形沼 真司 (かたぬま しんじ) 社会人 31歳
新入社員が辞表を出した。入社して約半年だ。
私の部下だった。
正しい指導をしてきたつもりだった。しかった事もある。しかし、褒めた事もある。そのバランスは気を付けていたつもりだ。
しかし、どうやら間違っていたらしい。
彼の辞職は家庭の事だとか、聞いていた。だから残念ではあるが、仕方がないと思っていた。
彼が辞めた後、上司から本当の理由を聞いた。
私から怒られたことが不満だったそうだ。
「最近の若者は軟弱だからなあ。少し叱るとすぐヘソを曲げるんだ。気にすることは無い」
上司はそう言っていた。
「そう…ですね」
そう返したものの、本当にそうなのか、不安は残った。
時代にあった柔軟性が必要なのだ、指導にも。昔の自分の経験をそのまま繰り返しているだけでは、下はついてこない。経験を踏まえて、自分の考えた事を指導しなければいけないと思っている。
そうできていたつもりだった。
しかし、辞めてしまったということは、それが違っていたのだろう。叱ることも時には必要だと思っていた。褒めて伸ばせという言葉がよく聞かれるが、褒めてばかりでは重要なことが分からないと思っていた。
ただ、辞めてしまえば、重要な点もそうでない点も、何一つ意味はない。
辞めないような指導が最優先なのだろうか。
ふぅ。と、ため息が漏れた。
正解など分かるはずもなく、それでも私の頭の中はぐるぐると渦巻いていた。
そして渦のその中心には確かに、彼への申し訳なさだけが残り続けていた。
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