第5話「遅い。」
「遅い。」
目の前で、親友の
「ごめんごめん。」
あたしは、手を合わせて軽く頭を下げる。
「電話があった時、まだパジャマだったんだもん。」
久しぶりに電話があって、待ち合わせたダリア。
「…一人で出てきた?」
って、小声で言った。
「え?うん。」
変な事聞くなあと思いながら
「えーと…ココア。
「…コーヒー。」
「ココアとコーヒーですね。」
ウェイターさんが、カウンターに戻る。
「…
苦い苦いって、全然飲まなかったクセに。と思いながら問いかけると。
「…飲めるようになったのよ。それが。」
あたしにとって、
親友っていうより、家族に近い。
それは、イトコの
あたしと同じ歳。
でも、特別な家に生まれた
「で?何。」
あたしが頬杖ついて
「…何?」
「何って…何かあったんじゃないの?」
「どうして?」
「
「そうだっけ?」
「そうよ。前はさ、
だから、家族の誰かに怪しい影が見えると、不安でたまらないらしい。
結局、
でも、もう彼女がいたって不思議じゃないよね。
実際…去年の秋から
「今度は何?」
「……」
「ん?」
「…何よ。」
「あたしさあ…」
「うん。」
「一人暮ししようと思って。」
「…………え?」
思いがけない言葉に、思わずキョトンとする。
一人暮しって…
だって、
「何があったの?一人暮しなんて…」
「んー…何か、急に一人になりたくなってさー…うちって、大家族じゃん。落ち着かないのよね。」
「……」
だから、敷地内には本宅の他に別宅やら寮やら道場やらがあって…
家族以外の人間が、常にわらわらしている。
でも、
「
「あたし?あたしはないな…」
「そうだよね…あんたんち、みんな仲いいしね。」
「
「…だったけどね。」
今更な反抗期なのかな。
「高校卒業してからでしょ?」
「ううん、来月から。」
「来月?」
「うん。昔、
「…へえ…」
不思議な感じ。
あたしと
お互い、家族自慢なんてしてしまうほどだったのに。
その
「お父さんとか、お母さんはなんて?」
「いい勉強になるかもね、って。」
…そりゃあ、そうだけど…
もう勉強なんてしなくていいのに。
「…なんか、寂しいな。」
あたしが小さくつぶやくと、
「遊びに来てよ。
って。
やっと運ばれてきたコーヒーにミルクを入れると、外に目をやりながら飲み始めたのよ…。
* * *
「
夕飯の時間になっても
「…どこ行ったんだろ。」
テスト期間中は、ここで
あたしと
あたしは「病気がちで通院している」っていう、とんでもない嘘で…。
撮影は、なるべく放課後や夜にしてもらうようにはしてるんだけど。
それでも、あたし中心にしてもらうわけにはいかない。
でも、頭のいい
あたしたちは、ギリギリ…楽しい冬休みを迎えられることになった。
「…?」
ふと、
隙間から見えてる…手紙。
一瞬のうちに、頭に血が上ってしまった。
『おまえなんか、
『
「…
あれ以来、何の嫌がらせもなくなったと思ってた。
手紙攻撃は続いてたのね。
それを、
「うおっ…なっ何やってんだよ。」
ふいに
「
あたしが手紙をつきつけると。
「…おまえ、人の机…勝手に。」
「引き出し開いてた。」
あたしの言葉に、
「どうして、こんなことすんのよ。」
「…いーじゃねーか。俺、おまえにやな想いさせたくないからさー…」
「だからって、あたしに来たものを
「また、この間みたいなことになったら面倒だろ?
「……」
今度は、あたしが唇をとがらせる。
「も、しないから。」
「…本当かよ。」
「しない。卒業まで、あと少しだし…我慢する。だから、あんた、いちいちこんな気使わなくていいから。」
あたしが唇とがらせたまま言うと、
「本当はさ、
って…
「…
「すごく気にしてたから。かと言って、あいつがおまえの靴箱の周りウロウロしちゃまずいし。」
「…でも、一度あたしの靴箱の前で堂々と待ってたことがあったよ?」
「ああ…」
「あの次の日、すごかった。」
ってつぶやいた。
「どうしてかな…
「おまえ、
「何かって?」
「いや…別に…」
「あたしって…」
「ん?」
「そういう…嫉妬?それが、わかんない。恋したことがないからかな…」
あたしのつぶやきに、
「おまえ、恋したことないの?」
間抜けな声で言った。
「
「あるだろ普通。」
「悪かったわね。でも、
「俺は不特定多数と、広く浅くおつきあいしております。」
「不健康ね。」
「品定めしてんだよ。」
そっか…恋したことがないってのにも原因があるのかも。
あたしが、
「て言うか、こういうのさっさと捨ててよ。大事に持ってるからバレるんじゃない。」
あたしが目を細めて言うと、
「まあ…そうなんだけどさ。学校で捨てると、それをまた拾った知らない奴からも変な噂たちそうでイヤだったっつーか…」
もごもごと答えた。
「あたしなら焼却炉に持ってくけどね。」
「はっ…」
「
「頭いいのに…何だよ。」
「…ううん。なんでもなーい。」
「言えよ。」
「何でもないって。」
頭いいし優しいんだけど、間抜けな所もある
あたしの叔父であり、双子みたいな感覚。
なんだかんだ言いながら、いつも助けてくれる。
…こう見えても、感謝はしてるんだけどね…。
「何してんのー?ご飯よー?」
母さんの大きな声に、あたしは我に返る。
「あ、あたし、
「何だよ、おまえはー。」
あたしたちは階段をバタバタとかけおりて。
「遅いよっ。」
頬をふくらませてるおばあちゃまに、一つずつゲンコツをいただいてしまった…。
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