田中 寿 (たなか ひさし) 高校3年生 17歳
漫画やアニメの中ならきっと、彼女は窓際で俺はその隣の席に座れるのだろう。しかし、現実はそうそう甘くはない。俺の席は廊下側から2列目の後ろから2番目。そして彼女は俺の席から2列左の前から2番目。
正確な位置なんてものはどうでもいい。とにかく俺が恋した彼女の席は遠く離れているということだ。
彼女とは3年生になって初めて同じクラスになった。名前は相馬沙也。目立つことは苦手な、おとなしめなタイプ。でも暗いわけではなく、みんなの輪の中には入っていける子。言ってしまえば、普通の子だ。顔だってそこまで可愛いわけではない。メガネをかけているが、俺はメガネ好きというわけでもない。
それならば何故俺は彼女を好きになったのか。
分からない。
でも気づいたら彼女と会話するときに緊張するし、視界に入ると恥ずかしくなってすぐにあらぬ方向を見てしまう。黒板を見るつもりでも、左端に彼女が映るとやや視点を調整する。
はっきり言って疲れる。どうしてこんなにも振り回されているんだ俺は。
「田中くん。木谷田先生がノート出してくれって言ってたよ」
声のした方へ眼を向けると、相馬が立っていた。
「っと、びっくりした。なんだよ」
あたかも今気づいた風を装うが、近づいてきているのは知っていた。当然だろう。見てしまっていたのだから。
「だから、ノート出してってさ。伝えたからね」
「分かった、分かった」
そんな会話だけで、二人の距離はもう離れだしてしまう。どうして、こんな態度になってしまうのか。もっと話したい。大した話でなくても、事務的な会話でも、ただただ声を交わしたいと思っているのに。
声を向けられた瞬間の胸の内はこんなにも跳ね上がっているのに。
自分ですら少し気持ち悪いなと思ってしまう。きっとこんな態度の悪い相手に想いを寄せられているなんて思わないだろうし、想ってくれないだろう。小学生は好きなひとに悪戯をしてしまうと言う。それならきっと俺もまだ小学生なのだろう。なんとか、成長したい。もっと大人になって、堂々と相馬と話しがしたい。
でもどうすればいいのか良くわからない。この胸の内が静まればもっと落ち着いて仲良く話せるのだろうか。でも、それはつまりこの気持ちが消えてしまうということではないのか。
両立するにはどうすれば。
ああ、本当、疲れてしまう。
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