獅子原 健 (ししはら けん) 社会人8年目 30歳
気が付いたら会社に入って8年も経った。後輩もたくさん入って来たし、役職も上がった。上から叱られる事も減った。業務も上手くこなしていると思う。大きな不満も無い。
ただ、不安はある。
向上心が小さくなっているのを感じる。会社に入って8年にもなれば、大概の事は知った。勉強もしていたおかげで、業務上で分からないことはほとんどなくなっている。良いことではあると思うが、その分、成長が止まった気がしてならない。
右も左も分からなかったおかげで、がむしゃらに勉強が出来た。何を学べば良いかがはっきりしていたからだ。今はその進むべき方向が分からない。
もちろん、仕事の上で新しい事も多少は出てくる。しかし、それはその都度調べて終わりだ。生涯に影響する学びでは無くなっている。
今思えば、学生の頃は楽だったと感じる。何を勉強するのかが示されていたからだ。勉強は大変ではあったが、目の前の事に一生懸命になればよかった。何を勉強するかなんてことを考える必要が無かった。
社会人になって、役職も上がって、今までのように流れに沿っているだけでは駄目になった。自分でしっかりと考えないといけない。何が今の自分に足りないのか、会社に必要なのかを探さないといけない。今までの勉強の仕方とがらりと変わっている。だからこそ、どうしていいのかが分からないでいる。
目標がしっかりとあるときは、それに向かって頑張ればよかった。今はその目標を探すところからだ。それのなんと難しいことか。
今日の仕事を終え、車に乗り込む。車を30分も走らせれば、自宅に着いた。
妻が晩御飯を用意してくれている。缶ビールを開け、美味しい食事を取り、風呂に入る。テレビをぼーっと見て、明日の仕事の準備をして就寝だ。
何一つ不満の無い幸せな生活だからこそ、不安が生まれてしまっている。現状維持が続いて行く気がしてならない。それに文句もないが、それでいいのだろうかという気持ばかりが強くなる。
「おやすみ」
妻とお互いにそう言葉を交わし、眠りに落ちた。
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