早宮 咲 (はやみや さき) 高校3年生 18歳

 今日は雨が降っている。それなりに強い雨で、バスや電車を使って学校まで向かっても、降車してからの間に足元がずぶぬれになってしまう。その感触が異様に気持ち悪く、休みたいなんて思う人も多い。


私も去年まではその内の一人だった。


 でも、今年は違う。雨の日が楽しみでならなかった。恥ずかしながら、高校生にもなっててるてるぼうずを逆さに吊るしたこともある。

 私はいつも早めに学校につく。教室のドアを開けると誰もおらず、その中で少し掃除をしたりする。誰かに頼まれたりしている訳ではないが、クラス委員長としての責任感もあり、みんなが過ごしやすい教室にしたいという思いがあるからだ。


 ただ、雨の日だけは少し違った。


 学校近くのバス停から、傘をさして徒歩で向かう。所々にある水たまりが足元を濡らすが、そんなことは気にならないほどに私の心は弾んでいる。

 校門を抜ける。階段を上がり、自分の教室がある三年一組までたどり着く。

 弾んだ気持ちを少し落ち着かせるために、一呼吸置き、ドアを開けた。

 いつもなら、誰も居ないはずの教室に一人の男子が居る。彼は天来頼典という。変わった名前だ。


「あら、天来くん。今日も早いのね」

「まあな」


 そう言って彼は、窓際から離れ自分の席に着く。特段何をするでもなく、ぼーっとしているだけだ。

 私も彼とは離れた自分の席に荷物を置き、椅子に座った。

 雨の日は必ず彼が居た。

 いつも一人のはずのこの早い時間帯に、私よりも先に来る人がいた。

 特に仲が良いわけではない。普段はほとんど話すことは無い。というより、この他に誰も居ない間でさえも話さない。

 なのに、心が惹かれているのが分かる。本当はもっと話したい。どうして雨の日は早く来るのか聞いてみたい。いや、もっとたくさん別の話もしてみたい。

 それなのに、会話をする勇気がない。

 教室に入るときのちょっとした挨拶が精一杯だ。

 今日は自然な挨拶が出来ていただろうか。変な会話になっていなかっただろうか。そんなことばかり考えてしまう。次こそは、挨拶以外の会話もしよう、そう思うが上手く行ったことは無い。


 次こそは…。


 私はスマホを取り出し、明日の天気を確認した。

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