濱倉 恵志 (はまくら えし) 社会人3年目 25歳

 毎日毎日同じことの繰り返し。朝6時半に起きて、7時過ぎには家を出る。人で埋め尽くされた電車に揺られ、気が付けば8時半前に会社にたどり着く。20時頃に会社を出て、家に着いた時にはもう21時を回っている。風呂、食事、洗濯、掃除、やることをこなしていけば、就寝時間だ。また明日から同じ一日が始まる。



 不満はあるだろうか?



 ない。そこが問題なのだとも思う。仕事だってそんなに辛くない。残業代だってつくし、割とホワイトな企業だと思う。人間関係だって悪くない。それでも、たまにどこか違和感を覚えてしまう。自分は今何をしているのだろうか。


 自分は独り身で何も守らなければならないものはない。守るものは自分だけ。自由のはず。それなのに、納得のいっていない現状を受け入れたまま生活をしている。世界の経済を動かす歯車の一部として、なんとなく生きている。


 満足なのか。不満がないことが満足と言えるのだろうか。そんな疑問ばかりを胸に秘めたまま今日もまた電車に乗る。改革をする度胸がないのだから仕方がない、そう言いくるめて終わり。


「ほんと、疲れた。もう部活辞めようかな」

「まあ、笹田が小言ばかりなのは勘弁して欲しいよな。でもその我慢もあと1年を切っているって思うとテンション上がらん?」


 電車内の男子高校生が言う。この子達もいずれ俺と同じようになるのだろうか。日々の生活に面白みを感じずに文句を言うのは自分に対してになるのだろうか。



 いずれ。じゃあ、今は?



 この文句を垂れている高校生の今は面白みに溢れた毎日なのだろうか。

 昔の自分を思い出す。この子たち同様に、先生や部活仲間に対してまで文句を言って、それでもなんとか仲良くやっていた時を思い出す。


 楽しかったなあ、あの頃は。なんて感情に包まれる。でも、その時は?楽しかったのか?本当に?文句を言って、つらい時もあって、毎日が楽しいなんて思っていたのか?


 いつだって気が付けるのは後になってからではないのか?


 それならば、今は。文句をただ言っている今も、後になって気づくこともあるのだろうか。ただ、何不自由ない毎日を繰り返すだけの時間が実は楽しかったことに。


 でも、たった今、俺はこの繰り返す今を楽しいとは感じていない。後になって、どう思い返して羨んだとしても、たった今、この俺が感じる事実は変わらないはずだ。はずなんだ。


 それなら……どうしようか。せっかくなら、未来の俺が羨む今を本当に楽しい時間だったことにするには。


 何かを楽しく感じるにはきっと、何かしなくてはいけないのだろう。まずは、それを探すところからか。

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