第24話 どうせ夢なので

夢を見た。




気づいたら僕は河川敷を歩いていて、佑輝が僕の歩く先であぐらをかいて座っていた。


「よっ、日向」


佑輝は笑っていた。


「何やってんの?」


僕は少しぶっきらぼうに佑輝に言った。




僕達は並んで河川敷を歩いた。


「久しぶりだな、こんな風に歩くの」


そう言って佑輝はハーフパンツのポケットに手を突っ込んだ。


「そうだね」


「なんかテンション低いなお前、久しぶりの佑輝君なのに」


「自分で言うかよ」






どれだけ歩いただろうか…。


「ほら、あそこ」


佑輝が突然ある場所を指さした。


「ん?」


「あそこ、俺の死んだ場所」


そこは僕の知ってる佑輝の逝った場所からズレていた。


「え?もう少し手前じゃないか?」


佑輝はへへっと笑って


「違うんだよ、俺が溺れ死んだことは確かなんだけどさ、どうやら流木に頭ぶつけて気を失っちゃったみたいで…」




そっか、だから僕が見つけられなかったんだ。


もうあの時、佑輝は水面から顔を出してなかったから…




「ごめん…佑輝、僕のせいで…」


それを聞いた佑輝は大笑いして


「ちげぇよ、お前のせいだって言いたいわけじゃねぇ。ただ…」




佑輝は自分の逝った場所を見ていた。


「ただ、楓を独りにしちゃったなってさ…」


佑輝はそう言って大きく息を吸った。


「それは僕も…そう思う…」




独りにしてしまったから、楓は少しだけ曲がってしまったんだと思う。




「覚えてるか?日向」


佑輝はふっと僕の顔を見た。


「お前、食堂で俺が楓と付き合うって言った時止めなかったろ?」


食堂で佑輝が僕にくれた猶予の時間、それを無駄にした時の話だ。


「あぁ…あれは…」


「ところでさ、日向はまだ楓のこと好きなの?」


僕は少し黙ってから言った。




「好き…だと思う」




佑輝は少し笑った。


「お前、楓のこと好きだったのは再会して、その…」


佑輝は少し言葉を濁した。


「いいよ、佑輝。言っちゃっても」


「すまん、再会して抱くまでだろ?」






僕は黙ってしまった。


「ごめん、こんなことダメって分かってるけど…僕ももう分からないんだ」


佑輝は歩く速さを緩めなかった。


「そりゃな…俺の振りして抱けってな…酷だよな」




「やめよう佑輝、こんな話」


「ダメだよ」


佑輝は真剣だった。


「今やめたらさ、たぶんお前が苦しむ」




佑輝はそんな奴だ。


自分の願望と相手の願望をすり合わせて考えるから、強い。




「死人に口なし、だ」


佑輝はそう言った。


「だってこれお前の夢だもん、俺自身はお前の想像なの」


「でもさ…」


「とにかく!」


佑輝は僕の言葉を遮って言った。


「楓のことはもう好きじゃないだろ?」


「…」


佑輝は大きくため息をついた。


「お前は成長したんだよ、楓も成長した」


でも、と佑輝は続けた。




「お前が好きな楓は昔の楓で、しかも今のお前が昔の楓の事が好きなわけじゃない、分かるか?」


「ごめん、ちょっと難しい」


佑輝は笑った。


「ちょっと今のは不親切だったな」


佑輝は少し黙ってから言った。


「昔の楓が好きなのは昔の日向、今の日向は昔の楓も今の楓も好きじゃないよ」






だからさ、お前はもう楓を好きになろうとしなくていい。


今までの後片付けして次に進めよ。


俺はもう居ないんだからさ。






気づくと佑輝が居なかった。


ただ、全てを壊してしまうんじゃないかと思うほど蝉は大きく鳴いていた。




久しぶりに蝉が鳴いた。




「ん…」


朝だった。


夢は覚めた。




階下で叔母さんが大きな声で言った。


「日向君?私今から祭りの打ち合わせで出るからー!」




「分かりました。行ってらっしゃい、叔母さん。」


僕は寝ぼけたままそう言った。




もうすぐお盆の祭りだった。


忘れてた。




起き上がって仕事の準備を始める。


「あ…」


今日仕事ないんだった。




その時にはもう夢のことなんて忘れてしまっていた。

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