ストーリーは「時空のおっさん」を生業にする主人公が異世界転生者を相手に、その人物の(異世界内での)正体を暴いていく…というもの。
著者本人が語っている通り、かの古畑任三郎シリーズの作風を異世界というフォーマットに落とし込んだふうな作品で、短時間であっさり読めるミステリーである。
興味深かったのは物語の終わりにある犯人の扱いで、その落とし所には主人公の異世界転生者に対するスタンスを垣間見ることができる。それが読後感の良さにつながる部分でもあり、この物語が単に『犯人のトリックを破り逮捕に持っていく』という古畑シリーズを真似ただけの作品でないことがわかるだろう。
ただ犯人側の異世界転生理由や、アイドルという職に対する思いに、もうひとつ複雑なものが見たかった。
追記:
今、このラストを読み終えて、異世界が舞台というアイデアの面白さや多様性に気づく。現実での生活がイヤになって異世界で平和に暮らす者もいれば、悪意を持った転生者や、異世界に囚われる転生者のようなものも存在するのだろう。続編があるならば、そういった様々な転生者たちに対する主人公の判断や、そのやり取りに注目したい。