南に燃えるは恋の炎

 突然だが、四神ししんというのをご存知だろうか?

 

 調べに寄ると中国の神話に伝わる天の四方の方角を司る霊獣だそうだ。

 四獣しじゅう四象ししょうともいうらしく、四象と四神と四獣というのは呼び方の違いで同じ存在である。

 強いて言うなれば実体のない概念であるのが四象、それに実体を持たせたものが四神と四獣ということらしい。




 まぁぶっちゃけ僕自身もなんかすごい神様くらいのイメージしかないのでそんな難しい話はさておきだ。




 なんとここジャパリパークではそんな凄い四神の皆様もフレンズ化。(原理はよくわからないが)

 今回僕が話したいのはその中の南方の守護者であるフレンズ、スザク様についてのことである。


 ただ何もスザク様観察レポートをここで発表するってそんなことではない、難しい話はしないと言っただろう?とりあえずジャパリパークでは神様に会えるってそれ凄くない?くらいに考えていてもらいたい。



 ある日僕は出会ったんだ。



 あんな素敵な女性ひと、今後の僕の人生で二度と現れることはないだろう。









 僕はパークスタッフだ、あの頃はまだ見習いなのでガイドとか調査隊とか飼育員とかいろいろある中でまだハッキリ役割が決まってなくて。


 それでもハッキリと言えることそれは。


 フレンズの中でも鳥のフレンズが好きだってことだ。


 幼い頃パークに遊び来た僕はたまたまクジャクのフレンズに会いその尾羽の美しさに目を奪われた。

 家に帰ると鳥の図鑑を開きまずクジャク、それからケツァールやキジなど綺麗な羽を持つ鳥がたくさんいることを知った。


 次にパークに行く時は鳥の子ばかりに会いに行き、絶滅したはずのドードーやトキに会えたこともとても思い出に残っている。


 特に鮮やかな美しい羽の子が好きというだけで、鳥の子ならみんな好きだ。


 そうしてパークスタッフになると決心し、今に至る。



 話が逸れたがそう、見習いスタッフの僕はガイドになることを希望していた。

 いろいろ研修させてもらったがやはり鳥のことならドンとこいな僕には鳥フレンズに重点を置いたガイドができると思ったからだ。


 それに幼い頃の僕みたいに「こんなに綺麗な子が鳥にはいるんだ!」と沢山の人に知ってほしかった。


 というわけで先輩ガイドの補佐に回り答えられることであれば僕がお客さんに解説などしていくことになった。


「あちらをご覧ください、羽がとても美しいフレンズですね?それではあの子の解説を… 頼めるかい?」


 先輩が僕に仕事を振ってくれた、勿論任せてください、あの子のこともよくご存知です。


「はい、あちらはコンゴウインコのフレンズで…」


 と、僕の鳥解説をタラタラと聞かせても仕方ないのでここは割愛させてもらう。


 だがここだ、僕はこの時に運命の出会いを果たした。


「え~… なので、あぁしたコンゴウインコさんの元気な姿が見れるのもジャパリパークならではの…」


 解説の途中だが、この時小さな女の子のお客様が空を指差し大きな声で僕に尋ねた。


「おにーさん!あれは?あの綺麗な赤いのは何て言うフレンズさんなの!」


 少し解説に熱が入っていたせいかハッと正気に戻り女の子の指差す方を見た。


 遠い… 遠いがそれでもわかった。



 何て美しい尾羽なんだろうって。



 「こらもう!ダメでしょうガイドさんが話してる時に変なこと言っちゃ!ごめんなさいガイドさん… ガイドさん?」


 母親らしき女性が女の子を注意し僕に謝罪を入れていたらしいが、僕の心はこの時燃え盛る炎のように美しい尾羽のフレンズに夢中でお客様の声なんて届いていなかった。


 何より僕は、今までにあんなに美しい鳥を見たことがなかった。


「ねぉおにーさん!あれはなに?教えてよ!」


「え…?あ、あぁあれは… あれはえっと…」


 言葉が出てこない、あの子は誰なんだろう?あの子は…。


 ボーッとしていた僕にフォローを入れるように先輩がお客さんたちを誘導し始めた。


 この後事務所に戻ると結構キツめに注意が入ったが、僕は彼女のことで上の空。


「こら、聞いてるのか?」


「あ、あの先輩!あのフレンズは何ですか!あんな綺麗な子は初めて見ました!鳥のことなら自信があったのに全然わからなかった!クジャクの尾羽と似てたけど違う!なんかもっともっとこう…」


「神秘的?」


「そう!まるでこの世の者ではないような!」


 そうだ、まるで幻想を見ているみたいに今でもあの美しさが頭から離れない。

 説教なんて始めから耳に入っちゃいない。


「まったく鳥のことになると君は… いいかい?あれは鳥の姿をしているが厳密に言うと鳥という括りにはならないフレンズなんだ」


 鳥の姿でありながら鳥ではない?


 その言葉はやや引っ掛かったが、その答えを先輩はすぐに教えてくれた。


「あれはジャパリパークの南方を守護する者、四神スザク様だ」


「四神… スザク様?」


 この時初めて彼女のこと… 守護けものという存在のことを知った。


 それからだ、スザク様のことがまさに脳裏に焼き付いてしまい頭から離れない。

 だから僕はどうにかして会いたいと先輩に頼み込んだ。


 先輩に頼んだからといってどうにかなるものでもないことくらいはわかっていたがそれでもどうしても会いたかった。


 頼れるのは先輩くらいだ、そんな僕の熱に押されたのか先輩は助けを求めるようにとある上司に声をかけた。


「ミライさんなんとかしてくださいよ?守護けものに会うなんてどうかしてます、無礼ですよね?」


 緑髪の女性、ミライさんはクスクスと小さな笑みを溢しながらその問いに答えた。


「スザク様ですかぁ~… 素敵ですよねぇ羽?心を奪われてしまう気持ちわかりますよ?いいなぁ… 私もあの華麗なる尾羽に清められたいです」


 なるほど、どうやら先輩は助けを求める相手を間違えたようだ。

 ヨダレを垂らして恍惚とした表情を浮かべる様はとても常人とは思えない。


 しかし話の分かる上司で助かる。←大概


「あの!スザク様はどこに住んでるんでしょうか?どうやったら会えるんですか!」


「クジャクさんに頼めば話を着けてくれるかも知れませんね?尾羽を引き抜くことはあれど仲はいいみたいですから?」


 クジャク!クジャクさんか!ならば話は早い!


 僕を鳥好きにした戦犯クジャクさんならすでに友好な関係を気付いている、スザク様に会わせてもらうよう頼んでみよう。


 そうと決まればと僕は早速クジャクさんにアポをとりスザク様に会いたいという気持ちを伝えた、するとなんとあっさりと良い返事を頂くことに成功、今度の休みにクジャクさんの案内でスザク様のとこに訪問することが決定したのだ。やったぜ。


 

 ところでなにやら注意があるらしい。



「いいですか?フレンズであることに変わりはありませんけど神様ですから?がっついて失礼のないようにしてください?それから住んでいるのは火山です、とても熱いので辛かったら無理をしないでください?」


 勿論だ、しかしあまり汚い格好もできないと思っていたがまさか火山に住まわれているとは… 完全装備で行こう。


「それと… 少々がめついです、何か手土産を用意してあげてくれますか?そしたらすぐに上機嫌でお話をしてくれると思うので、あとは再三言いますが失礼のないように」


「わかりました、ありがとうございます」


 手土産、寧ろ頼まれずとも献上したい所存であります。


 ここはやはり甘い物がいいだろうか?既に楽しみだ、休みが待ち遠しい。







 そうして当日、南方の火山。


 あ、熱い!


 案外あっさりと着いたものだがさすがは炎を司るだけはある。


 だが会える… 遂に会えるのだ。


「スザク様?お客様をお連れしました」


 クジャクさんが声を掛けるとどこからともなく声が聞こえる… 姿は見えない。


「客人か?このスザクになんの用じゃ?」


 とても可愛らしい声だった、なのに凄く威厳を感じる。

 姿を見せずに声だけ、勿体ぶるじゃないですか?羽も美しくて声も可愛いだなんて反則だ。


 ではここは正直に想いの丈をぶつけるとしよう。


「今年からパークガイドの見習いとしてパークで働かせてもらっている者です!先日飛んでいるスザク様の姿を見てあまりの美しさに目を奪われてしまい、是非一度お会いしたいと思い伺いました!あとあのこれ!お口に合うかわかりませんが!」


 と手土産のイチゴ大福の箱を荷物から取り出したその瞬間だ… 本当にその直後だ。


「ほぅ手土産か!わかっておるではないか!どれどれはよう我に寄越さんか!」


 上から降りてきた?前から詰めてきた?よくわからないが目の前に美しい羽を持つピンク髪の女性が現れた、視界が彼女いっぱいになっている。


 そしてそれは本当に。


 本当に美しい姿だった。


「スザク様?初対面でそれはないんじゃないですか?」


「クジャクよ、わざわざ持ってきてくれたのじゃから早く貰ってやらんとならんのじゃ」


「本当にもぉ… じゃあお茶を淹れますね?」


 僕は彼女を前に何も言えずに口をパクパクとしていた。


 僕は瞬きもせずただイチゴ大福の箱を差し出したままそこに硬直してしまったが、スザク様はそんな僕のことなんか意にも介さず「くるしゅうないぞ♪」と箱を奪い取ってはウキウキと家?のようなとこへ歩いていった。


 あれ?家なんてあったっけ?


「何を突っ立とる?遠慮はいらん、さぁ上がるがよい」


「は、はい!失礼します!」


 フワリと揺れる尾羽は光を浴びてキラキラと輝いている、頭から生える両の翼も他のどの鳥の子とも違う神秘性を感じる。


 来てよかったぁ…。







 それから楽しい時間は過ぎていき無事家に帰ることができた、上機嫌のスザク様が送り届けてくれたのだ。


「さらばじゃ!それにしてもお主羽の手入れが上手いのぅ!クジャクのように引き抜くこともないので安心じゃ!また来るがよい!」


 そんな嬉しいお言葉を頂き、美しい尾羽をなびかせながら夕焼けの空の彼方へ消えていく… なんて絵になる光景だろう。


 いけない、ウットリしてまたボーッとしてしまった。



 ところで会ってみて印象が変わった。



 四神というからどんな方かと緊張していたら、これが意外と茶目っ気があり親しみやすいのだ。

 申し訳ないが正直話の方は何を言っているのか僕にはさっぱりわからなかったのだけど、僕としてはそんなことよりも彼女一挙一挙に夢中だった。

 

 何故なら、今日こうして近くで見ることでより美しいことにも気付いてしまったから。


 鳥としてだけではない、何かこう… 特別な美しさを感じたんだ。


 彼女は特別だ。





 あれから度々お土産を用意してはスザク様のところに顔を出している。


 体が勝手に暑苦しい火山へ向かう、険しい山道を飽きずに登ってしまう。


 疲れなんてない、スザク様に会えるなら。


「おぉよく来たのぅ!歓迎するぞ?」


「ありがとうございます、これどうぞ?」


「いつもいつもすまんのぅ… さすがの我もだんだん申し訳なくなってきたというものじゃ」


「いえ、好きでやってるんでどうかお気になさらず!」


 お互い慣れたものだった。


 僕が手土産と共に訪ねてはスザク様との会話を楽しみ、帰りは気を使ってかわざわざ寮まで送ってくれる。


 で今日もまたスザク様のありがたいお話を聞くことになった。


「…でのぉ?あの時は参った、手を出す訳にもいかずとてももどかしい気分だったのじゃ… 守護けものとは言うが、干渉できることは限られておってな」


 尤も彼女の話の半分以上は頭に入っていない、なんだか内容が難しいのもあるが大半は僕が常に彼女に見とれているからだ。


 元々お喋りな方なんだろう、それにこんなところで1人住んでいては来客も少ないだろうし、その為かこんなろくに内容を理解できていない僕にもニコニコと夢中になって話を聞かせてくれる。


 でもその間僕はずーっと…。


 スザク様のことを見ている、時に相槌を打ちつつ黙って彼女を見ている。


 前は羽にばかり目が行っていたはずなのに。


 今ではじっと彼女の目を見てしまう。


 吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な緑の宝石のような瞳、それが怪しい魅力で僕の視線を釘付けにしている。


「またボーッとしとるな?話しとる時はしっかり聞かんか!」


 だからこうして怒られることもしばしば。


「うーむ… しかしお主はよくボーッとしとるな?大丈夫か?やはりここは暑すぎるのではないか?」


 が… 今回は少し違う、遂に頭の心配をされてしまった。


 無論具合が悪いわけではない、確かに暑いが冷たい飲み物もある。


 僕はただそんなことよりスザク様に夢中なだけだ。


 大丈夫です。


 だからそう伝えたのだけど。


「そうか?あぁすまぬ、我は堅苦しいじゃろう?癖でな… つい聞かせて面白くもない話をタラタラと長く続けてしまう、このように暑いところで1人長話を聞かされてはボーッとするのも当然か… 実は結構お喋りでな?気付いてやれずにすまなかった」


 しまった、責任を感じさせてしまうとは。

 あなたは悪くないんですスザク様?すべて僕が…。


 いや強いて言うならあなたがあんまり綺麗で。


 魅力的だから…。


「違うんですスザク様、確かにボーッとしてたのは認めますけどそうじゃないんです」


 違う… だからそんな悲しい顔をしないでほしい、僕は笑ったあなたを見るのが好きだ。


 あなたには笑っていてほしいんだ。


 僕は知っています、あなたと過ごしてまだそれほど長い時間は経っていませんがそれでもある程度わかっているつもりです。

 

「ではやはり体調が良くないのではないか?無理はいかんぞ?無理してまでこんな険しいところに来ちゃいかん」


 そういう優しいところも、立場上普通の子のように遊んだりできないからつい手土産を欲しがるのも、本当は寂しがりだけど気丈に振る舞ってるところも。


 わかってる。


 わかってるつもりです。


「僕は元気です、有り余ってるくらいです、だからあなたの元にこうして顔を出します」


「それなら良いが… 顔も赤いぞ?本当に無理はしとらんのか?」


 無理なんかしてない…。

 好きでやってるんだから無理なんてない。


 好きでやってるってのはつまり…。


「あのスザク様?僕はスザク様と知り合ってそう長くはないですが、今日まであなたを見てきてある程度あなたのことをわかってるつもりです」


「うむ、実際お前は良き理解者じゃと我自身感じておる… 本来過干渉はよくないのじゃがな」


「ありがとうございます、それで… ボーッとしてるのはここが暑いからとかじゃありません、お喋りしてるスザク様は饒舌で楽しそうです、それでそんなスザク様を見ていて僕は気持ちが和むというか… どこか満たされています」


「そ、そんなに饒舌じゃったか…?話し相手がいるとついな」


 照れて頬を染める姿。


 これを何人のヒトやフレンズが見ることができるのだろう?もしかしたらクジャクさんですら知らないかもしれない。


 僕だけが彼女のその姿を知ってると思うと気持ちが独占的になっている。

 こう思う理由は一つ、認めた方が楽だ、隠していても無駄なんだ。


 僕はとてつもない無礼者なのかも知れない、でも彼女だって神やフレンズであると同時に女性なんだ。


 何度も足を運ぶ時点でもう決まっていたじゃないか?受け入れてしまえ。


「ボーッとしてたのはあなたに見とれていたからです、スザク様があんまり綺麗だから」 


「へぇあ!?何!?そうじゃったのか!?」


「失礼なのは承知です、でもこれ以上自分に嘘をつくこともできません… スザク様?」


「なななんじゃ…?」


 この時少しの沈黙。

 5秒くらいだったかもしれないしもっと短かったかもしれない。


 でもなんだかもっとずっと長かったように思える。


 この時僕は素直になり、それまで認めんと否定し隠していた気持ちを彼女に伝えてしまった。


「僕はスザク様のことが好きなんです、羽が綺麗とか神様だからとかフレンズだからとかじゃありません… 女性としてあなたを見ています!」


 そう、僕は彼女を愛してしまった。

 恋をしたのだ。


 だから面倒な山道を飽きずに登る、正直面白くもない話を黙って聞くこともできる。

 くそ暑い火山でも耐えられるし手土産を選ぶのも楽しい。


 あなたの嬉しそうな顔が見れるならなにも辛くはない。


 とっくに惚れていたんだ。


 一目惚れだったのかもしれない。


「何!?我に惚れたと申すか!?」


 驚いている、当然か?さすがの神様もこれには驚くか。


「ごめんなさい!だから話の内容はほとんど入ってません!なにせずっとスザク様の笑顔に見とれてましたから!」


「はぁぁぁ!?じゃあそんな理由でただ暑いだけでその上来るのも面倒なこの場所に度々訪れとったのか!?しかもわざわざ手土産なんぞ飽きずに用意しよってか!?」


 やはり失礼だろう、迷惑極まりないだろう、怒るだろう。

 当たり前だ、まずそれでも話はちゃんと聞けよという感じだ。


 きっと困らせているだろうし、辛い選択だがここに来るのはこれで最後になるかもしれない。


「見上げた根性じゃの?ま、まさか我にこんなことが起きるとは…」


「あの… 勢いで言っちゃいましたけど迷惑でしたよね?ごめんなさい、もう帰ります… 今日はちゃんと自分の足で」


 そうだ、彼女… スザク様は守護けもの、四神だ。


 無礼千万、もう会ってはいけない。


 サヨナラしないと…。


 そう思い席を立った時だ。


「まぁ待て…」


 優しい声であなたは僕を引き止める、でもなぜ?


「帰るならいつも通り送り届けよう、これは手土産の礼じゃ… 羽の手入れの分もな?気にするでない」


「でも…」


「まぁまず座らんか?我から言っておくことがある」


 そう言われては仕方がないとゆっくりと席に着くと、彼女は一呼吸終えてから僕にこんなことを言ったのだ。


「今度、夏祭りがあるな?その日は仕事か?」


「いえ担当ではないので、通常勤務です」


「ならば我と共に回らんか?いつも来てもらって悪い、我からそちらへ出向くぞ?」


 えっとこれはつまり…。

 

 あまり唐突なお誘いなので僕は返事を忘れていた、飛んで喜びたいがあまりにもビックリしたので声も態度も出てこない。


「我を好いておるのなら無論答えは決まっとるな?ではその日迎えに行くからしっかりめかし込んでおくように、なんと我から“デート”のお誘いじゃぞ?ほれもっと喜ばんか!言っとくがしっかりエスコートしてもらうぞ!」


「は、はい!?」


 えぇぇぇ!?なんかしらんけどやったぁぁ!?デートぉぉぉ!?女っ気0だった僕の為に四神スザク様がデートぉぉぉ!?


 うわぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?(浄化)






 どうなってんだよ。


 前回までのあらすじ、告白したらデートすることになった。


 うん、わからん。


 そういうわけなので僕は定時になるなりさっさと寮へ帰っている、同僚や先輩には何も言っていない。

 茶化されるのが嫌とかでなく多分言っても無駄だからだ、というかスザク様とデートとか新人がやらかしたようにしか見えないだろう。



 だが可能な限りお洒落をしたぞ、デートをするとなれば相手は四神と言えど女の子なのだ、デートの本とかも読んだし少女漫画も読んだ、覚悟は既にできている… さぁこい!大好きなスザク様!


 と寮の前で突っ立っている僕の前に音もなくフワリと影が降りてくる。

 来たな?わかるんだ、目を閉じていても美しさがわかる。


「待たせたか?いやぁすまぬ、着付けなど滅多にしないものだから尾羽のやり場に困ってな?」


「いえ全然大丈夫ですやっぱり大丈夫じゃないです」←高速手のひら返し


 なんで大丈夫じゃないってスザク様が偉く気合いを入れて来たからなのである。


「これ!そこは嘘でも大丈夫と言うところじゃろ!」


「だって!スザク様浴衣着てくるなんて聞いてませんよ!可愛い!似合いすぎ!」


「お、おぉそうか?なんだか面と向かって言われると照れるのぉ… しかしまぁ、今回はこのスザクが特別に浴衣を着てやったのじゃ?ありがたく思えよ?滅多に拝めんぞ?」


 開き直ってべた褒めしているが、今の僕の顔はスザク様の羽より赤そうだ。


 今日は僕の命日なのかもしれないな。





 みんなスザク様に驚いていたけどデート自体は案外普通なもので。


 二人で林檎飴とかワタアメ食べたり、他に射的なんてやってみたりとか。


 射的の時なんてスザク様ムキになっちゃって、頬を膨らませて散財する姿はなんだか普通の子とそう変わらなくて可愛いなー?なんて思った。


 でも金魚掬いを見た時「ここにサンドスターが落ちたらとんでもないことになりそうじゃのぅ…」とか言っていたけれど、多分神様ジョークだろう。ジョークですよね?


 えーっとそれから。






 一頻ひとしきり縁日を周り終えると静かなところで二人並んでかき氷を食べた。


 スザク様はやはりイチゴ、僕はメロン。


「一口貰えぬか?」


 と口を開けて待っているものだから覚悟を決めて震えた手で僕のかき氷を食べさせてあげた。


 あぁ間接のやつ… スザク様と。


 そんな風に思ってたのは僕だけなのだろう、スザク様は特に気にする様子もなく「美味い美味い」と笑っている。


 そんな姿にまた胸が苦しくなってしまう。


「なんじゃその顔は?楽しくないのか?」


「いえ、凄く楽しいです… 楽しいから、なんだか寂しくなってしまって」


「そうか…」


 そう、こんな時間は今回限りだ。


 もう二度とスザク様と並んで歩くなんてことはないのだろう、一夜限りの夢に過ぎないのだろう。


 そう思うと、天に昇るほど嬉しいはずなのに。


 寂しくて仕方なくなってしまった。


「そろそろ花火が上がる、ここならゆっくり見られる… デートはまだ終わっとらんぞ?」


「はい、すいません…」


 そう言われたのは、そんな僕の心も彼女にはお見通しだったということかもしれない。




 やがてヒューと甲高い音が鳴り響くと、すぐにバンッと夜空に大輪の花を咲かせ始めた。


 続けて何度も様々な形や色の花火が夜空を彩っていく。


「おぉ~悪くないのぅ?夜空に映える… 美しいと思わんか?」


 そう言われても僕はやっぱり上の空。

 夜空に咲く花よりも、もっと美しいと思うものが隣にあって空なんて見ちゃいない。


「スザク様の方が…」


「言わんでいい、照れるじゃろ?」


 スザク様の方が綺麗です。


 止められたので心の中で呟いておいた。





 鳴り響く花火に照らされながら、スザク様がやがてポツリと言う。


「先日の返事なのじゃが…」


 少し俯き彼女も話しにくそうにしていた。答えはわかりきっている… 僕だって今更駄々こねるつもりもないし、覚悟もできている。


 スザク様は言った。


「気持ちは嬉しい… やはり女としてはそうした好意を向けられるのも吝かではないのじゃ、お前とは気も合うし迷惑とも思っておらんよ?だから… 堅苦しいだけの我を好いてくれてありがとう」


 僕は一言「はい」と答え、そんな僕に彼女から続けて言葉が贈られる。


「だが我は守護けもの… 南方を守護する四神スザクじゃ、これは生まれついての我の役割… その立場である以上色恋にうつつを抜かす訳にはいかんのじゃ、だからお前の気持ちに答えることはできん…


 だから… ごめんなさい」


 わかっている、わかっていたので… 僕は涙を堪えてまた「はい」とだけ答えた。


 彼女を見れなくてぐっと夜空を見上げたけれど、視界はボヤけて花火なんか見えやしないし、雨も降ってないのに頬を雨垂れが伝う。


 二人の間に言葉が消え沈黙が流れる、破裂音が光の後に全身に響いてくる。


 お互い顔も見ていない。


 でも、一度花火が止まり空に静寂が訪れた時だ。


「もし… 我が普通の―――――――――


 え…?


 隣で彼女は何か呟いた、呟いたのだがちょうど花火もフィナーレに入り一斉に破裂音が鳴り響いた。


「今なにか…?」


 訪ねても彼女の視線は空を覆い尽くす花火へ向けられている、彼女の言葉が僕に届かなかったように僕の言葉は彼女に届くことはない。


 もしかすると気のせいだったのかもしれない。


 花火が止んだらそれっきりだ。



 さようなら、この世で一番美しい女性ひと

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けものフレンズ恋愛短編集 気分屋 @7117566

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