草間 和敏 (そうま かずとし) 小学5年生 11歳

 僕の学校には休憩時間がある。授業と授業の間は5分間の休憩。2時間目と3時間目の間だけは、大休憩として20分。4時間目と5時間目の間はお昼休憩を含めて1時間ある。


 僕は本が好きだ。あらゆる世界に連れて行ってくれる。自分の住んでいる町しか知らない僕に、世界中の、世界中に無い場所まで連れて行ってくれる。休憩時間に入ると僕は本を取り出し、その世界の中に飛び込むのだ。


 周りのクラスメイトは、すぐに外に行く。大休憩にはボールを持ち出して、授業が始まるチャイムと同時に戻ってくる。昼休憩には、大急ぎで給食を食べ終え、またもやすぐに外へと走り出す。


 なんて無駄なのだろう?少ない休憩時間にわざわざ外へと移動し、ちょっと遊ぶだけ。それに比べて、僕なんてたった数十分でどこへだって飛び立つことが出来る。絶対にクラスの誰よりも僕が充実した休憩時間を過ごしていると思う。


 教室の正面に取り付けてある時計へと目を向ける。大休憩まであと五分。今日僕が飛ぶ世界は西洋の魔法の国だ。魔法を使って空も飛べるし、悪い奴も倒すことが出来る。あぁ、早く飛び立ちたい。楽しみでならない。僕にとってはこれが最高の楽しみなのだ。


 キーンコーンカーンコーン。


 チャイムがなるとすぐに教室内は騒がしくなる。僕はその喧噪をものともせず、カバンの中から本を取り出す。栞を挟んでいたページを開き、この世界の中へと沈んでいく。




 イービルは魔法を使い、料理を目の前に出現させる。


「おい!武田!早く外いくぞ!時間無くなるぞ!」


 その料理は今まで口にしたどんなものよりも、美味しいものだった。


「ねーねー、昨日のTV見た?新曲演奏してたんだよ。めちゃくちゃ良かったー」


 それはこの会場にいる全員を感激させ、イービルの評価を高いものにした。


「みてくれ。消しカスでくっそデカい練り消し作った」


 この日、イービルへの賛美が止むことは無かった。




 再び学校のチャイムが鳴り響く。それによって僕も現実の世界へと戻ってくることが出来た。また、授業が始まる。


 授業中は本を読むことは出来ない。当然だ。でもどこか、安心するんだ。楽しいはずの休憩時間が、どこか不安で。全員が揃って、誰も話しをすることがなく黒板を見つめ、ノートを取っているこの時間が何故か安心して。


 どうしてだろう?僕は本が好きなのに。勉強はさほど好きでもないのに。この違和感の正体は魔法を使えるようになれば分かるのだろうか?

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