川居 知里 (かわい ちさと) 高校2年生 17歳
私が通う高校は徒歩圏内だ。20分も歩けば着く。自転車も許可されているが、使わない。なぜなら1人でぼーっと出来るこの時間を結構気に入っているからだ。学校に着くと、友達の輪に入る。家に帰ると家族の輪に入る。友達も家族も嫌いではないが、1人の時間も必要だ。私には。
帰りの会が終わり、友達と雑談した後は一人帰路につく。時間は18時前。まだまだ外は明るい。それでも、流れる空気はやはり朝とは違っていた。学校帰りという気分がそうさせるのだろうか。
私以外の学生服を着た人、スーパーの袋をかごに入れて自転車をこいでいるおばちゃん。スーツ姿の仕事帰りと思われるおじさん。色々な人が、それぞれの家に向かって歩いている。皆がこれから幸せで気の落ち着ける、家という空間に戻ろうとしている風景を見て、なんとなく穏やかな気持ちになってくる。この空気感が本当に好きだ。
ちょっとずつ動いていく風景をぼんやり眺めていると、足元の段差に躓いた。倒れそうになる上半身を、左足を大きく前に出すことでなんとか止める。
危ない危ない。セーフ。
ただ、少し周りの目が恥ずかしかった。思春期の女の子が大股で歩くなんて。歩いてはないけれど。実際は誰もそんなに気にしていないだろうけれど。
恥ずかしいという思いから、ついつい足元に目が行ってしまう。もうコケるわけにもいかないし。足元を見ていると、ふと思うことがあった。
あれ?どうして足が動いているのだろう?
自分の足だから。家に帰ろうとしているから。そう言われたら、ぐうの音もでない。その通り。でも、帰ろうという意思はあっても足を動かそうという意識はない。なんとなく、自然と動いている感じ。当然だけど。それでも、気にすると奇妙に思えて仕方がない。
私の足は一定のリズムを崩すことなく、自分の体を家へと連れて行こうとしている。それは私の意志に反していないからこそ、止まらない。
皆も同じなのだろうか?
なんとなく、周りの人たちへと目を向ける。何の不自然さもなく、何の表情もなく歩いている。あの人たちは私のような疑問は持っていないのだろうか。自然と動く足に違和感はないのだろうか。それとも、ちゃんと意識しているのだろうか。
一度足を止めてみる。右足を出す。次に左足を出す。右足。左足。右足……。
気持ち悪い!!
どうなっているんだ私の足は。意識しなければ違和感なく動き、足を動かそうとすると、抵抗感が生まれる。なんと欠陥品なのだ。
そうこうしているうちに、家の前まで来た。一人の時間が終わってしまったようだ。振り返ってみると意味の分からないことばかり考えていたけれど、やっぱり、
楽しかった。
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