休日貴族

アトムの子

第1話

31歳独身、金融会社勤務の元木哲郎の人生は安定そのものであった。

街はずれのガソリンスタンドを営業している夫婦の間に生まれ、何不自由なく育った。幼少期は母親にへばりつき、甘えてばかりいた。父親は遅くまで仕事で家にいなかったが、たまの休みにはよく遊んでくれた。実に子煩悩な両親であった。

両親は哲郎が地元の小学校を卒業した後、一人息子になんとか英才教育を施そうと私立の中高一貫校に進学させた。勉強は苦手であったが、なんとか卒業はできた。

高校卒業後、特にやりたいことが見つからなかった哲郎は先生や両親に勧められた大学に進学した。大学にはいろんな人間がいた。医師を志す者、弁護士を志す者、教師を志す者、学者を志す者、とにかくいろんな人間がいた。その中で哲郎にもたくさんの仲間ができた。やはり皆、何かを志し、将来の夢を持っていた。夢を持っていたなかったのは哲郎だけだった。疑問だった。好きなことでもひたすら続けていたらいつかは嫌になる。責任が伴えば尚更である。やりがいを感じることはあるだろう、しかしそれ以上に苦痛の方が多い。哲郎は仲間に対して「こいつらは本当にそんな仕事がしたいのか?」といつも疑問を抱いていた。

かくいう哲郎も仕事がしたくないわけではなかった。ただ仕事に生きる人間になりたくないだけであった。週休2日である程度の収入があればいい、と考えていた。

大学卒業後、哲郎は金融会社に就職した。必死の思いで就活をした賜物であったので、なんのためらいもなく就職した。

哲郎は仕事ができる男であった。任されたことはなんでも完璧にやってのけた。自分でも驚きであった。今まで特筆して成し遂げたことなどなにもない自分が仕事を完璧にこなしている。天職だ。そう思った。

哲郎が天職だと感じた理由はそれだけではなかった。週休3日だったのだ。このご時世会社勤めで週休3日とはなんたる厚遇。その分一般企業より報酬は少なかったが、哲郎は大満足であった。4日間働き詰めた後、3日間の休日は十分な報酬であった。

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休日貴族 アトムの子 @shoichiro

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