こころ記帳
秋瀬田 多見
天辺 卓 (あまべ たく) 高校3年生 18歳
学校をさぼった。
特に理由はない。友達もいる。成績もそれなり。部活も辛いけど充実していると思う。嫌なことも多少はあるが、まぁ誰にでもある程度の事だろう。
朝に家を出て、学校に向かう途中で行きたくなくなった。今までもそんな気分になることはあった。しかしそういう気分になるだけで、風邪といった、やむにやまれぬ事情以外で休むことは無かった。
いつもとは違う道を歩く。同じ制服を着た人とすれ違うが、誰も僕の方なんて見ない。そんなものなのだろう。
公園に寄ってみる。ブランコがある。微動だにしていない。今日はまだ誰も遊んでいないのだろうか。とりあえず座ってみる。上には青空が広がっていて、いい天気だなぁなんて思う。特に悩みと言える悩みもないから、ぼけーっとするだけ。誰もいない公園で1人、ブランコに座っているだけ。この公園が自分だけの物になった気分。なんて思っていると、人が入ってきた。近所の親子だろう。一瞬にしてこの公園の所有権が移った。
僕の家の近所には小さな山がある。なんとなくそこに行ってみた。15分もすれば頂上に着いた。ベンチに座って僕が住んでいる街並みを見渡す。正直に言って普通。よくある恋愛漫画みたいに隣に恋人でも座っていれば違ったのだろうか。
青空も相まって気持ちが良い。ずっとここに座っていられそう。そう思っていたが、ふと時計を見ると3分しかたっていなかった。僕の感性なんてそんなものだ。
山を下り、適当に歩く。その最中に、図書館があったのを思い出した。読みたい本があるわけでもない。図書館によく行く性格でもない。でも暇つぶしにはなるかと思った。
本に囲まれた静かな空間。話し声なんて聞こえない。皆がそれぞれ好きな本や雑誌を手に取り、椅子に座っている。適当に一冊手に取り、椅子に座る。ページをめくる。普段読まない活字が目に飛び込んでくる。最初の抵抗感はすぐに消えてなくなり、いつの間にか物語の中に落ちていった。
本を読み終わった。時計を見るとちょうど三時を指していた。帰るには早い。でもやることがない僕は図書館を出て家に向かった。
家に帰ると、学校をさぼった今日が終わる。何故僕は学校に行かなかったのか。自分でもよく分からない。ただ、そういう気分だったとしか言えない。悩みが無いといえば嘘になる。でも、逃げ出したくなるほどではない。そこまで大きな悩みをかかえる人なんて本当に一握りだけだろう。それでも、こんな気分になることもある。
家に帰ると怒られるだろうか。学校くらいちゃんと行けと言われるだろうか。学生なんて大した悩みも無いだろうにと言われるだろうか。
間違っていない、その通りだと自分でも思う。でも、学校に行かなかった今日は、大切だった。僕のなかでは大事で充実していた。どこにも行く目的はなかったし、気分で歩いていただけの今日が、どんなに僕の日常の救いになるか、分かる人は僕だけだろう。
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