森の女王

 私はヘラジカだ、皆からは森の王などと呼ばれているがそんな大層な者ではない。


 ただ力比べが好きなだけのフレンズだ。


 見境なく相手を選んでいる様に見られているがそれは違う、直感で強いと感じたならその時に己の力を試しているのだ、怯えるフレンズに力を振りかざしたりはない。

 そしてその結果私が勝てば自分が相手より強かったということだし、負ければ自分よりも強い者がまだまだ溢れるほどいると知る切っ掛けになる。


 勿論勝てば嬉しいし負ければ悔しい、でもどちらも含めて力比べなのでどちらにせよ楽しいと思っている。

 


 そうして力を示すうちに仲間が集まってきた、皆はこんな私のような者を森の王と慕ってくれる大事な仲間。

 ただ力比べが好きだった私だが、こうして皆が森の王だと呼んでくれるのならそれ相応の存在であるように心掛けているつもりだ。


 誰にも言わないがプレッシャーは勿論ある、何度も言うが私はそんなに大層な者ではないし私より強い者などいくらでもいるからだ。


 だが私に言わせればこれもプレッシャーとの戦い、これに勝てた時私は更に強くなりまさに森の王を名乗れるのではないかとそう思っているのだ。


 力比べだと思えばプレッシャーも楽しめる、言うなれば自分との戦いというわけだ。


 



 そんな私の前に現れたヤツがいる、直感でわかる… こいつは強いとな。


 この直感は見た目で判断している訳ではない、所謂貫禄だとか雰囲気だとかで感じ取っている。

 

 なぜならこいつはヒトで見た目だけならとても力が強いようには見えない、足も早くないだろうし爪も牙もない、当たり前だが羽もない。

 とても弱そうだと皆が思うだろう、実際に何人もヒトを前にしてきたがどれも私の相手になるようには見えなかった。


 ヒトは打たれ弱く相手にはできない、だかこいつはどうだ?


 見た目こそ他のヒトとそう変わらないが何か底知れぬ物を感じる、いつかのライオンを初めて見た時の感覚と似ている。


「へいげんちほーのフレンズさんはこれで全員かなー?これから健康診断なので順番に並んでくださーい」


 全員を相手にしようと言うのか?なんという自信だ!一体何者なんだ!


 戦闘者として血が騒いだ私は集まる皆を押し退けそのヒトの元へ突撃した。

 勿論私が最初に戦おう、全力のヤツと戦うには一番最初に相手をする必要がある。


 加減などされては私が勝った時に満足できないのだから。


「ん?君は?」


 先頭に躍り出るとまるで物怖じしないこの態度で私を見ていた、堂々たるこの態度は強者の証。


 

 やぁやぁ私はヘラジカだぁ!いざ勝負だ!



 こちらも声高々に名乗りをあげると正々堂々勝負を申し込む、一体どんな戦い方をするんだろうか?楽しみで仕方がない。


 尤も私は相手がどんな戦い方をしようと。


 “真っ直ぐ突撃”する… それだけだ。


「ヘラジカさんか、元気なフレンズだなぁ?健康診断はする必要無さそうだが、君には言っておかなくてはならない」


 こちらに向き直すとじっと私の顔を見てきた、まるでハシビロコウのような鋭い目付きだ、やはり只者でないらしい。


 何がくる?どう仕掛ける?


 しかし楽しみにしていた私を前にヤツは言ったのだ。


「横入りはいかんな横入りは、みんなに迷惑を掛けちゃダメだ、ちゃんと後ろから並んで!ほら戻った戻った!」


 反論しようとしたが、後ろから来たシロサイ達に腕を掴まれ引き摺られながら列の後ろへ戻されていく、ひどいじゃないか?私はただ順番を待つと全力を出せないだろうと思っただけなのに。


「ヘラジカ様、戦いの順番待ちではありませんわ?」

「けんこーしんだんでござるよ?」


 けんこーしんだん… というのが戦いの方法かなにかかと思っていた私はそのまま仕方なく列に戻った。

 話によるとそうか、ヤツは皆が元気かどうかを調べに来たのか。


 わざわざその為に来るなんて優しいんだな、私もそういうところを周りから見習わなければ王になどなれない。





 やがて私の番が回ってきた、こうして改めて対峙するとこのヒトからでるオーラがわかる、やはり強い… 目を見ればわかる。


「随分元気だから問題ないだろうと思っていたけれど、君は力比べが好きなんだって?ライオンさんに聞いたよ… 何度も戦って怪我は無いかな?」


 ケガ?私が?


 そんなものはない、あったとしてもすぐに治っている。

 そして私の体は傷の1つや2つで根を上げるような軟弱な作りはしていない。


 そのまま伝えてやったんだ、だから心配ならいらないと。

 するとなにやら溜め息混じりにじっと目を見ながらヤツは言ってきた。


「あのね?小さな怪我の1つと侮ってはいけないよ?小さくたってたくさんあれば大きな傷になるし治りが悪いとそこから大事に繋がるかもしれない、でどうなの?何ともないのかい?」


 このヒトは、こんな言い方をしているが私を心配している。

 同時に自分の力を過信しすぎてはいつか足元を救われるぞと説教染みたことを言ってきている。


 何でもない… 本当に何でもないのでそう答えておいた。


「ならいいけど、あなたもフレンズである限り女性なんだ、戦いが好きなのは構わんがもっと自分を大事にするように、あなたが傷付くと悲しむ人がいることも忘れないでほしい、いいね? …では次の方どーぞ?」


 フム…。


 反論の余地もない、確かに私は一人で突っ走るタイプだ。

 それはライオン達との合戦でよくわかった、もっと仲間達との連携を取ればな何十回も負けることはなかったのだから。


 そんな私に付いてくれる仲間達、皆にはいつも心配を掛けていたのかもしれない。


 しかし、女性… 女性か。


 席を離れながら言葉の意味を考えていた、フレンズの特性故こうして角があるわけだが… 確かにそう、私はメスだ。

 フレンズになる前のことは知らない、オスだったのかもしれないしメスだったのかもしれない。

 だがヤツの言う通りフレンズである今の私はメス… 女だ。


 女とは、どういうものなのだろうか?考えたこともなかった。





「え?女って何かって?」


 ある日ふと思い出したのでライオンに尋ねてみた。

 特に理由はない、ただライオンは愛嬌がある、私よりもずっと女らしいのではないかと思っている。


「なんか変なこと聞いてくるねぇ?恋でもしてるのかぁ?」


 恋…?


 思いも寄らなかった、恋だって?私がか?


 メスとしてあるべき姿もよくわかっていない私が恋を?そんなことはないだろう、もっとよく考えてくれ。


 ライオンは時におかしなことを言う、今回もいつものように直感で適当なことを言ったのだろう。


「いやだってさぁ?メスとか女とかそんなのずっと意識してなかったんでしょ?でも今は意識してるじゃん?それってそういうことなんじゃないの?」


 言われてみればそう思えなくもない、何故だかライオンの言葉には不思議な説得力があった。


 確かに今までならどうだってよいことだった、そんなことより力を試したかった。


 強い… だが私はもっと強い… まだ強いのがいるのか… なら私だってもっと…。


 そうして競い合うのが楽しかったし、それだけで満足していた。


 変に考え込むこともそうなかった。


 なのに今は…。


「よくわなんないけどさぁ?女は恋をすると綺麗になるんだって?よく見たら最近のヘラジカは勝負勝負って言ってた時より可愛いかもね?本当に恋だったりして?相手は誰だぁ~?えぇおい?」


 からかってくるライオンに少しムキになり軽い運動程度に手合わせした、しかし妙なことを言われて雑念が混じっていたからだろうか?油断して負けてしまった、悔しいが明日はきっと勝つからな。





 またある別の日のことだ、私は偶然またあの時のヒトに出会った。


「やぁ奇遇だね… あぁそうか、君はこの辺に住んでいるんだったか?」


 今日も例のけんこーしんだんか何かの用事だろうか?気になったわけではないがせっかく会ったのだから話の種になればと思い尋ねてみた。


「いや今日は具合の悪そうな子がいると連絡を受けてね?しかし参った、迷ってしまったんだ… ラッキービーストともはぐれてしまってね?くそ、こうしている間にもフレンズが苦しんでいるというのに…」


 それは見過ごせないと私はそのフレンズの特徴を聞き道案内を買って出た。

 この辺りは私のナワバリだから隅々まで理解していることを伝えると、ヤツはホッと安心したような顔をして丁寧に礼を述べてきた。


「ありがとう、これで助けることができる!」


 おかしな男だと思った。


 自分だってあまりいい状況ではない、見知らぬ場所で一人道に迷っているのだから他人を心配している余裕など無いはずだ。


 なのにこのヒトは自分が帰ることよりもずっと深刻そうにフレンズを助けることを考えている。


 私がこの男に感じた強さとはこういうところだったのかもしれない。





 例のフレンズは拾い食いでお腹を壊していたらしい、今ヤツからなんでもかんでも口に放り込むなと説教をくらっている… この前私も色々言われたが、やはりこの男が怒る時は相手を想ってこその説教のようだ、言葉の節々に優しさがある。


「いやぁ~助かった!流石は森の王だ、この辺は君の庭みたいなものかな?」


 珍しく褒められると少しむず痒い感覚を覚えた、だが何度でも言うが私はそんな大層な存在ではない。

 皆はそう言ってくれるが私自身はそんなことを思っていないのだ、私程度の者が森の王などと烏滸がましい。


「ふふ、なんだい?王と呼ばれるのは不服かな?あぁすまない、女性なら女王と呼ぶべきだったか」


 違う、そういうことではない。


 この男はこうして冗談混じりに笑って話しているが、本当の私は王と呼ばれるのにプレッシャーを感じている。

 このプレッシャーに負けないように常に強気ではいるのだが、どうにも今日は弱る。


「どうしたんだい?悩みでもあるのかな?意外… と言うと失礼だが、そういうのは無縁だと思っていたから気になるな、良ければ聞こう?無理に話すこともないが」


 男は一旦立ち止まると落ち着いた余裕のある表情で私を見ていた、今まで誰にも言ったことはないし悟られたこともない… ライオンにだって話していないことだ。


 なのに何故だかこの男の前だと弱い部分を隠しきれなかった、今までなら笑って誤魔化したりできたのに。


 何故だか男の言葉は私の心の隙間にスッと入り込んできた。





 実は、私は皆が王と呼ぶような立派な存在ではない…。






 この時私は初めてこの悩みを人に話してしまった。


 本当はただ力比べが好きなだけで、ライオンのように皆を引っ張っていくような統率力なんてないんだ、証拠に合戦の時は何度も皆を負けに導いた。

 だから森の王だなんて名前は私には相応しくない、私はただのフレンズ… だけどそんな私を慕ってくれる皆の期待には答えたい、これは自分との戦い。

 私はここでこのプレッシャーには負けたくはない。


 でもいつか、皆に幻滅されるのではと不安になることもある。


 褒め称えられて、苦しくなってしまうことがある。



 彼は黙って聞いていてくれた、時折相槌を打ちながら私のつまらない悩みに耳を傾け真剣に聞いてくれていた。


 一緒に悩んで考えてくれた。


「なるほどな…」


 私からの話が済むと一言そう呟き、また私の顔を見た。


「こんなこと言うのも烏滸がましいが、君は何か勘違いしていないか?」


 特別意見を求めた訳ではなかったのだが、こうして何か考えてくれたのかと思うと嬉しく思った。

 同時に勘違いなどと言われ少しムッとしてしまったのも認める、あからさまに表情に出たのか「すまない」と小さく謝り話を続けてくれた。


「相応しくないとか、自分はそんな大層な者でないとか… もしそうだったら皆は君のことを森の王だなんて呼ばないよ?ヘラジカって普通に話しかけると思う

 でも皆が森の王だと呼ぶのはなぜだと思う?簡単なことさ、君自身はそう思ってなくても皆にとっては今の君が十分に森の王だからさ?」


 私は既に森の王だった?そんなはずはない、私自身に納得がいかない。


 こんな、ただ自分が楽しむ為だけに力比べばかりしてる私など…。


「良い指導者には自然と人が集まるものだ、君の周りのフレンズ達は君が無理に側に置いている訳ではないんだろう?よく慕われている、そんなに不安なら無理に森の王でいることないんだよ?だが覚えておくといい、彼女達が王と呼ぶ君とは本来の君自身だとね」


 肩が軽くなった気がした、何も重荷に感じることなどなかったのかと。

 




 それから道のあるところまで彼を案内するとそこにはボスがいた、彼を探していたらしい。


「ありがとう、ここからはこいつと帰るよ?心理学は専門ではないが次会う時にまた悩んでるようなら話くらいは聞こう、フレンズの健康や安心を守るのが我々の役目だ」


 見送る時、平原を夕陽が照らし黄金色に輝いていた。

 

 熱でも出ただろうか、何故だか胸が熱い。


 彼の背中を見届けると、火照った体を冷ますように優しい風が吹き抜けた。

 

 皆の元に帰ると言われたものだ。


「ヘラジカ様?顔が赤いですぅ!」


「風邪でもひいたんじゃ!」


「休んだ方がいい… と思う」


 夕陽のせいだろう?

 

 そう伝えながら大きく笑って誤魔化しておいたが、ハシビロコウがこっちをジッと見ている。

 察しのいいあの子のことだ、私の心にも既に気付いていたのかもしれない。





 それからある日、いつものようにライオン達とスポーツに興じていた時だ。

 一汗かいて皆と一休みしているとライオンが彼のことを話題に出した。


「そういえばあの先生ここ離れちゃうんだって?残念だよね~?話しやすくて気も利いていい人だったのに…」


 何だって?


 そんな話は聞いていない、確かなのだろうか?あれから数回会って話したがそんなことは一言も言わなかった。


「別のエリアのたんとー?になるんだってさ?大変なんだね、入れ代わりで別の先生が来るって… ねぇ?聞いてんの?」


 確かなのか…。


 動揺していた、そうなると皆を置いてここを離れるわけにはいかない私はもう彼に会うことは叶わない。

 あるとして、一体何年後の話になるのだろうか?それまで覚えていられるのか?私のような足りない頭で… 覚えていてくれるのか?私みたいな女を。



 出るのはいつだ?



 ライオンは続けて何か話していたが会話が頭に入ってこない、話の腰を折り私から尋ねた。


「確か… 今日!今日だよ!今日の仕事が済んだら夕方の船で出るんだって?」



 夕方だと?もう日が傾き始めているではないか!船なら港か?そうだな!



 思い立った私はその場にいる誰にも何も言わず走り出した、風を切り力強く大地を踏みしめ大きな一歩を踏み出した。



 真っ直ぐ… 真っ直ぐ港へ走る。


 森を越え山を越え雪も押し退け港へ走る。



 サヨナラも言わないなんて冷たいと思わないか?そんなことは私が許さん、この森の王ヘラジカが決して許さない。


 一言でいい、伝えなくてはならないことがある。





 こんなに必死に長く走ったのはいつぶりだろうか?流石に疲れた、体が重いし息も切れた。


 汗だくで肩で息をしながら顔を上げると海が見えた、大きな船が港に付いている。



 間に合った!



 力を振り絞り再度大地を駆けとうとう船の前までたどり着いた時、まさにその船に乗るであろう瞬間の彼を見付けては大声で呼び掛けた。



「オイッ!!!!」


 

 私の声に驚いたのかグラッと体勢を崩しながらこちらに気付いた様子だった、返事など待たず私は彼に言った。



「何も言わずに行くのか!お前と私はその程度の仲だったのか!」


 

 本音を言えば悲しかったし頭にきた、もっと深い仲だと思っていたからだ。

 皆やライオン達と同じように笑い合えるようなそんな仲だと…。


 だから尚更何も言わずに行ってしまうのが辛かった、訳を聞きたかった。


「走って来たのかい?平原から?大したもんだよ君は… ライオンさんに聞いたんだね?口止めしといたんだがな」


「何故だ!」


「顔を見ると足を止めてしまいそうだったからさ」


 私にはそれがどういう意味なのかよくわからなかったが、この際ヤツの下らん言い訳など聞くつもりはない。


 私は私の意見を通そうと思う。


「私と勝負してくれ!」


「なんだって?」


「お前が勝てばそのまま行くがいい!だが私が勝ったなら…!」


 一度大きく息を吸うと再度私は大きな声で叫んだ。


 自然と口から出た私の正直な気持ちだ。



「私が勝ったら!ずっと一緒にいてくれッ!!!」



 以前ライオンが言っていた恋というやつ。


 今更気付いたが、私は彼に恋をしていた。


 やはり私も女だったということなんだろう、こんなに胸が高鳴っているのは走ってきたからでないことくらいはわかる。


 彼は目を丸くしていた、偉く驚いた様子だ。

 そのまま早足でこちらに駆け寄ると私と向かい合い何も言わずこちらを見つめていた。


 何故、見つめられるとこんなにも苦しいのだろうか?

 何故、一緒にいると胸が高鳴り心が踊るのだろうか?


 やはりそういうことなんだろう… やっと気付いた。


「君と勝負しても、勝てるわけないだろ?」


「勝負から逃げるな!男だろう?」


「逃げるつもりならそのまま船に乗ったさ?降参するよ、君の勝ちだ… 同じ気持ちなのだから」


 それは、私はお前が好きでお前も私が好きだと言うことなのか?そんな事が都合よくあるのか?私はライオンのように愛嬌があるわけではない、シロサイのように品があるわけでもない、女性らしい者は他にもたくさんいただろうに… なぜ?


 彼は私を強く抱き締めると言ったのだ。


「君を愛してる… 本当はここを離れたくはないんだ、だから最後に君に会うことができなかったんだ?すまない、来てくれて嬉しいよ? でも行かなくてはならない、次のエリアでも助けを待つフレンズ達が大勢いるんだ、可能ならこの知識や能力を多くのフレンズ達に使っていきたい… だから行かなくてはならない、君と一緒にいたいし連れていきたいくらいだがそれはダメだ、君には仲間がいる、彼女達から君を奪えないよ?だからすまない… 本当にすまない」


 何も言えない、このまま私も着いていこう… だなんて考えも勿論あるが、仲間のことを言われるととても一歩を踏み出せない。



「だけどもし、もしもいつかまた会えるなら… その時まだ君が私と共にいたいと言ってくれるのならその時は…


 ずっと一緒にいよう?ダメかな?」



 もしもいつか… だと?

 ふざけたことを抜かすな。



「その言葉、忘れるなよ?」



 いつまでだって待ってやるさ、私は決して忘れたりしない。



 やがて彼を乗せた船が港を出ていった。



 自然に溢れた涙は頬を伝い、悲しみが心に雨を降らせている。





「はぁやっと追い付いた、早すぎるんだよ… どう?会えた?」


 遅れてきたライオン、もしかしたらお前は全てわかった上で敢えて彼の話をあの時したのか?尋ねたりはしないが、頭のいいお前のことだ、きっとそうなのだろう?


 そのまま何も言わず夕陽の沈む海を眺め続けた。


「何?泣いてんの?」


「いや… 潮風が目に染みたんだ」



 絶え間無く溢れる涙に私は誓う。





 また会おう、私が愛する人。

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