木下 正人 (きのした まさと) 中学2年生 14歳

 俺には隠された力がある。選ばれた人間だからだ。クラスの他の奴らとは違う。例えば、突然この学校にテロリストでも現れたとしよう。きっと皆はビビッて何もできない。銃一つ向けられれば黙って従うことしかできないだろう。


 しかし、俺は違う。


 テロリストに侵入されたと分かったらすぐに、まず教室の扉を閉める。すぐに突破されるだろうが、それには多少なりとも時間がかかるはずだ。その隙をついて窓から脱出する。この二年三組の教室は二階だ。窓から降りられるような高さではない。でも、窓のすぐ下には若干の出っ張りがある。恐らく転落防止か何かのためだろう。それを伝って違う教室まで行く。


 テロリストが教室の侵入に成功した頃には俺はそこに居ない。しかしあいつらは俺が居ない人数を、全員だと勘違いする。そして、その間に俺は他の教室の窓から入り込み、縛られている他クラスの生徒を解放……。


 は、しない。


 先の展開が読めない他の奴らならば目の前の人質を優先してしまう。しかし、そんなことをしたらどうだ。我先にと全員が教室から飛び出し、パニックに陥る。そしてテロリストにもそのことを気が付かれ虐殺が起きるのだ。


 俺は冷静に人質を放っておき、廊下を観察する。タイミング的にはテロリストは俺の教室、二年三組を襲っている時間帯のはずだ。慎重に教室を出て、自分のクラスへと近づく。クラスの奴らは俺のことを逃げ出した臆病者だと思っている頃だろう。しかし、そうじゃない。


 入口の窓ガラスからばれないように中の様子を観察する。恐らく、手や足を動かせないように紐で結んだりしている段階だろう。俺は慎重に音を立てず、スライド式のドアを開ける。タイミングが重要だ。テロリスト共が俺のことに気が付くその直前までは行動を起こさない。机や椅子の影にかくれながら、ゆっくりと距離を詰める。目の前の数十人の人質だけを警戒している事だろう。


 まず、銃を持っているテロリストに背後から襲いかかる。相手の足をひっかけるようにして手前に引き倒せばいい。そして、奇襲なんて微塵も想像していない相手から銃を奪い取るのだ。それを目の前のテロリストに向けて一言。


「今すぐに全員を解放してこの学校から去れ」


 飽くまでも冷静に、静かに冷たい声で。


 相手は恐れおののくだろう。中学生だと舐めていた相手に圧倒されたわけだ。負け犬のよう地を這い退散するしかない。


 クラスの奴は、冴えない奴だと思っていた俺に対して憧れを抱き感謝する。


「気にするな。クラスの皆のためならこれくらい大したことじゃない」


 そうして、この事件は円満に解決し、警察が犯人も逮捕することだろう。

 



 そう、俺はそういう人なのだ。このような、展開のない、生ぬるい日常が続いているから、誰も俺に興味を示さないだけ。誰も俺の本当の力を分かっていないだけなんだ。

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