谷戸 あかり (やと あかり) 大学1年生 18歳

 私はワクワクしていた。大学に入学し、初の一人暮らし。新しい友人関係を一から作り上げる。バイトも始め、サークルにも入り、恋人も自然に出来、夏休みや春休みなんかは友達と旅行にも行く。



 そんな想像を膨らまし、高校を卒業した。



 それがどうしてこうなった。今、私は一人だ。サークルにも入れず、恋人どころか友達すらいない。バイトはとりあえず始めたけれど、ただのスーパーのレジ打ち。バイト仲間というのも特に形成されていない。いや、そこに私が入れていないだけの可能性ももちろんあるけど。


 大学デビューを果たそうと、コンタクトを入れ、髪も少し染めてみた。化粧も学んだ。それでも、人見知りの性格だけはどうにもならなかった。サークル見学に行く勇気もなく、大学の顔合わせも自分から話しかけられず、早々に退散してしまった。


「はあ……」


 そもそも。自分の性格に合わないことをしようとしたのが間違いだった。変に気を入れて髪なんて染めても似合ってない。化粧を派手目にしてみても、中身が伴わない。きっとサークルに入ったところで大きな人の輪の中に入れるコミュニケーション能力はない。


 分かっていたのに、自分が一番分かっているのに、憧れてしまったのが失敗の原因。


 自分の場所は静かな日陰の中とずっと前から決まっていた。でも、そこから色んな景色が見えたから。教室の隅から明るい日向が見えてしまったから、自分もそこに出て笑っていられたらなんて妄想を広げてしまった。


 その妄想は現実とは違うことを受け入れられないでいた結果がこれだ。


 ただただ体力だけを使って終わった。一瞬だけ日向に出ようとして、すぐに戻ってきた。どうして皆はそんなにも眩しくて暑い場所で動き回れるのだろうか。どうやってそんな体力を身に着けてきたのだろうか。


 生まれつき?環境?意志?


 何が問題だったのか。小学生の頃は一緒に日陰にいる友達もいた。ずっと教室や図書館にいた。それが次第に離れていき、気づけば周りに人は居なくなっていた。あの子たちはいつの頃から日向に出られるようになったのだろう。


 きっと、私よりももっと早い段階で外に足を向けていたのだろう。大学に入る段階で行動に入ることが遅すぎたのだろう。


 だから、私はもうずっと日陰にいよう。中学、高校で気がつけなかった私が馬鹿だったのだ。居心地だけに寄り添って、周りへ目を向けなかった。動こうとしなかった。何の経験値も積んでいない私がそんな我儘なんて都合がよすぎる。



 じっと日の当たらない場所にうずくまって静かに生きていこう。


 日向に憧れを抱き続けて。

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