!!」


ここで仕留めるかのように聖剣はさらに輝く

そして、御剣はスキルを発動する。


「天から授かり剣に、我が身を犠牲にして逆境を跳ねのけよ!『天命剣リミテッド・ソード』!!!!!」


御剣の身体に光が集まる、その剣を渾身の一振りに光を乗せて放った。

だが、ケルベロスを倒すまでに至らなかった。


「アオォオオオオオオン!!!」

「な、なんだと」


ケロベロスは瞬く間に傷を回復していくのであった。

毛が更に逆立ち、背中の炎が更に燃え上がる、どうやらお怒りのようだ。

そして、先ほどよりも能力が向上している事に気がつく


しかし、御剣は先ほどの攻撃で力を使い切って動けないようだ。

そんなケロベロスは動けない事をわかったのか御剣を狙いを定めた。

そして、いち早く気づいた黒杉は気が付いていたら・・・。


走っていた。


「っく!ここまでか?」

「アオォオオオオオオン!」


ケロベロスは突進攻撃する

あのままだと、絶対に御剣は無防備の状態で攻撃を受けるだろう。

その先に待っているのは何なのか?。

黒杉の頭には過っていたのは。


御剣の死


死なせてたまるもんか、それは絶対に避けなければならない。

クラス全員で元の世界に戻らなければならない。

なら、黒杉はやる事は一つ、至ってシンプルの事だった


諦めない事だ!!


「うぉおおおおおおお!!!」

「黒杉!?」


黒杉は勢いよく御剣は突き飛ばし、そのままケロベロスの突進を肩代わりしてダメージを受けることになった。


「グボォアアア!?」


痛い!痛い!痛い!?

黒杉の体全身に激痛が走る、その痛みで一瞬だけ意識が失い掛けたが、唇を血が出るまで噛み殺す。

右半身にケロベロスの突進が直撃する、何か折れた音が聞こえた気がするが黒杉はそんなのどうでも良かった、御剣がなんとかダメージを受ける事を避ける事ができた。

そしてそのまま黒杉は吹き飛んだ


「「楊一!?」」


いつのまにか、飛び出していた、

黒杉に驚き、二人は駆け寄る。


「黒杉!何故君が!」

「そりゃぁ、自分ができることをしただけだよ」


黒杉はよろめきながら立ちあがって、御剣の目を真っすぐ見て言う。


「御剣君、君は回復に専念してくれ。もう一度、君の"本当"の一撃をお見舞いしてやるんだ。その間、君を全力で守ってもらうように指示する。そして、その間が僕が引き付ける。」

「そんな!でも君が・・・!」

「楊一!無茶よ!」

「大丈夫だから!速く皆に伝えてくれ!」


美空は止めようとした。

御剣は目を閉じ、考え込む。そして、ゆっくりの目を開けた。


「分かった、でも無茶だけは絶対にしちゃだめだ、危なそうになったら撤退してくれ」

「あぁ!」

「楊一・・・!」

「美空、御剣君を援護してくれ、美空の防御系の技は信用できるからさ!」


そう言って、涙ぐむ美空を宥めた。

しばらくして、落ち着いた所で美空が言う。


「分かったわ、死んだら一生恨むからね」

「しぶといのは僕の特権なのはしってるだろ?」


そう言って、フフって笑って、御剣の護衛に向かう。


走り出した御剣を見つけるとケロベロスは追いかけようとする

しかし、黒杉は短刀を石投げスキルで目に向って投げた。

器用さが上がったおかげかケロベロスの目に見事に命中した。

ケロベロスは目の痛みに訴えるかのように吠える。

そしてケロベロスのヘイトは黒杉に集る。


「よぉ!鬼ごっこは好きか?」


黒杉は走り出した、先ほどの先頭によって足場が結構崩れたようだ。

一歩間違えれば、下に落ちかねない。

黒杉は注意しながら走る、そして皆の姿見えてくる。


「黒杉!!こっちだ!!」

「楊一!」

「楊一くん!」


扉に向って必死に走った。

黒杉は後、一歩踏み出したところで、気づいた。


今でも崩れそうな地面のヒビにわざとらしく剣が刺さっていた。


これは何を表すのか?


思考停止、この剣はどっかで見たことあるような気がする

どこでみたのであろうか?

その嫌な予感が、背中から死神の手が招いているかのような悪寒が襲って来る。

そして、黒杉は一歩踏み出すと


ピシッ


剣が刺さったところ更にヒビが入り足場が崩れた。


「楊一ぃ!!!」


美空は叫んで、必死に手を伸ばしたがその思いは届かなかった。

僕が最後に見えたのは必死に手を伸ばす美空の姿と

不気味に笑う"板野"の姿だった。


そして、僕は死神の手に引き込まれるかのように暗い奈落の穴に落ちていった。


――――――生徒達は


「放して!!!楊一!!楊一!!!」

「晴渡さん!!落ち着いて!!」

「美空、落ち着け!!!」


いくら叫んでも、楊一の声は帰ってこなかった。

美空はただただ叫ぶのであった。


「私が守るって言ったのに...!どうして!いなくなっちゃうのよ!」

「「・・・」」


御剣と一樹は、ダンマリした。


「一樹!貴方までなんで止めるのさ!!親友じゃないの!?」

「俺だって探しに行きてぇよ!!!でもな楊一がやってくれたこと忘れるな!!

何の為に俺たちを逃がしてくれたと思ってんだ!!」


美空は一樹の言葉を聞いて、我に返る、そしてその場に崩れ再び泣いた。


「どうしてよ、楊一、なんで一人で行っちゃうのよぉ、うぇぇぇ...」


生徒達の雰囲気は最悪だった、急に自分のクラスメイトの一人がいなくなったわけだ。

いつも笑いあっていた、何気ない人が突如いなくなったという現実を突きつけされるのだった。

一樹は言った。


「美空!いい加減泣くのをやめろ!そしてあいつを勝手に殺すんじゃない!!」

「一樹・・・?」


一樹の目は潤んでいるが決して涙は流さなかった、ふと美空は一樹の手を見る。

手は涙を流さないように抑えているのか拳を作るように強く握っていて血がポタポタと落ちていた。


「あいつは絶対に生きている、俺は信じてる、だから強くなってまた探しに行こう」

「一樹・・・」


その目は純粋な物だった、楊一は生きているとそんな目で美空を見ていた。


「そうだね、勝手に彼が死んだとは決めつけはいけないね」

「御剣くん・・・そうだね、陽一なら絶対に生きてるよね・・・。」


一樹と御剣のおかげでなんとか美空をなだめる事ができた。

そうして、生徒たちは一度近くの村まで戻ることになった。

一人の犠牲のおかげで生徒は守られたのだった。


――――――????


夢だ・・・、いや僕は死んだのか?

でもこの感覚は・・・


となりに少女のもやみたいのが見えたがそれは一瞬だった。

僕は起き上がる、体全体が痛い・・・そうか僕はあの戦いで落ちたんだっけ・・・

周りを見ると、どうやら谷底のようだ。


黒杉は壁を使って起き上がる。

痛い、でもあの深さでよく生きてたもんだと自分に良い聞かせる。

そして、黒杉は立ち上がると少女のモヤが見えた方向へと洞窟の奥に進むのであった。

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