第25話 贅沢は味方
その少女は目が覚めると、まず最初にカーテンを開ける。
その後、顔を洗いに一階へ向かう。
途中、寝ぼけているのか軽く階段を踏み外す。
少女は洗面所の鏡を通して自分の顔を見る。
うっすらとクマが出来ていた。
それをなぞると少女はふふっと笑う。
こんなに苦しむならやめればいいのに。
日向に佑輝の振りをさせて何日目だろうか。
馬鹿みたいな遊びだ。
リオンで沙耶ちゃんに会ってから3日経っている。
あれから日向とは会っていない。
日向は来なくなった。
沙耶ちゃんとトラブルが起きたのかもしれない。
きっと沙耶ちゃんは日向が好きなんだろうな。
沙耶ちゃんから見て私はどう見えているのか。
頭がおかしくなった
精神を病んだ
結局、そんなの本人しか分からないよね。
まだ寝ぼけているのか思考がブチブチに切れる。
意識を掘り出すように顔を洗った。
顔を洗い、リビングに向かう。
冷蔵庫を開けると何も無かった。
ただあるのはお茶とお薬。
空っぽ。
部屋に帰って、ベッドに腰掛けた。
腰掛けてから、もう1度立ち上がってセカンドテーブルに飾った写真を手に取った。
そしてベッドに腰掛けた。
その写真は私を真ん中にして日向と佑輝の3人が写っていた。
そこに写る3人は皆、悩みの無さそうな笑顔だった。
今、この笑顔を日向も私も出来るかな。
出来ないよ。
もう一人の私がそう言った。
彼女はセカンドテーブルに手をついて立っていた。
「だってあなた、日向のお人好しを利用して日向を手に入れたじゃない」
彼女は私の隣に腰掛けた。
「日向を利用してあなたは寂しさを埋めた、想定外なのは佑輝の演技の向こうに日向が見えて、あなたが好きになってしまったことね」
やめてよ。
私の中の彼女は心を刺す真実を突き続けた。
「私はあなたが持ってる罪悪感の正体を言い続けてるのよ、やめてなんて都合の良いこと言わないで」
私は彼女の言葉を受け止めながら写真を眺めた。
「でもね」
彼女は変わって穏やかな声色で続けた。
「あなたが持ってる罪悪感は別に違法じゃないの、倫理とか道徳とか正義とかが勝手に決めた常識なのよ」
分かる、これはきっと悪魔的な言葉だ。
でもそれに甘えていたい。
私が日向を好きになったことは…
「何も悪くない、それはあなたが持ち合わせた権利。ある意味、最高の贅沢かもしれないわ」
私が日向を好きになって、お人好しを利用したまま日向と一緒にいるのは私の勝手なのよ。
「違法ではない悪いこと、最高で最低な贅沢」
ふふっと彼女は笑う。
「“贅沢は敵だ”とか“欲しがりません勝つまでは”とかそんな時代じゃないもんね、“贅沢は味方”、“欲しがるわ、誰だって”」
私は写真をセカンドテーブルへ無造作に放った。
きっと今の私を鏡越しで見たら、目の下のクマが似合う淀んだ目をした少女なんだと思う。
贅沢はするものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます