元田 桐 (もとだ きり) 大学四年生 21歳

 凄まじい騒音が周りで響いている。耳栓をしているから多少はマシであるものの、それでも耳の中に入り込む音は止められない。初めは多大な不快感を覚えていたものの、今はもう慣れた。

 目の前の画面に映る数字がリーチになり、可愛らしいキャラクターが激熱を宣言する。

 きたっ!!!

 表情には出さないが、内心では興奮が止まらなかった。これが当たれば、投資した4万を捲るのも夢じゃない。

 打っている台が凄まじい音を出し始める。役物がガチャガチャと慌ただしく動いていた。そしてボタンを押せと指示される。

 頼む、当たってくれ!

 そんな強い願いもむなしく、台は急に静かになり、数字は揃わなかった。俺は財布の中身を改めて確認したが、もうお札は無い。小銭が数百円入っているだけだった。うなだれながらパチンコ店から外に出る。耳栓を外し、深いため息をついた。

「何をやってるんだろうな、ほんとに」

 足元を見続けながら帰路につくしかなかった。

 大学四年生になり、単位もほぼ取り終わった。その分、自由な時間ができた。友達に誘われ、興味本位で行ったパチンコ屋で大当たりしてしまったのが大問題だった。俺はあっという間に中毒になり、ほぼ毎日パチンコを打つようになった。当然、お金はどんどんと減っていき、バイトで稼いだお金は全てパチンコへと飲まれて行っている。

「止めた方が良いのは分かっているつもりなんだけど…」

 今までに何度も止めようと思ったが、1週間と続かなかった。負けると次取り戻そうという気になり、勝つと今は調子が良いからとつい向かってしまう。自分で自分に嫌気がさしていた。

 ふと顔を上げると、道路を挟んで反対側の居酒屋から数人の大学生が楽しそうな声で笑いながら出てきていた。ちょうど友人同士で飲み終わった所なのだろう。そんな光景を見て、さらに心が痛くなった。

 俺はもう友達と飲みに行く金すらない。しかもたちが悪いのがお金があったとしても、飲み代でパチンコ打てるなあ、なんて考えてしまう。そんな思いが出ているのか偶然か、最近は飲みに誘われることも少なくなったような気がする。

 俺は再びため息をついた。

 毎回のように、負けた日はこんな思いを抱えている。最悪の気分だ。それなのに、明日になると向かってしまっている。

 明日こそは行かないでいられるだろうか。

 そんな事に頭を抱えていることすらも、悲しくてしょうがなかった。

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