古田 海近 (ふるた うみちか) 大学院二年生 24歳

「2泊3日で九州1週しようぜ。俺車出すからさ」


 そう言われたのは昨日。断る理由も無く、八方美人でいようとする性格からその提案をあっさりと承諾してしまう。今は友達の後部座席で窓からの景色を眺めている。


 自分の事は自分が一番分かっている。今は旅行なんかに来ているけれど、実は俺はインドア派だ。旅行も嫌いではないけれど、1人で行きたい。

 何故なら感覚が違うから。

 楽しみたい場所、楽しめる時間のズレが勿体なくてしかたがない。この九州旅行だって、行くなら1人で周りたい。


「よーし、青島ついたぞー」


 車から降りる。ここは鹿児島にある青島。鬼の洗濯板と呼ばれる名所がある。その島を3人で周る。天気も良く非常に心地いい。名所と言われるだけあって、景色も圧巻だ。この空気感を味わう。


 カシャ。カシャ。


 隣でスマホの音がする。分かる。分かるよ。撮りたいよね。それはそうだ。しかし、なんだろう。どこか空気の味が不味くなる。折角のこの素晴らしい天気と景色と空気が、汚されているように感じるんだ。


「よし、時間も無いし次行くぞ」


 友人2人に連れられて俺も車に乗り込む。滞在時間は30分程。物足りない。物足りないんだ。どうしてここに来たのだろうか。この旅行の目的は何なのだろうか。観光地を堪能することはついでなのだろうか。九州を周ったという事実が欲しいのだろうか。


 車をさらに走らせ行きつく先は都井岬。野生の馬がいる見晴らしのいい場所。時間的にも夕暮れの頃合いで、青島とは違った感慨深い雰囲気がある。なんて思っていると、早速移動。この場所に思いを馳せる時間も与えられない。



 そんな気持ちを抱きながらも、あっという間に旅が終わった。



「いやあ。帰ってきちゃったな。楽しかったよ、皆、ありがとう。またな」


 そんな言葉で解散になる。気づくと家にいる。この3日でかなり移動した。福岡に始まり、佐賀や大分、宮崎、鹿児島、熊本。長崎だけは時間的に行けなかった。


 疲れた。正直疲れた。もっと、一つの場所に居たかった。九州1週なんてしなくても、場所や食べ物をしっかり堪能したかった。


 と思っている事も確かだ。でも、そのはずなのに、やっぱり楽しかったのだろうか。なんだろう。上手く表現できないけれど、連れまわされただけのような気がするけれど、俺はインドア派のはずだけれど、気分がいい。


 良い景色を見た時や、美味しい食事をしたときとは違う満足感が、胸に広がっている。


 好きではない。こんな、事実だけを欲しているような旅行は。

でも、案外悪くはなかった。

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